詳細
調査を行ったのは、ペットの栄養と健康に関する調査を行う「WALTHAM® Centre for Pet Nutrition」のチーム。2008年から2009年の期間、イギリスのサリーにある獣医歯科専門病院を訪れた犬から合計92の歯垢サンプルを採取し、中に含まれる原生生物を調べました。調査対象となった犬の内訳は以下です。なお「軽度の歯周病」は病変部のアタッチメントロスが25%未満、「重度の歯周病」は最低4ヶ所の病変部のアタッチメントロスが25%~ 50%という基準で選別されています。詳しくは犬の歯周病をご参照ください。
こうした結果から調査チームは、歯周病の発症因子としては歯垢に含まれる細菌にばかり注意が集まりがちだが、細菌よりもサイズが大きい原生生物が何らかの関わりを持っている可能性も否定できないとの結論に至りました。ただし原生生物が歯周病の原因なのか、それとも結果なのかを断言するためには、さらなる調査が必要だとも。 The Prevalence of Canine Oral Protozoa and Their Association with Periodontal Disease.
Patel, N., Colyer, A., Harris, S., Holcombe, L. and Andrew, P. (2016), J. Eukaryot. Microbiol.. doi:10.1111/jeu.12359
歯垢採取の対象犬
- 健康=20頭(4.64歳)
- 歯肉炎=28頭(4.91歳)
- 軽度の歯周病=26頭(7.94歳)
- 重度の歯周病=18頭(10.00歳)
犬の口内の健康状態とトリコモナス属の歯垢内生息率
- 健康=3.51%
- 歯肉炎=2.84%
- 軽度の歯周病=6.07%
- 重度の歯周病=35.04%
犬の口内の健康状態とエントアメーバ属の歯垢内生息率
- 健康=0.013%
- 歯肉炎=0.014%
- 軽度の歯周病=0.80%
- 重度の歯周病=7.91%
こうした結果から調査チームは、歯周病の発症因子としては歯垢に含まれる細菌にばかり注意が集まりがちだが、細菌よりもサイズが大きい原生生物が何らかの関わりを持っている可能性も否定できないとの結論に至りました。ただし原生生物が歯周病の原因なのか、それとも結果なのかを断言するためには、さらなる調査が必要だとも。 The Prevalence of Canine Oral Protozoa and Their Association with Periodontal Disease.
Patel, N., Colyer, A., Harris, S., Holcombe, L. and Andrew, P. (2016), J. Eukaryot. Microbiol.. doi:10.1111/jeu.12359
解説
犬の口の中に原生生物がいるという事実はショッキングですが、人間も例外ではなく、トリコモナスは12.7~37%、エントアメーバは歯周病患者の37.6~81%が保有しているという推計もあります。特に「エントアメーバ・ジンジバリス」および「トリコモナス・テナックス」という2種類に関しては、半世紀以上も前から歯周病の発症に関わっているのではないかとの疑いが持たれています。
歯周病との関わりが疑われている口内原生生物
- エントアメーバ・ジンジバリス エントアメーバ・ジンジバリス(Entamoeba gingivalis)は、人間の歯周ポケット生息している直径20~150ミクロンの原生生物。形態はトロフォゾイト(栄養型)だけでシスト(嚢子)を形成せず、キスや食器の共有によって伝染すると考えられています。偽足によって歯周ポケット内を動き回り、白血球(多核好中球)の核を貪食します。核を抜かれた白血球は本来の機能を失い、タンパク質分解酵素を周辺組織に撒き散らし、これが歯周病の原因になっているのではないかと推測されています(→出典)。
- トリコモナス・テナックス トリコモナス・テナックス(Trichomonas tenax)は人間、犬、猫の口内に生息している原生生物の一種で、口腔トリコモナスとも言われています。健康な歯茎には生息しておらず、歯肉炎や歯周病の病変部においてアルカリホスファターゼ、フィブロネクチン、カテプシンといった物質を放出し、歯周組織にダメージを与えるているのではないかと推測されています。長さは12~20μm、幅は5~6 μm程度で、シスト(嚢子)を形成せず、粘膜同士の接触によってうつると考えられています(→出典)。