詳細
調査を行ったのはエジンバラ大学を中心としたチーム。2009年9月から2014年8月の期間、疫学調査のための巨大な医療データベース「VetCompass Programme」にデータを提供している127のクリニックに協力を仰ぎ、 3歳未満の犬における死亡原因を調べました。イングランド全体の2.5%に相当する合計264,259頭分のデータを元に基本属性や危険因子を精査したところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。「望ましくない行動」(UB)には交通事故と犬の問題行動の両方が含まれます。
Boyd C, Jarvis S et al., Animal Welfare, Volume 27, Number 3, 1 August 2018, pp. 251-262(12), doi.org/10.7120/09627286.27.3.251
直接の死因
- 3歳未満の死亡数=1,574頭
- 安楽死=76.2%(984頭)
- 安楽死以外=32.8%(481頭)
- 不明=6.9%(109頭)
間接的な死因
- 死因が明確な3歳未満の死亡数=1,407頭
- UBを原因とする死=33.7%(474頭)
- UBが最初に記録された年齢は1.4歳
- 死亡年齢の中央値は1.5歳
- 体重中央値は14.5kg
UBの数(全体で474頭)
- 1つだけ=46.8%(364頭)
- 2つ=17.5%(83頭)
- 3つ=4.0%(19頭)
- 4つ=1.3%(6頭)
- 5つ=0.4%(2頭)
UBの具体的内容(全体で474頭)
- 攻撃行動=54.0%(256頭)
- 交通事故=39.0%(185頭)
- ペット間の争い=6.5%(31頭)
- 犬による攻撃=5.9%(28頭)
- 不安=5.3%(25頭)
- 診察に際して拘束が必要=5.1%(24頭)
- 過剰な興奮性=1.9%(9頭)
- 低い訓練性=1.9%(9頭)
- 破壊行動=1.5%(7頭)
- 無駄吠え=1.1%(5頭)
- 過剰な性的行動=0.8%(4頭)
- 不適切な排泄=0.8%(4頭)
死亡の危険因子(OR)
- 雑種=1.39
- KC:ユーティリティ、トイ、ワーキング、パストラル、テリアは低い
- 40kg以上=0.44
- コッカースパニエル=8.04
- ウエスティ=5.71
- スタッフィ=4.50
- ジャックラッセルテリア=2.69
- 雑種=2.62
- 1~2歳=5.42
- 2~3歳=4.21
- オス=1.40
- 不妊手術済み=1.94
Boyd C, Jarvis S et al., Animal Welfare, Volume 27, Number 3, 1 August 2018, pp. 251-262(12), doi.org/10.7120/09627286.27.3.251
解説
望ましくない行動を大まかに「交通事故」と「犬の問題行動」に分けると、前者が39%で後者が61%という割合です。望ましくない行動が原因で死亡した犬は33.7%ですので、そのうちの61%、すなわち全体の20%程度は「犬の問題行動」が原因で死んだことになります。つまり、3歳未満で死んだ犬のうち、およそ5頭に1頭は問題行動が原因で安楽死させられているということです。
イギリス全土に犬が800万頭いると仮定すると、年間66~67万頭が死に、そのうち9.6%(およそ6万4千頭)は3歳になる前に死ぬと推計されます。この頭数に上記した割合をかけ合わせると、イギリス国内では年間13,000頭超の犬たちが問題行動によって安楽死という憂き目に遭っていることになるでしょう。「動物愛護先進国」が聞いて呆れます。 望ましくない行動が原因で死亡した474頭のうち、飼い主が何らかのアドバイスを求めた割合はわずか12.9%(61頭)に過ぎませんでした。過去に行われた調査では、行動の専門家に指示を仰いだほうがUBが減る(Gazzano, 2008)とされていますので、もしもっとたくさんの飼い主が何らかのアドバイスを模索していたら、殺される犬の数が減っていたかもしれません。動物病院や獣医師を、そもそも問題行動のカウンセラーと考えていないことも背景にあるでしょう。 3歳未満の死に関し、いくつかの危険因子が指摘されました。