詳細
調査を行ったのはオランダユトレヒト大学のチーム。ユトレヒト市の内外に散らばって存在する小売店で購入した8ブランド35種の「RMBD」(raw meat-based dietsの略称, 生肉主体の餌)を対象とし、一体どれくらいの割合で病原菌や寄生虫が含まれているかを調査しました。統一された方法で菌の培養などを行ったところ、以下のような確率で含まれていることが明らかになったといいます。
Freek P J van Bree et al., Veterinary Record (2018), doi: 10.1136/vr.104535
市販RMBDの病原体保有率
- 大腸菌・ESBL産生=80.0%
- リステリア・モノサイトゲネス=54.3%
- リステリア・その他=42.9%
- 肉胞子虫=22.9%
- 大腸菌・O-157=22.9%
- サルモネラ菌=20.0%
- トキソプラズマ=5.7%
Freek P J van Bree et al., Veterinary Record (2018), doi: 10.1136/vr.104535
解説
生肉主体の餌(raw meat-based diets, RMBD)の消費量はオランダ国内で少しずつ増えており、現在では犬の飼い主のうち51%が食餌の一部もしくはすべてをRMBDでまかなっていると推定されています。
生肉食を飼い主自身が用意してあげる場合は、肉屋から肉、肉の副産物(内臓部分)、骨などを購入して家庭で食べやすいように調理します。音の響きは悪いですが、こうした手作り食は時として「BARF」(Bones And Raw Food=骨と生食)と呼ばれます。一方、原料を仕入れるのが面倒な場合は、すでに食べやすいように加工された市販の生肉食を購入するというパターンもあります。今回の調査に対象になったのはこれらの市販品です。
加工されたドッグフードの代わりに生肉食を与える理由は飼い主によりけりですが、生肉食と明白な健康増進効果との関係性を実証した報告はなく、多くの人は「自然に近い食べ物がベスト」という常套句を盲信しているきらいがあります。一方、健康を悪化させる可能性については数多くの報告があり、過去には甲状腺機能亢進症、硬いものを飲み込むことによる歯の破折、消化管の穿孔といった可能性が指摘されています。また非常に多くの調査報告で、生肉食に高い確率で病原菌が含まれている危険性が指摘されています。そして今回の調査においても病原体汚染の事実が追認されました。
好気性バクテリア
35商品中、人間の食用肉の基準として設定されている好気性バクテリアの含有量「5×106cfu/g」を超えているものはなく、ギリギリ許容範囲とされる「5×105cfu/g」を超えているものは2商品だけ確認されました。含有率が高いけれども含有量が少ないといった見方もできるでしょう。一方、嫌気性菌に関しては犬や猫のみならず、人間にまで被害を及ぼしうる可能性があるようです。
病原性大腸菌
嫌気性の大腸菌に関しては40%(14/35商品)で人間用に設けられている最低基準「500cfu/g」をクリアできなかったといいます。7商品に関しては500cfu/g超、残りの7商品に関しては50~500cfu/gという結果でした。こうした数字は、人間の食用には適さないと判断されたクズ肉や肉の副産物を原料としたことによって高まったものと推測されます。
腸管出血性大腸菌O157は22.9%で確認されました。この病原菌は犬や猫ではそれほど重い症状を引き起こすことはありませんが、人間においてはわずか1cfuでも出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群(ファストフード店で多発することからハンバーガー症候群とも)といった重篤な症状引き起こすことがありますので十分な注意が必要でしょう。
ESBL産生性大腸菌は80.0%で確認されました。「ESBL」(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)とはペニシリン系、第1~4世代セフェム系、およびモノバクタム系の薬剤を分解する酵素のことで、ESBL産生菌とはこの酵素を体内で作り出す能力を持った多剤耐性菌の一種です。従来の抗生物質が効かないことから日本国内においても感染の拡大が懸念されています。
