詳細
調査を行ったのは、スウェーデンにあるヘルシンボリ病院を中心とする研究チーム。セファロスポリンと呼ばれる抗生物質に抵抗力を持つ「ESCRE」(広域スペクトル-セファロスポリン耐性型腸内細菌科)が、人間とペット犬の間で共有されているかどうかを確かめるため、菌を保有している世帯と保有していない世帯とを対象とした比較調査を行いました。選抜されたのは、犬の飼い主が「ESCRE」を保有していることが確認されている22世帯と、逆に「ESCRE」を保有していないことが確認されている29世帯。人と犬の両方から直腸スワブによって腸内細菌サンプルを採取し、その中に同系統の「ESCRE」が含まれているかどうかを遺伝的に精査しました。その結果、「ESCRE」陰性の世帯からは人間と犬の共有細菌が発見されなかったのに対し、「ESCRE」陽性の世帯からは、2世帯において遺伝的に全く同系統の「ESCRE」が発見されたと言います。
こうしたデータから調査チームは、「ESCRE」の保菌者がいる世帯においては、何らかのルートを通じて人間と犬が細菌を共有するようになるという現象を確認しました。犬における「ESCRE」の自然保菌率は0.1%程度と推測されているため、陽性世帯の犬において見出された9%という不自然に高い保菌率は、人間から犬に細菌が移ったことを示していると推測されています。 Evidence of household transfer of ESBL-/pAmpC-producing Enterobacteriaceae between humans and dogs - a pilot study
Oskar Ljungquist, Ditte Ljungquist, et al. 2016
こうしたデータから調査チームは、「ESCRE」の保菌者がいる世帯においては、何らかのルートを通じて人間と犬が細菌を共有するようになるという現象を確認しました。犬における「ESCRE」の自然保菌率は0.1%程度と推測されているため、陽性世帯の犬において見出された9%という不自然に高い保菌率は、人間から犬に細菌が移ったことを示していると推測されています。 Evidence of household transfer of ESBL-/pAmpC-producing Enterobacteriaceae between humans and dogs - a pilot study
Oskar Ljungquist, Ditte Ljungquist, et al. 2016
解説
生活空間を共有している人と犬の腸内細菌叢が近似化してくるという現象は、過去に行われた非常に多くの調査で確認されています。以下は一例です。
細菌近似化現象
今回の調査では、3歳未満の幼児のサンプルでのみ、細菌のコロニー化が認められました。幼児は衛生観念が低く、撫でる、キスをする、食器を共有するなど、ペット犬と密なコンタクトをとる機会が多いため、「人→犬」と「犬→人」という双方向性の細菌授受によって保有菌数が増えたものと推測されています。
「ESCRE」は病原性が低く、免疫力が正常な人ではほとんど症状を示しません。しかし老齢、若齢、ストレス、免疫抑制剤の服用といったきっかけによって日和見感染することがありますので要注意です。なお名前が示している通り、何らかの症状が出たとしてもセファロスポリン系の抗生物質は効きません。