詳細
調査を行ったのは、日本とアメリカによる共同研究チーム。チームは日本とアメリカの両国に暮らしている飼い主に対し、犬の行動特性を明らかにするときに用いられる「C-BARQ」と呼ばれるアンケート調査を行い、犬の持つ様々な属性が行動にどのような影響を及ぼすかを統計的に精査しました。その結果、アメリカからは10,389人・194犬種、日本からは2,789人・113犬種のデータが収集され、以下のような基本特性が明らかになりました。
こうしたデータから研究チームは、犬をペットショップで購入する機会が多く(40.7%)、また人気が小型犬に偏っている日本においては、そうした入手ルート自体が問題行動を悪化させるリスクファクターになっているという可能性を指摘しています。ちなみに、日本で得られた2,789人・113犬種のデータ中、全頭数の半分はラブラドールレトリバーと小~中型犬だけで構成されていたと言います。 Comparison of behavioral characteristics of dogs in the United States and Japan
犬の基本属性・日米比較
- 年齢中央値●アメリカ=3.00 ± 1.50歳
●日本=3.23 ± 1.46歳 - 不妊手術率●アメリカ=77.8%
●日本=63.8% - 体重●アメリカ=24.00 ± 9.50kg
●日本=7.00 ± 3.75kg - 入手時の年齢●アメリカ=12.00 ± 22.00週齢
●日本=8.00 ± 8.00週齢 - 主な入手先●アメリカ=ブリーダー42.4%/シェルター33.6%
●日本=ペットショップ40.7%/ブリーダー25.3%
12の行動特性
- 1=見知らぬ人への攻撃性
- 2=見知らぬ人への恐怖
- 3=分離不安
- 4=同居犬への攻撃性
- 5=過剰な活動性
- 6=無生物に対する恐怖
- 7=見知らぬ犬への恐怖
- 8=訓練性
- 9=見知らぬ犬への攻撃性
- 10=興奮しやすさ
- 11=愛着と注目を求める行動
- 12=家の近くを通る人への攻撃性
犬の属性と行動特性
- 国1、7、9を除く行動特性に関連。日本の犬は「同居犬への攻撃性」、「過剰な活動性」、「無生物に対する恐怖」の値が高い。
- 性別1、2、5、7、9、10に関連。オス犬は「見知らぬ人への攻撃性」、「過剰な活動性」、「見知らぬ犬への攻撃性」、「興奮しやすさ」の値が高い。
- 不妊手術の有無5、6、7、8、10に関連。手術していない犬は「無生物に対する恐怖」、「見知らぬ犬への恐怖」、「訓練性」の値が高い。
- 犬の飼育歴3、6、8、10に関連。飼育歴があると「訓練性」の値が高い。
- 保護施設からの引き取り6と7を除く10項目に関連。
- 友人や親戚からの引き取り1、4、5、9、10、12に関連。
- ペットショップでの購入1、4、5、7、8、10に関連。ブリーダーからの引き取りに比べ、「見知らぬ人への攻撃性」、「同居犬への攻撃性」、「過剰な活動性」、「見知らぬ犬への恐怖」、「興奮しやすさ」の値が高い。
- 体重4を除く11項目に関連。体重が軽い犬は「訓練性」を除くすべての項目で高い。
- 年齢3、4、6、8、9、11に関連。年齢が高いと「無生物に対する恐怖」、「訓練性」、「見知らぬ犬への攻撃性」の値が高い。
- 入手時の年齢1、2、4、8、9、10、12に関連。年齢が若いほど「見知らぬ人への攻撃性」、「同居犬への攻撃性」、「訓練性」、「見知らぬ犬への攻撃性」、「興奮しやすさ」、「家の近くを通る人への攻撃性」の値が高い。
こうしたデータから研究チームは、犬をペットショップで購入する機会が多く(40.7%)、また人気が小型犬に偏っている日本においては、そうした入手ルート自体が問題行動を悪化させるリスクファクターになっているという可能性を指摘しています。ちなみに、日本で得られた2,789人・113犬種のデータ中、全頭数の半分はラブラドールレトリバーと小~中型犬だけで構成されていたと言います。 Comparison of behavioral characteristics of dogs in the United States and Japan
解説
小型犬と問題行動の関連性に関しては一般的に「小型犬効果」と呼ばれ、過去に行われた様々な調査において、その普遍性が指摘されています。詳しくはこちらの記事をご参照ください。一方、犬の入手先と問題行動との関連性に関しては、早くも1994年にJogoeが「ペットショップから入手した犬では、支配性攻撃行動と社会性の恐怖心が高まる」と指摘しています。また近年行われた調査では2013年、Serpellらが「ペットショップ経由の犬は同居している人間、見知らぬ人間、他の犬に対する攻撃性が強い/他の犬や無生物に対する恐怖が強い/分離不安や粗相の問題が多い」との結論に至っています(→出典)。こうした調査結果は「早すぎる離乳は、犬の問題行動の直接的・間接的な原因になりうる」という主張を裏付ける実証データになり、日本における「8週齢問題」を議論するときの論拠になってくれるでしょう。
画像出典:Put an End to Animal Cruelty and Exploitation(Flickr)