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犬は人間の声に含まれる感情に合わせて右脳と左脳を使い分ける

 さまざまな感情を含んだ人間の声を犬に聞かせた所、感情がポジティブかネガティブかによって右脳と左脳を使い分けている可能性が示されました(2018.1.23/イタリア)。

詳細

 調査を行ったのはイタリア・バリ大学の研究チーム。文化や人種にかかわらず人類共通であると考えられている原始的な6つの感情(喜び | 悲しみ | 怒り | 嫌悪 | 驚き | 恐怖)を含んだ声を犬が聞いたとき、どのように反応するか確かめるため顔向けパラダイムと呼ばれる方法を用いて右脳と左脳の優位性を検証しました。
顔向けパラダイム
 被験者の前からさまざまな音を聞かせ、反射的に頭をどちらに向けるかを観察する実験。左を向いたときは右耳(左脳)を優先的に使い、右を向いたときは左耳(右脳)を優先的に使っているという理論が前提。
 脳は右半球と左半球とに分かれており、前者は主に負の感情、後者は主に理性や正の感情を司っている。よって負の感情(恐怖や緊張)が喚起された時は右半球が活性化して支配領域である体の左側が優先的に使われ、逆に理性や正の感情(うれしい・楽しい)が喚起された時は左半球が活性化して支配領域である体の右側が優先的に使われるはず。
 調査に参加したのは、国内でペットとして飼われている犬合計30頭(オス14+メス16/平均3.9歳)。空腹状態で実験室内に入り、餌を食べている時に犬を中点として等間隔に置かれた2つのスピーカーから感情を含んだ人間の声を同時に流し、犬が右を向くのか左を向くのかを観察しました。また同時に、特殊なベストを装着して実験中の心拍数などがモニタリングされ、事前にカタログ化された28の行動もカウントされました。その結果、以下のような傾向が浮かび上がってきたと言います。「%」はリアクションを示した犬の割合です。
人間の感情価と犬の脳処理
動物の半球機能差を調べるために用いられる顔向けパラダイム(head orienting paradigm)
  • 喜び笑い声 | 93.3% | 右耳を使う傾向が見られた(左半球優位)
  • 嫌悪えづく | 93.3% | 左右差は見られなかった
  • 驚きオー! | 90.0% | 左右差は見られなかった
  • 恐怖 金切り声 | 80.0% | 左耳を使う傾向が見られた(右半球優位)
  • 悲しみすすり泣き | 76.6% | 左耳を使う傾向が見られた(右半球優位)
  • 怒りうなり声 | 83.3% | 左耳を使う傾向が見られたが統計的に有意ではなかった
 こうした結果から調査チームは、犬は感情を含んだ人間の声に敏感に反応し、その反応の仕方には一定のパターンがあるとの可能性を示しました。
Lateralized behavior and cardiac activity of dogs in response to human emotional vocalizations
Scientific Reports 8, Article number: 77 (2018) doi:10.1038/s41598-017-18417-4

解説

 ポジティブな感情を処理するときは左半球が優先的に用いられ、ネガティブな感情を処理するときは右半球が優先的に用いられるという仮説は「感情価モデル」と言われます。過去に犬を対象として行われた調査により、この「感情価モデル」が犬にも存在している可能性が示されています。
犬と感情価モデル
  • 視覚的な情報蛇や攻撃的な姿勢を示した猫のシルエットを見せると顔を左に向ける(右半球優位) | 怒った人間の顔写真を見せると左側を見る(右半球優位)
  • 聴覚的な情報雷の音を聴いたとき顔を左側に向ける(右半球優位) | 他の犬が発する声を聞いたときは右側を向く(左半球優位)
  • 嗅覚的な情報飼い主に置き去りにされるという強いストレスがかかる状況下で犬が発散した匂いは右の鼻腔を用いて嗅ぐ(右半球優位)
 今回の調査でも、喜びの感情を含んだ声は左半球で、恐怖や悲しみといったネガティブな感情を含んだ声は右半球で処理されている可能性が強まりましたので、上記「感情価モデル」が追認された形になります。 犬の感情価モデル~右脳は負の感情で活性化し、左脳は正の感情で活性化する  ストレスの指標である心拍数や行動を観察したところ、怒りとか恐怖といったネガティブな音声を聞いたときにストレス関連行動が増える傾向が見られました。また飼い主の主観ベースで犬の性格を判断したとき、「見知らぬ人間に対する攻撃性が強い」と「非社会的な無生物に対する恐怖心が強い」犬においては高いストレスレベルが確認されたとも。人間で言うと、マンションの隣室から夫婦喧嘩の怒鳴り声が聞こえてくるような状況でしょうか。大声を聞かされている時点で不愉快ですが、声の内容がネガティブなときはその不快感がいっそう増すというものです。
 今回の調査により、犬は人間に備わっている原始的な感情を声を通じてある程度は聞き分けることができることが判明しました。ちょっと高めの声を出して呼ぶと犬が寄って来やすくなるのは、人間のポジティブな感情を読み取っているからかもしれません。また飼い主がすすり泣いている時、犬が近づいて鼻をすり寄せてくるのは、ただ単に聞き慣れない奇妙な声を発していることに興味をひかれたのではなく、そこに含まれている「悲しみ」というネガティブな感情を読み取ったからなのかもしれません。 犬は匂いによって右鼻と左鼻を使い分ける 犬にも利き手がある