詳細
膝蓋骨高位(Patella alta)とは膝のお皿が通常よりも高い位置に固定されている状態。特に大型犬に多く、膝蓋骨内側脱臼の隠れた原因になっているのではないかと考えられています。以下は右の膝関節を外側から見た模式図です。正常の位置に比べて高い場合は「高位」(alta)、低い場合は「低位」(baja)と呼ばれます。
今回の調査を行ったのはルブリン生命科学大学のチーム。ポーランド東部にあるルブリン県警察に所属しているジャーマンシェパード65頭(オス犬58頭 | 平均体重35.8kg | 平均年齢5.05歳)を対象とし、膝と骨盤のエックス線写真を撮影した上で、膝蓋骨高位の保有率および股関節形成不全との関連性を統計的に調査しました。膝蓋骨の位置を計測するときに用いられたのは「Johnson法」と「Mostafa法」という方法で、具体的な計算法は以下です。
こうした結果から調査チームは、ジャーマンシェパードにおいては膝蓋骨高位が15.4~27.0%という高い頻度で見られる事、および判定する際は目視が容易なMostafa法を用い、上限を「2.1」に設定するのが妥当だと推奨しています。つまりMostafa法で計測した時、膝蓋靭帯の長さが膝蓋骨の長さの2.1倍を超えるような場合は膝蓋骨高位であり、股関節形成不全の発症リスクが倍増すると言うことです。 Determination of reference values and frequency of occurrence of patella alta in German shepherd dogs: a retrospective study
Lojszczyk Szczepaniak et al. Acta Vet Scand (2017) 59:36, DOI 10.1186/s13028-017-0304-1
膝蓋骨高位の計測法
- Johnson法膝蓋靭帯(PLL)の長さを膝蓋骨の長さ(PL)で割ったときの値(PL/PLL)。ただし膝蓋靭帯は膝蓋骨下端から脛骨粗面の小さな凹みまでとする。
- Mostafa法膝蓋靭帯(PLL)の長さを膝蓋骨の長さ(PL)で割ったときの値(PL/PLL)。ただし膝蓋靭帯は膝蓋骨下端から脛骨粗面の突端までとする。
膝蓋骨の正常と高位
- Johnson法【正常】
77関節 | 範囲1.46~1.79 | 平均1.64
【膝蓋骨高位】
38関節 | 範囲1.72~2.1 | 平均1.93 - Mostafa法【正常】
82関節 | 範囲1.72~2.13 | 平均1.93
【膝蓋骨高位】
33関節 | 範囲2.02~2.45 | 平均2.24
こうした結果から調査チームは、ジャーマンシェパードにおいては膝蓋骨高位が15.4~27.0%という高い頻度で見られる事、および判定する際は目視が容易なMostafa法を用い、上限を「2.1」に設定するのが妥当だと推奨しています。つまりMostafa法で計測した時、膝蓋靭帯の長さが膝蓋骨の長さの2.1倍を超えるような場合は膝蓋骨高位であり、股関節形成不全の発症リスクが倍増すると言うことです。 Determination of reference values and frequency of occurrence of patella alta in German shepherd dogs: a retrospective study
Lojszczyk Szczepaniak et al. Acta Vet Scand (2017) 59:36, DOI 10.1186/s13028-017-0304-1
解説
膝蓋骨の位置異常は膝関節の様々な障害に直接的・間接的に関わっていると考えられています。例えば膝蓋骨高位(Patella alta)が大型犬の膝蓋骨内側脱臼、低位(Patella baja)が膝蓋骨外側脱臼の遠因になっているなどです。さらに膝蓋骨が大腿骨としっかりかみ合っていないことにより、潤滑液の分泌不全から摩擦係数が高まり、変形性関節症につながるといった可能性も考えられています。今回の調査では膝蓋骨高位が股関節形成不全(股異形成)の発症リスク増加と関わっていることが確認されました。これが単なる偶然の関係性なのか、それとも矢印で結べる因果関係なのかどうかは不明ですが、少なくともお皿の位置がずれていることで犬が健康になるということは無いようです。
過去に大型犬を対象として行われた調査では、 Johnson法で計測した時、臨床上健康な犬50頭の平均値が1.71、膝蓋骨内側脱臼を抱えた犬30頭の平均値が1.87となっており、「1.97」を膝蓋骨高位のボーダーラインとして設定するよう推奨されています(→出典)。しかしこの調査に参加した犬の合計が80頭と少なく、またさまざまな犬種が含まれているため、上記した値を小型犬や中型犬を含めたすべての犬の参照値として採用することはできないでしょう。同様に、今回の調査で得られた「Mostafa法で2.1」というボーダーラインは、ジャーマンシェパードにだけ適用したほうが無難だと考えられます。
この犬種においてなぜ膝蓋骨高位が15.4~27.0%という高い確率で見られるのかはわかりませんが、ここ数十年に渡って行われている見た目重視の選択繁殖が関わっていることは間違いないでしょう。ジャーマンシェパードを横から見たとき、腰や膝がいかに異常な位置に固定されているかが如実にわかります。