詳細
調査を行ったのは、ドイツ・マックスプランク研究所を中心とした共同研究チーム。「クリプトクローム」(Cryptochrome)は微生物、植物、動物などが保有している青色の光を受容するタンパク質の一種で、日内リズムの調整のほか、特に鳥類では磁気センサーとしての役割を担っていると推測されています。研究チームは鳥類の眼球内にある「クリプトクローム1a」が哺乳動物の体内でも見つかるかどうかを確かめるため、さまざまな種に属する合計90種類の動物を対象とした大規模な調査を行いました。その結果、「クリプトクローム 1a」は見つからなかったものの、青色を感知する光受容器の中に「クリプトクローム1」という類似物質を見つけたと言います。しかし、すべての動物が保有していたわけではなく、イヌ、オオカミ、クマ、キツネ、アナグマ、オランウータンなど、ごく限られた種でのみ見出されたそうです。活性化した形の「クリプトクローム1」は、光を感じ取る錐体細胞の外側のセグメントでだけ発見されたという事実から、日内リズムを調整している可能性と、色の認識に関与している可能性が否定されました。その結果浮上してきたのが「地球上の磁気フィールドを感知している」という仮説です。
光と磁力が共存しているときにだけ眼球の中で活性化するというこの不思議な物質の謎が解明されれば、犬が時折見せる「帰巣本能」の謎や、ウンチをするとき南北に体軸を合わせる謎も明らかになるかもしれません。 Cryptochrome 1 in Retinal Cone Photoreceptors Suggests a Novel Functional Role in Mammals
光と磁力が共存しているときにだけ眼球の中で活性化するというこの不思議な物質の謎が解明されれば、犬が時折見せる「帰巣本能」の謎や、ウンチをするとき南北に体軸を合わせる謎も明らかになるかもしれません。 Cryptochrome 1 in Retinal Cone Photoreceptors Suggests a Novel Functional Role in Mammals
解説
磁気を感じ取る「磁覚」に関しては、かなり古くから研究されているにもかかわらず、いまだに確かな事はわかっていません。代表的なメカニズムとしては、暗闇の中で暮らすモグラなどが細胞内に持つ「磁鉄鉱」と呼ばれる物質が磁気センサーになっているというものがあります。また2015年、多くの哺乳動物が保有する線虫の一種「カエノラブディティス・エレガンス」(C. elegans)の脳内から「AFDニューロン」と呼ばれる磁気感受性細胞が発見されたことは記憶に新しいところです(→出典)。今回の研究では、眼球内に存在している「クリプトクローム1」が光と磁力を同時に受け取ったときに活性化し、未知のメカニズムを通じて「磁覚」として動物に体感されるという仮説が提唱されました。上記したようなメカニズムが犬に備わってるかどうかはまだわかりませんが、すべての犬が帰巣本能を持っているわけではありませんので、迷子にだけは注意しましょう。