詳細
調査を行ったのはイギリスにあるSchool of Veterinary Medicineを中心としたチーム。2013年から2015年の期間、整形外科と神経系疾患の専門病院である「Fitzpatrick Referrals Orthopaedics and Neurology」でキアリ奇形に起因する脊髄空洞症と診断されたキャバリアキングチャールズスパニエルを対象とし、患犬でよく見られる「ファントム・スクラッチ」が一体何によって引き起こされているのかを検証しました。
両グループのMRI画像を詳細に比較していったところ、「スクラッチグループ」では脊髄分節C3~C6の背側4分円領域に病変を抱えている個体が統計的に多いことが判明したと言います。 こうした結果から調査チームは、脊髄空洞症の犬でよく見られる 「ファントム・スクラッチ」には、下肢から離れた頚髄の病変が関わっている可能性が高いとの結論に至りました。特にスクラッチグループの犬がC4分節の背側に空洞を持っていた割合が100%だったことから、この頚髄第4分節がファントム・スクラッチの発症メカニズムに最も大きな影響力を及ぼしていると推測されています。 MRI characteristics for “phantom” scratching in canine syringomyelia
Nalborczyk et al. BMC Veterinary Research (2017) 13:340, DOI 10.1186/s12917-017-1258-2
ファントム・スクラッチ
脊髄空洞症の定義を「MRIでキアリ奇形が確認され、なおかつ体液で充満した直径2mm以上の空洞が脊髄内部に認められる状態」とし、ファントムスクラッチの定義を「皮膚疾患がないにも関わらず運動や首筋に対する機械的な刺激で誘発される引っかき行動」としてスクリーニングしていったところ、最終的に脊髄空洞症でスクラッチが見られたグループ19頭(平均年齢5.0歳 | オス犬8頭)と、脊髄空洞症だけれどもスクラッチは見られなかったグループ18頭(平均年齢6.9歳 | オス犬11頭)が選考に残りました。両グループのMRI画像を詳細に比較していったところ、「スクラッチグループ」では脊髄分節C3~C6の背側4分円領域に病変を抱えている個体が統計的に多いことが判明したと言います。 こうした結果から調査チームは、脊髄空洞症の犬でよく見られる 「ファントム・スクラッチ」には、下肢から離れた頚髄の病変が関わっている可能性が高いとの結論に至りました。特にスクラッチグループの犬がC4分節の背側に空洞を持っていた割合が100%だったことから、この頚髄第4分節がファントム・スクラッチの発症メカニズムに最も大きな影響力を及ぼしていると推測されています。 MRI characteristics for “phantom” scratching in canine syringomyelia
Nalborczyk et al. BMC Veterinary Research (2017) 13:340, DOI 10.1186/s12917-017-1258-2
解説
キャバリアキングチャールズスパニエルにおいてファントムスクラッチが最初に報告されたのは1997年ですが、似たような症状に関しては早くも1906年、シェリントンが「Observations on the scratch-reflex in the spinal dog」という論文の中で報告しています。発症メカニズムは長らく謎でしたが、今回の調査により頚髄の上位分節が関わっている可能性が見えてきました。
脊髄を横断面で見た時、スクラッチグループで病変が見られたのは脊髄後角表層域(SDH)という領域です。この領域は皮膚からの触覚や痛み痒みを伝える役割を担っており、含まれる神経細胞はかゆみ受容器やヒスタミンとは独立した状態で活性化されるという特徴を持っています。
また脊髄を縦断面で見た時、スクラッチグループで病変が見られたのは頚髄C3~C4分節です。この領域は特に「C3-C4脊髄固有システム」(C3-C4 propriospinal system)と呼ばれており、腰髄や仙髄の中枢パターン発生器(CPG)に影響を及ぼしている可能性が示されています。
調査チームは、頚髄C3~C4分節の脊髄後角表層域が空洞化によってダメージを受け、おそらく下位ニューロンに対する抑制性の機能が障害を受けてスクラッチ行動が生まれるのだろうと推測しています。 ひっかき行動がファントムスクラッチなのかどうかを判断する際の目安は以下です。調査チームは、MRI検査した時、脊髄後角表層部に病変がないにもかかわらずスクラッチ動作が見られるような場合は、ファントムスクラッチ以外の理由を考慮するよう推奨しています。
調査チームは、頚髄C3~C4分節の脊髄後角表層域が空洞化によってダメージを受け、おそらく下位ニューロンに対する抑制性の機能が障害を受けてスクラッチ行動が生まれるのだろうと推測しています。 ひっかき行動がファントムスクラッチなのかどうかを判断する際の目安は以下です。調査チームは、MRI検査した時、脊髄後角表層部に病変がないにもかかわらずスクラッチ動作が見られるような場合は、ファントムスクラッチ以外の理由を考慮するよう推奨しています。
犬の耳かき行動いろいろ
- 痛みに起因するひっかき急な姿勢の転換、背中や頭や耳への刺激(こするとか引っかく)によって誘発され、その前後で声を上げる/足先が皮膚と接触する
- かゆみに起因する引っかき発赤や丘疹などの皮膚病変が認められる/足先が皮膚と接触する
- ファントムスクラッチ運動や皮膚への刺激で誘発されるが声は出さない/足先が皮膚と接触しない