犬の体重が40kg以上になると死亡リスクが減るのは、犬が望ましくない行動を取ってしまった場合、飼い主や他の人の生命を脅かす危険性があるからかもしれません。たとえば大型犬が人や他の犬に噛み付いてしまうなどです。こうした危険性を飼い主が認識しているため、予防に十分な投資している可能性が考えられます。たとえばあらかじめドッグトレーナーに預けて行動抑制をマスターさせるなどです。 2~3歳よりも1~2歳におけるリスクが高いようです。1歳未満の子犬時代においては単なる「いたずら」で済ませていたような行動が、1歳を超えて体が大きくなると共に急に問題行動にグレードアップしてしまった可能性がうかがえます。例えば自分の手を使って子犬をあやしていたけれども、歯が生えて噛む力が強くなるに連れ咬傷事故になるなどです。対処しきれなくなった飼い主が適切な解決方法を見つけられなかった場合、安易に「安楽死」という選択肢を選ぶ人もいるでしょう。 英国内限定ですが、3歳未満の犬における死因のうちおよそ20%は問題行動、およそ13%は交通事故だと推測されます。重要なのは、どちらも予防が可能だということです。問題行動の中でとりわけ多かった「攻撃行動」に関しては、臨床行動家と二人三脚で時間をかけて解決していく必要があるでしょう。間違った人材に犬を預けてしまうと逆に問題が悪化してしまいますので要注意です。例えば、キャパシティを越えた頭数の犬を預かり、全身をプロテクターで固めてボカスカ殴るだけの自称ドッグトレーナーなどです。1頭1頭に向き合う時間がないハンデを暴力で補い、「犬の命を救っているんだ」などという人間に頼ってはいけません。
イギリス全土に犬が800万頭いると仮定すると、年間66~67万頭が死に、そのうち9.6%(およそ6万4千頭)は3歳になる前に死ぬと推計されます。この頭数に上記した割合をかけ合わせると、イギリス国内では年間13,000頭超の犬たちが問題行動によって安楽死という憂き目に遭っていることになるでしょう。「動物愛護先進国」が聞いて呆れます。 望ましくない行動が原因で死亡した474頭のうち、飼い主が何らかのアドバイスを求めた割合はわずか12.9%(61頭)に過ぎませんでした。過去に行われた調査では、行動の専門家に指示を仰いだほうがUBが減る(Gazzano, 2008)とされていますので、もしもっとたくさんの飼い主が何らかのアドバイスを模索していたら、殺される犬の数が減っていたかもしれません。動物病院や獣医師を、そもそも問題行動のカウンセラーと考えていないことも背景にあるでしょう。 3歳未満の死に関し、いくつかの危険因子が指摘されました。犬の体重が40kg以上になると死亡リスクが減るのは、犬が望ましくない行動を取ってしまった場合、飼い主や他の人の生命を脅かす危険性があるからかもしれません。たとえば大型犬が人や他の犬に噛み付いてしまうなどです。こうした危険性を飼い主が認識しているため、予防に十分な投資している可能性が考えられます。たとえばあらかじめドッグトレーナーに預けて行動抑制をマスターさせるなどです。 2~3歳よりも1~2歳におけるリスクが高いようです。1歳未満の子犬時代においては単なる「いたずら」で済ませていたような行動が、1歳を超えて体が大きくなると共に急に問題行動にグレードアップしてしまった可能性がうかがえます。例えば自分の手を使って子犬をあやしていたけれども、歯が生えて噛む力が強くなるに連れ咬傷事故になるなどです。対処しきれなくなった飼い主が適切な解決方法を見つけられなかった場合、安易に「安楽死」という選択肢を選ぶ人もいるでしょう。 英国内限定ですが、3歳未満の犬における死因のうちおよそ20%は問題行動、およそ13%は交通事故だと推測されます。重要なのは、どちらも予防が可能だということです。問題行動の中でとりわけ多かった「攻撃行動」に関しては、臨床行動家と二人三脚で時間をかけて解決していく必要があるでしょう。間違った人材に犬を預けてしまうと逆に問題が悪化してしまいますので要注意です。例えば、キャパシティを越えた頭数の犬を預かり、全身をプロテクターで固めてボカスカ殴るだけの自称ドッグトレーナーなどです。1頭1頭に向き合う時間がないハンデを暴力で補い、「犬の命を救っているんだ」などという人間に頼ってはいけません。