トップ2017年・犬ニュース一覧4月の犬ニュース4月20日

オス犬の精巣腫瘍にはエストロゲン受容器α(ERα)の異常発現が関与しているかも

 チワワでは20%とも言われるオス犬の「潜在精巣」は、女性ホルモン受容器の異常によって精巣腫瘍のリスクを10倍以上に高めるかもしれません(2017.4.20/韓国)。

詳細

 調査を行ったのは、韓国にあるソウル国立大学の獣医学チーム。片側性の潜在精巣(精巣が正常な位置にない状態のこと)を持つ生後18ヶ月のジャーマンシェパードから、正常と異常両方の精巣を摘出し、エストロゲン受容器α(ERα)とプロゲステロン受容器(PR)の発現様式に違いがあるかどうかを比較しました。
エストロゲン受容器
 女性ホルモンの一種「エストロゲン」は主として脂肪細胞で産生され、2種類の受容器(ERαと ERβ)は精巣を含めたほとんどすべての細胞に存在している。ERα受容器がないオスのマウスは不妊になるため、精巣内において何らかの形で生殖能力の維持に関与していると推測されている。
 検査の結果、以下のような相違点が発見されたと言います。
正常精巣と潜在精巣
  • 正常な精巣ERαの免疫反応が精細管の間質部分(ライディッヒ細胞内)で発見された/ERαの免疫反応は潜在精巣に比べて極めて弱かった/プロゲステロンの免疫反応は精子細胞でのみ発見された
  • 潜在精巣ERαの免疫反応は精細管の間質部分(ライディッヒ細胞)および基底部(セルトリ細胞)の両方で発見された/ERαの免疫反応は正常な精巣に比べて極めて強かった/プロゲステロンの免疫反応は一切検知できなかった
 こうした事実から調査チームは、エストロゲン(中でも特に最も強い生理活性を持つエストラジオール)によって、潜在精巣の精細管内におけるERαの発現が高まるのではないかという仮説に行き着きました。また、本来あるべきではない異所性のERαが、精細管内部のセルトリ細胞で発現することが、セルトリ細胞腫の原因ではないかとも。
Differential expression of estrogen receptor α and progesterone receptor in the normal and cryptorchid testis of a dog
Jung HY, Yoo DY, Jo YK, et al. Laboratory Animal Research. 2016;32(2):128-132. doi:10.5625/lar.2016.32.2.128.

解説

 オス犬の潜在精巣は犬種によって発症率にばらつきがあり、チワワボクサーでは20~30%とも言われています(→出典)。 犬の潜在精巣~陰嚢内に降下した左の精巣と、鼠径部にとどまった右の精巣  また正常な位置にまで下降しきれなかった精巣は、セルトリ細胞腫の発症リスクを13~14倍に高め、さらにそのうちの10~14%は悪性化するというデータもあります。犬に去勢手術を施している場合は大体その時に発見されますが、手術の機会がない場合は、ずっと気づかれないまま放置されることもしばしばです。未去勢のチワワを飼っている方は、一度確認してみると良いのではないでしょうか。 犬の不妊手術 オス犬の精巣腫瘍