詳細
調査を行ったのはチェコ生命科学大学のチーム。合計25頭の犬(オス12頭 | 14犬種 | 平均5.3歳)を対象とし、左右どちらか一方を偏好する「側性」(laterality)と方位とがどのように関連しあってるのかを検証しました。ドイツ(13頭 | 8ヶ所)とチェコ共和国(12頭 | 23ヶ所)国内にある複数の開けた場所を利用し、異なる2つの場所におやつを置いたとき、犬が自発的にどちらを選ぶかを1頭につき20回ずつ観察しました。おやつの具体的な置き場所は「北 vs 東」、「東 vs 南」、「南 vs 西」、「西 vs 北」という4パターンです。
その結果、北側に置かれたおやつを偏好する傾向が確認されたと言います。そしてこの傾向は、もう一方のおやつが東側に置かれているときにだけ顕著だったとも。さらにすべての犬が同様の偏好を示したわけではなく、以下のような属性を持った犬だけがとりわけ強い偏好を示したとのこと。
Adamkova J, Svoboda J, Benediktova K, Martini S, Novakova P, Tuma D, et al. (2017) PLoS ONE 12(9): e0185243, doi.org/10.1371/journal.pone.0185243
「北」を偏好する犬の属性
- 小~中型犬
- メス犬
- 年長の犬
- 側性を持つ犬
Adamkova J, Svoboda J, Benediktova K, Martini S, Novakova P, Tuma D, et al. (2017) PLoS ONE 12(9): e0185243, doi.org/10.1371/journal.pone.0185243
解説
犬の選択行動に影響を及ぼす因子としては風向き、太陽の位置、飼い主による無意識的なサイン、周囲のランドマークによる偶発的な強化などが考えられます。しかし今回の調査では、上記した因子の影響を可能な限り排除した状況で行われましたので、一部の犬で確認された偏好は純粋に地磁気によってもたらされたものだと想定されています。
犬に磁力を感じる「磁覚」というものがあるのかどうかに関してはいまだに議論が続いています。有名なところでは「地磁気が安定している時に排便する犬は、体軸を南北に合わせる」(→出典)という現象が報告されていますが、この行為に一体どのような意味があるのかに関してはよくわかっていません。今回の調査でも「東にあるおやつよりも北にあるおやつを偏好する」という傾向が確認されたものの、その適応的な意味に関しては不明のままです。また「小~中型」、「メス」、「年長」、「側性あり」という属性を持った犬でだけ確認された理由もさっぱりわかっていません。
興味深いのは、おやつが東と北に置かれている時だけ北側にある物を偏好する傾向が現れたという点です。「北」という方位に魅力があるのなら、もう1個のおやつがどの方角にあっても北が偏好されるはずです。逆に「東」がそんなに嫌いなら、もう1個のおやつがどの方角にあっても東が忌避されるはずです。しかし実際は、北と東のコンビネーションの時にだけ北側が優先的に選ばれました。この現象に生物学的な意味を見つけるのは難しいですが、「ノロジカは敵から逃げる時、東を忌避して北に向かう」といった事例から考えると、ただ単に何となく安心するといったフィーリングなのかもしれません。