詳細
和解交渉とは、集団で生活する社会的な動物で見られる行動の一種。資源や序列をめぐる争いの後、攻撃をした側や攻撃を受けた側が互いに歩み寄ることによって遺恨を解消し、それ以上の無益な争いを避けるために行われます。過去の研究で和解交渉が確認されている動物は、チンパンジーを始めとする霊長類のほか、ヤギ、ハンドウイルカ、ブチハイエナ、ミヤマガラス、ワタリガラスなどです。もちろん人間においても個人間レベルでは「仲直り」、国家間レベルでは「和平交渉」という形で和解交渉を行います。
今回の調査を行ったのはオーストリアにある獣医科大学のチーム。生後10日から5ヶ月齢までの期間、限りなく近い環境で育てられた狼と犬を観察対象とし、両動物種の間で和解交渉が存在しているのか、もし存在しているとしたらどのような特徴や違いがあるのかを検証しました。
調査対象となったのは狼4パック13頭と犬4パック13頭。 2013年1月から2015年3月の期間、「Wolf Science Center」に設けられた飼育エリア内における自由行動を観察し、敵対的な行動の後で見られる和解交渉の頻度、開始までのタイムラグ、持続時間、状況、決定因などを統計的に調べました。 狼を対象とした観察(合計523時間)と犬を対象とした観察(合計403時間)を精査した結果、狼と犬との間で、以下に述べるような違いが見られたと言います。
Simona Cafazzo, Sarah Marshall-Pescini, Martina Lazzaroni, Zsofia Viranyi, Friederike Range, R. Soc. open sci. 2018 5 171553; DOI: 10.1098/rsos.171553.
調査対象となったのは狼4パック13頭と犬4パック13頭。 2013年1月から2015年3月の期間、「Wolf Science Center」に設けられた飼育エリア内における自由行動を観察し、敵対的な行動の後で見られる和解交渉の頻度、開始までのタイムラグ、持続時間、状況、決定因などを統計的に調べました。 狼を対象とした観察(合計523時間)と犬を対象とした観察(合計403時間)を精査した結果、狼と犬との間で、以下に述べるような違いが見られたと言います。
狼
- 敵対行動=419回(0.8回/時間)
- 敵対後の交流=177回
- 激しい敵対後=59.3%(105回)
- 軽い敵対後=40.7%(72回)
- 食事がらみ=45回
- 食事以外=132回
- 決着=155回
- 未決着=22回
- 敵対後の和解行動=42.4%
- 非敵対後の和解行動=19.8%
- 和解行動は敵対直後の1分に多い
犬
- 敵対行動=55回(0.14回/時間)
- 敵対後の交流=30回
- 激しい敵対後=86.6%(28回)
- 軽い敵対後=12.4%(2回)
- 食事がらみ=6回
- 食事以外=24回
- 決着=27回
- 未決着=3回
- 敵対後の和解行動=23.3%
- 非敵対後の和解行動=26.7%
- 攻撃を受けた被害側は攻撃した加害側から距離を置く傾向が見られた
Simona Cafazzo, Sarah Marshall-Pescini, Martina Lazzaroni, Zsofia Viranyi, Friederike Range, R. Soc. open sci. 2018 5 171553; DOI: 10.1098/rsos.171553.
解説
狼における敵対行動が合計419回(0.8回/時間)確認されたのに対し、犬ではわずか55回(0.14回/時間)しか確認されませんでした。統計的な格差が認められたことから、犬は狼に比べてケンカ嫌いという気質を持っているのかもしれません。しかし体が接触するような激しい敵対に関しては、狼が59.3%だったのに対し犬では86.6%という高い確率で認められました。「ケンカは嫌いだけれども、一度ケンカに発展すると収拾がつかない」といったところでしょうか。
狼においては敵対後の和解行動が42.4%の確率で見られたのに対し、犬ではわずか23.3%でしか見られませんでした。その代わり、攻撃を受けた被害側は攻撃した加害側から距離を置く傾向が見られたといいます。こうした結果から調査チームは、犬は狼に比べて儀式的な和解交渉が下手であると指摘しています。観察対象となった狼と犬たちは限りなく近い環境下で育てられてきた個体です。にもかかわらず敵対行動後の行動様式に違いが確認されたことから、和解交渉は後天的な学習というよりも先天的な行動パターンとしての側面が強いのではないかと推測されています。
野生の狼でだけ見られ、犬ではほとんど見られない特徴には「グループハンティング」「複数の成犬が子犬を育てる」「協力し合ってテリトリーを守る」などがあります。こうした生活様式で重要となるのが仲間との和です。敵対行動後の和解交渉が狼において頻繁に見られた理由は、生存率を高めるためには崩れかけた和をすぐに修復しなければならないということを、遺伝子レベルで知っているからかもしれません。敵対行動後の1分間に仲直りが集中していたことからも、上記仮説の断片が見て取れます。
犬も狼も社会的動物で和を重んじると思われがちですが、細かい点で比較していくと少し違うようです。
犬と狼の敵対・和解行動
- 狼よくケンカをするけれども程度は軽く儀式的で、ケンカ後はすぐに仲直りをする
- 犬頻繁にケンカはしないけれども、始まると程度は激しく本気モードで、ケンカが終わった後も仲直りしようとせず距離を置く