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犬の新しい血液型「Kai1」と「Kai2」が発見される

 犬の血液型は種類がたくさんあることで有名ですが、「Kai」という新しい血液型が発見されたことにより、ますますややこしくなりそうです(2017.7.13/韓国)。

詳細

 1974年、「International Society of Animal Genetics」が総括的な検証をして以来、犬の血液型は国際的に「DEA1・3・4・5・6・7・8」という7種類が認められています。しかし偶発的に発生する輸血の失敗例を通し、基本7種以外の血液型があるのではないかとかねてから予測されていました。その一例が「Dal」で、2016年に行われた最新の調査では、新しい血液型である可能性が極めて高いと報告されています(→詳細)。もう一つは「Kai」(1および2)で、2015年に北米で行われた大規模な調査では、従来の血液型とも新興の「Dal」とも違う、全く別系統の血液型であることが示唆され、さらなる調査が待たれていました(→出典)。 赤血球表面にある特定の分子構造が赤血球抗原  今回の調査を行ったのは、韓国・Daegu Haany Universityのチーム。「マウスハイブリドーマテクニック」と呼ばれる技術を用いて、赤血球の表面にある抗原タンパク「Kai1」と「Kai2」(※Kaiは韓国語で犬の意/日本の甲斐犬は関係ない)に特異的に反応する抗体(モノクローナル抗体)を作り出し、韓国国内に暮らしている203頭の犬(コリアンマスティフが中心)を対象とした大規模な調査を行いました。その結果わかった事実は以下です。
Kai1とKai2の特徴
  • Kai1の分子量は200kDa程度
  • Kai2の分子量は80kDa程度
  • 発現パターンは「Kai1有/Kai2無」、「Kai1無/Kai2有」、「Kai1無/Kai2無」の3つのみ
  • Kai1有/Kai2無=42%
  • Kai1無/Kai2有=37%
  • Kai1無/Kai2無=20%
  • Kai1も2も自然抗体は存在しない
  • Kai1無の犬にKai1有の血液を輸血すると抗体が形成される
  • Kai2無の犬にKai2有の血液を輸血すると抗体が形成される
 DEA1を始めとする従来の血液型とは全く別物であることから、偶発的な輸血の失敗にはこの「Kai」が関わっているのではないかと推測されています。また2度目に輸血する際は、クロスマッチ検査プロセスに「Kai」や「Dal」を入れることによって上記したような事故を予防できるとも。
Kai1 and Kai2: Characterization of these dog erythrocyte antigens by monoclonal antibodies
Lee JH, Giger U, Kim HY (2017) , PLoS ONE 12(6): e0179932, doi.org/10.1371/journal.pone.0179932

解説

 「Kai1」にしても「Kai2」にしても自然抗体は存在していないことが確認されていますので、初回の輸血で「Kai」が拒絶反応の原因になることはないと考えられます。しかし問題となるのは2度目の輸血時です。例えば輸血を受けた犬が「Kai1無」で輸血された血液が「Kai1有」だったとしましょう。初回の輸血で体内に「Kai1抗体」が形成されますので、以降、体内に「Kai1有」が入ってきたら、それを異物とみなして攻撃を開始してしまいます。供血犬の「Kai」を検査せずに2度目の輸血を行ってしまうと、Kai1抗体を保有している患犬に「Kai1有」の血液を輸血する危険性が生まれ、赤血球が凝集を起こして溶血につながってしてしまうかもしれません。これが散発的に報告されている輸血の失敗症例です。
 2015年、犬503頭を対象として北米で行われた調査、および今回の調査では、「Kai」の保有率に関し以下のような結果になっています。数値は北米・韓国の順です。
Kai保有率
  • Kai1有/Kai2無=94%/42%
  • Kai1無/Kai2有=1%/37%
  • Kai1無/Kai2無=5%/20%
 特に「Kai1有/Kai2無」という保有パターンが多いようですので、輸血に際して万全を期すためには、新しく発見された「Kai」および「Dal」の検査を、基本プロトコルとして組み込んでいく必要があると思われます。 犬の血液型 犬の輸血に際しては「Dal」抗原の有無が失敗の原因になりうる