リステリア菌
リステリア・モノサイトゲネスはグラム陽性通性嫌気性の桿菌。今回の調査では54.3%の確率で検出されました。
犬や猫においては多くの場合無症状ですが、人間においてはインフルエンザ様の症状を引き起こすことがあります。また新生児、老人、病人といった免疫力が低下した人においては時として命を脅かすことがあり、妊婦においては流産の危険性もあります。2018年4月にはアメリカのペットフードメーカー「Santa Margarita」が製造するローフード「OC Raw Dog」が、リステリア菌に汚染されている疑いがあるとして700kg相当の商品をリコールするという騒ぎが起こりニュースにもなりました。 リステリア・モノサイトゲネス感染症とは(国立感染症研究所)
犬や猫においては多くの場合無症状ですが、人間においてはインフルエンザ様の症状を引き起こすことがあります。また新生児、老人、病人といった免疫力が低下した人においては時として命を脅かすことがあり、妊婦においては流産の危険性もあります。2018年4月にはアメリカのペットフードメーカー「Santa Margarita」が製造するローフード「OC Raw Dog」が、リステリア菌に汚染されている疑いがあるとして700kg相当の商品をリコールするという騒ぎが起こりニュースにもなりました。 リステリア・モノサイトゲネス感染症とは(国立感染症研究所)
サルモネラ菌
サルモネラはグラム陰性の通性嫌気性桿菌。今回の調査では20.0%の確率で検出されました。
細かいものまで含めると2,000以上の種類がありますが、臨床上問題となるのは、腸チフスあるいはパラチフスと呼ばれる消化器系の不調を引き起こす「チフス性サルモネラ」、および食中毒を引き起こす「食中毒性サルモネラ」です。犬や猫においては多くの場合無症状ですが、人間に感染した場合は腹痛、嘔吐、下痢、粘血便(食中毒性サルモネラ)、高熱、バラ疹、脾腫(チフス性サルモネラ)といった重篤な症状を引き起こします。
細かいものまで含めると2,000以上の種類がありますが、臨床上問題となるのは、腸チフスあるいはパラチフスと呼ばれる消化器系の不調を引き起こす「チフス性サルモネラ」、および食中毒を引き起こす「食中毒性サルモネラ」です。犬や猫においては多くの場合無症状ですが、人間に感染した場合は腹痛、嘔吐、下痢、粘血便(食中毒性サルモネラ)、高熱、バラ疹、脾腫(チフス性サルモネラ)といった重篤な症状を引き起こします。
トキソプラズマ
トキソプラズマは原虫の一種であるトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)が感染することで発症する病気
。今回の調査では5.7%の確率で検出されました。
犬や人間を中間宿主、猫を終宿主としているため、主に猫の糞便と接する機会が多い家庭においてはオーシストという形で感染してしまう危険性が生じます。しかしほぼ全ての哺乳類や鳥類がトキソプラズマの中間宿主になりえますので、それらの肉の中に「シスト」という形で潜んでいるトキソプラズマの方がよほど危険でしょう。つまり生肉のほうが感染リスクが高いということです。
犬や人間を中間宿主、猫を終宿主としているため、主に猫の糞便と接する機会が多い家庭においてはオーシストという形で感染してしまう危険性が生じます。しかしほぼ全ての哺乳類や鳥類がトキソプラズマの中間宿主になりえますので、それらの肉の中に「シスト」という形で潜んでいるトキソプラズマの方がよほど危険でしょう。つまり生肉のほうが感染リスクが高いということです。
生肉経由の感染予防法
病原菌や寄生虫は生肉食を通じて人間にも感染してしまう可能性を否定できません。8ブランド中7ブランドではパッケージに注意書きや取扱上の注意が記載されていなかったというのは驚きです。具体的には以下のようなルートを通じて人間の口に入ってしまうものと推測されますので、しっかり予防策を講じておきましょう。
病原体の感染ルート
- 汚染されたフードを直接触る
- 汚染フードを食べたペットを触る
- 汚染フードを食べたペットに手や顔を舐められる
- 汚染フードと接触したまな板や包丁で人間用の食材を触る
- 汚染フードと接触した食器を使う
- 汚染フードと接触したスポンジで人間用の食器を触る