詳細
「ポケモンGO」(PokemonGO)は2016年、ナイアンティックと株式会社ポケモンによって共同開発されたスマートフォン向けゲーム。現実世界(実在する地図)と虚構の世界(ポケモンキャラクター)をデバイス上で融合する「拡張現実」(augmented reality, AR)と呼ばれるコンセプトが採用されており、プレーヤーが屋外に出かけて体を動かしながらキャラクターを捕まえるというのが大きな特徴です。
ゲームのリリースからしばらくしたころ、大の大人がたった1人でゲームをするのは少し恥ずかしいけれども、犬を連れていれば「散歩のついでにゲームをしているだけです」という言い訳が効くので、犬の散歩をする人が増えたといった逸話がちらほら聞かれ始めました。しかしゲームと犬の散歩との関連性を客観的なデータによって実証した人はいませんでした。
今回の調査を行ったのはコロラド州立大学を中心とした共同チーム。2016年8月、アメリカ国内に暮らす18歳以上の犬の飼い主を対象とし、ポケモンGOを始める前と後で「運動量」、「不安の度合い」、「家族との交流」にどのような変化がもたらされたかを匿名のアンケート調査を通して統計的に検証しました。その結果、以下のような傾向が明らかになったといいます。
Kogan L., Hellyer P., Duncan C. & Schoenfeld-Tacher R., Computers in Human Behavior (2017), doi: 10.1016/j.chb.2017.07.043.
今回の調査を行ったのはコロラド州立大学を中心とした共同チーム。2016年8月、アメリカ国内に暮らす18歳以上の犬の飼い主を対象とし、ポケモンGOを始める前と後で「運動量」、「不安の度合い」、「家族との交流」にどのような変化がもたらされたかを匿名のアンケート調査を通して統計的に検証しました。その結果、以下のような傾向が明らかになったといいます。
基本属性(269人)
- 女性=68.0%
- 男性=32.0%
- 18~29歳=44.2%
- 30~39歳=29.0%
- 40~49歳=11.9%
- 50 歳以上=14.9%
- 白人=79.9%
- 黒人=7.1%
- ヒスパニック=7.8%
- アジア=4.8%
交流
- 家族との交流が増えた=43.2%
- 犬と一緒にいる時間が増えた=52.3%
- 犬を散歩する時間が増えた=62.9%
不安
- 外出時の不安が減った=38.6%
- 他人と交流する際の不安が減った=39.7%
- 初めての場所に行く際の不安が減った=39.4%
運動量
- 歩く=大幅に上昇(※下グラフ)
- 走る=中等度に上昇
- 自転車=小幅に上昇
- スケート=小幅に上昇
Kogan L., Hellyer P., Duncan C. & Schoenfeld-Tacher R., Computers in Human Behavior (2017), doi: 10.1016/j.chb.2017.07.043.
解説
過去に行われた調査では、ポケモンGOをプレーすることによって身体活動量が増加する、社会的な交流が増加する、共同体意識が芽生える、親子の絆が強まる、気分を向上させるといったさまざまな変化が生じると報告されています。
運動量
ポケモンキャラクターを捕まえるため44%が歴史的な名所を、24%が宗教的な建築物を初めて訪れたといった報告があります(Takahasi, 2016)。また25%のプレーヤーが始まる前よりも運動量が増えたと報告し、43%のプレーヤーはゲームを始めてから体重が平均して1.5kg減ったといったデータもあります。今回の調査でも、特に歩行量の増加に役立っていることが明らかになりました。
ゲームがプレイヤーの運動量を増やしていることは間違いないようですが、こうした変化は時間の経過とともに薄れていき、およそ6週間で元の状態に戻るという報告もあります。運動量に対する効果は継続してプレーしない限り一過性で終わってしまうでしょう。
ゲームがプレイヤーの運動量を増やしていることは間違いないようですが、こうした変化は時間の経過とともに薄れていき、およそ6週間で元の状態に戻るという報告もあります。運動量に対する効果は継続してプレーしない限り一過性で終わってしまうでしょう。
他者との交流
74%のプレーヤーは1人でプレイするよりも複数でプレーすることを好み、52%のプレーヤーは友人や知人が増えたという報告があります。また日本で行われた調査では、引きこもりの人が外に出るきっかけになるという可能性が示唆されています(Tateno et al., 2016)。今回の調査でも43.2%の人が「家族との交流が増えた」と回答していますので、ゲームの話題がコミュニケーションの潤滑剤になっている可能性が感じられます。社会的なつながりの喪失が死亡率を高めるといった怖い報告もありますので、もしゲームが社会的サポートにつながってくれるなら、その存在意義は想像以上に大きいと考えるべきでしょう。
不安
アメリカ国内では人口の18%に相当するおよそ4,000万人が不安障害を抱えており、関連医療費は1996年から2013年の期間で3倍に増加したという統計があります。今回の調査では、プレーヤーのおよそ4割がゲームを始める前よりも不安を感じなくなったと回答していますので、ポケモンGOが持つ精神衛生上の効果も無視できません。
犬の散歩
今回の調査では、ポケモンGOと犬の散歩の関係性が初めて調査項目に加えられ、52.3%
が「犬と一緒にいる時間が増えた」と回答し、62.9%が「犬を散歩する時間が増えた」と回答しています。犬を散歩する頻度が増えた理由に関しては「外に行くついでに犬の散歩をする」、「ひとりでうろうろしていると怪しまれるので犬を緩衝材にする」、「ひとりでプレーするのは恥ずかしいので犬の散歩を口実にする」などが考えられますが定かなことは分かっていません。調査チームは、人間の運動量を増やすのみならず、犬の運動量も増やしてくれるので一石二鳥であるといった意見を述べていますが、懸念されるのは散歩のクオリティです。
ゲーム画面に気をとられて事故を起こしてしまったという事件がたびたび報道されます(→出典)。こうした事件と同様、ゲームに夢中になるあまり犬のことほったらかしにすると、誤飲誤食、咬傷、逸走、車や自転車との接触といった、本来なら十分に予防可能なアクシデントに見舞われてしまう可能性が大です。また。飼い主の長距離移動に付き合わされて犬の方がばててしまうということも考えられます。特に夏場や体力の少ない小型犬、体温調整が苦手な短頭種などでは注意が必要でしょう。