詳細
調査を行ったのは、イタリア・ナポリ大学獣医学部のチーム。2016年4月から6月の期間、イタリア南部カンパニア州出身でアニマルセラピー活動を行っている犬74頭から糞便サンプルを採取し、ランブル鞭毛虫(Giardia duodenalis)のシストや線虫の卵を「FLOTAC」と呼ばれる技術によって検出しました。その結果、以下のような保有率になったといいます。
Federica Gerardi, Antonio Santaniello, Luisa Del Prete, Maria Paola Maurelli, Lucia Francesca Menna & Laura Rinaldi (2017): , Italian Journal of Animal Science, DOI: 10.1080/1828051X.2017.1344937
- ランブル鞭毛虫=10.8%
- イヌ鞭虫=9.5%
- イヌ回虫=4.1%
- 鉤虫=1.4%
Federica Gerardi, Antonio Santaniello, Luisa Del Prete, Maria Paola Maurelli, Lucia Francesca Menna & Laura Rinaldi (2017): , Italian Journal of Animal Science, DOI: 10.1080/1828051X.2017.1344937
解説
近年行われた調査によると、ランブル鞭毛虫は8つのサブグループに分かれ、そのうち「アセンブラージA」と「アセンブラージB」と呼ばれるものが人間への感染能を保有しており、人獣共通感染症としての側面を持っているとされています(→出典)。
今回の調査に参加した犬たちは年1回の駆虫を受けていましたが、10.8%という高い確率でランブル鞭毛虫のシストを保有していました。こうした事実から、たとえ駆虫治療を受けていても、何らかのルートを通じて体内に入ってしまう可能性は否定できないようです。具体的には散歩中の糞便の誤飲、ドッグパークで汚れた足の不十分な洗浄などが考えられます。
2017年6月、入院中の祖母を見舞うため、病院に内緒で祖母が大好きな犬を院内に連れ込むという出来事がありました(→出典)。この話を聞きつけたマスコミは無責任にも、「やさしい孫娘によるサプライズプレゼント」といった感じで美談に仕立ててしまいましたが、今回の調査結果を踏まえて考えると、祖母のみならず不特定多数の入院患者を寄生虫の危険にさらす無責任この上ない行動と言えます。万が一犬が病院内で催したら、一体どうするつもりだったのでしょうか?
2017年6月にアメリカ・タフツ大学が公開した資料では、病院の4%、老人介護施設の22%が、セラピードッグの訪問に際して明確なポリシーを持っていないと報告されています(→出典)。アニマルセラピーは免疫力が比較的弱い子供や病人を対象として行われることが大半です。通常の人間と同じ体力や抵抗力を想定してガイドラインの作成を怠っていると、セラピーどころか逆に対象者を不健康にしてしまう可能性を否定できません。動物がもたらす癒し効果を最大限に高めるためには、前提として人獣共通感染症の可能性をできる限り排除しておくことが重要でしょう。