詳細
調査を行ったのはイギリス・リンカーン大学の研究チーム。一般的にストレス行動の一種と考えられている犬の「口なめ」が、一体どのような状況において出やすいのかを検証するため、ペットとして飼われている犬17頭(オス9頭 | 2~7.5歳)を対象とした実験を行いました。大まかな手順は以下です。
犬を静かで薄暗い部屋に導き、目の前のスクリーンに「ネガティブな表情」(怒っている/攻撃的)と「ポジティブな表情」(笑っている/陽気)という2枚の写真を同時に見せる。写真のモデルは「犬」と「人間」の2パターン。写真を提示すると同時に、ポジティブなトーンとネガティブなトーンのどちらか一方を再生する。犬が置かれる具体的な状況は以下。
Albuquerque, Natalia, Guo, Kun, Wilkinson, Anna, Resende,Briseida, Mills, Daniel S., Behavioural Processes, doi.org/10.1016/j.beproc.2017.11.006
犬を用いた刺激
- ネガティブな顔ネガティブなトーン
- ネガティブな顔+ポジティブなトーン
- ネガティブな顔+中性的なノイズ
- ポジティブな顔+ネガティブなトーン
- ポジティブな顔+ポジティブなトーン
- ポジティブな顔+中性的なノイズ
人間を用いた刺激
- ネガティブな顔ネガティブなトーン
- ネガティブな顔+ポジティブなトーン
- ネガティブな顔+中性的なノイズ
- ポジティブな顔+ネガティブなトーン
- ポジティブな顔+ポジティブなトーン
- ポジティブな顔+中性的なノイズ
犬の口なめが出る状況
- 刺激がない時よりも刺激のある時の方が出やすい
- トーンよりも画像(顔)の方が出やすい
- 犬の画像よりも人の画像の方が出やすい
- ポジティブ画像よりもネガティブ画像の方が出やすい
Albuquerque, Natalia, Guo, Kun, Wilkinson, Anna, Resende,Briseida, Mills, Daniel S., Behavioural Processes, doi.org/10.1016/j.beproc.2017.11.006
解説
刺激がない時よりも刺激がある時の方が口なめが出やすいことが明らかになりました。この事実から口なめは単なる偶然の産物ではなく、何らかの意味や機能を持っている可能性がうかがえます。しかしこれだけでは一般的に言われているストレスサインなのかどうかまではわかりません。
ポジティブよりもネガティブな画像と接している時の方が出やすいことが明らかになりました。この事実から、口なめはやはり何らかのストレスを抱いた時に出るカーミングシグナルの一種である可能性が強まりました。
トーン(聴覚的刺激)よりも表情(視覚的刺激)の方が出やすいことが明らかになりました。過去に行われた調査では、犬は人間の顔である犬の顔であれ、ポジティブとネガティブを見分けることができることが示されています。聴覚的刺激よりも視覚的刺激に対して敏感に反応した理由は、使用する感覚の優先順位がそうなっているのかもしれませんし、人間と共同生活しているうちに目を多用するようになったからかもしれません。
犬の画像よりも人の画像の方が出やすいことが明らかになりました。通常であれば同種の動物(=犬)の顔や声に対する反応の方が強いはずですが、今回の調査では異種の動物(=人間)が関わる刺激に対して強い反応を示しました。人間と接触機会がないペット犬以外の野犬などを用いた比較実験をしないとわかりませんが、人間との共同生活によって「飼い主の顔色をうかがう」ことを学んだ結果なのかもしれません。
今回の調査結果をまとめると「犬の口なめ行動は人間がネガティブな顔を見せているときにとりわけ出やすい」となります。動画共有サイトなどでよく見かける「犬の反省顔」を見ると、確かに舌を出している様子が頻繁に観察されます。人間も失敗してストレスを感じたときにペロッと舌を出すことがありますが、犬の口なめもこの「テヘペロ」に近いのでしょうか?