詳細
調査を行ったのは、イギリスにある小動物研究センターのチーム。2000年1月から2011年12月までの期間、イギリス国内のケネルクラブに登録されている合計1192頭のイタリアンスピノーネの飼い主に対して調査票を送り、最終的に47頭の患犬に関する情報を収集しました。用語の定義と主な結果は以下です。
Luisa De Risio, Julia Freeman et al. 2016
用語の定義
- イタリアンスピノーネイタリアンスピノーネはイタリアのピーモント地方を原産国とする猟犬の一種。イギリス国内における犬全体の特発性てんかんの有病率が0.6%であるのに対し、この犬種の有病率は5.3%とかなり高い値になっているため調査対象として選ばれた。
- 特発性てんかん生後6ヶ月から6歳の犬において、24時間以上の間隔をあけて複数回の再発性てんかん発作が起こること。また発作間に行われた身体的・神経学的検査で異常が見られず、血液や生化学検査の結果が正常範囲内であること。
- てんかん群発発作24時間以内に複数回のてんかん発作が起こり、発作間は完全に意識が回復すること。
- てんかん重積てんかん発作が5分以上持続したり、発作自体は短くても、発作間の意識の回復が不十分なこと。
患犬の基本情報
- オス犬が31頭(66%)でそのうち16頭は去勢済み
- メス犬が16頭(34%)でそのうち11頭は避妊済
- 最初の発作が起こった時の平均年齢は39ヶ月齢
- 最初に発作が起こってから調査が終了するまで、もしくは犬が死亡するまでの中央値は35ヶ月間
- てんかん群発発作は34頭(72%)
- てんかん重積は10頭(21%)
- 調査開始前3ヶ月間における平均発作回数は8回(中央値では5回)
- 発作が見られなかったのは9頭だけ
てんかん治療について
- 抗てんかん薬なしは3頭(6%)
- 1~2種類の抗てんかん薬服用は32頭(68%)
- 3種類以上の抗てんかん薬服用は12頭(26%)
- 1種類だけ処方されていた犬15頭のうち14頭はフェノバルビタールで残りの1頭はイメピトイン
- 抗てんかん薬による副作用は36頭(82%)
- 多い副作用は多飲多食、体重増加、沈静化、運動失調
犬の死について
- 調査終了時に死亡していた犬の数は22頭(47%)
- 22頭の平均生存期間は31ヶ月(中央値では27ヶ月)
- 17頭(77%)はてんかんを原因とする安楽死
- 5頭(23%)はてんかんとは無関係な理由
- 安楽死させられた17頭の平均生存期間は23ヶ月(中央値では19ヶ月)
飼い主の生活の質
Q:犬を世話することによって生じた自分の生活に対する制約は、どの程度厄介に感じたか?
- 1:まったく厄介では無い=14(30%)
- 2:少し厄介=12(25%)
- 3:中等度に厄介=6(13%)
- 4:とても厄介=7(15%)
- 5:きわめて厄介=6(13%)
- 6:未回答=2(4%)
- 1:全く心配しなかった=6(13%)
- 2:少し心配した=5(11%)
- 3:中等度に心配した=7(15%)
- 4:とても心配した=5(11%)
- 5:極度に心配した=15(32%)
- 6:未回答=9(19%)
- 1:全く心配しなかった=5(11%)
- 2:少し心配した=9(19%)
- 3:中等度に心配した=7(15%)
- 4:とても心配した=1(2%)
- 5:極度に心配した=18(38%)
- 6:未回答=7(15%)
- 1:まったく厄介ではない=8(18.2%)
- 2:少し厄介=6(13.6%)
- 3:中等度に厄介=8(18.2%)
- 4:とても厄介=7(15.9%)
- 5:きわめて厄介=8(18.2%)
- 6:未回答=7(15.9%)
Luisa De Risio, Julia Freeman et al. 2016
解説
てんかん患者がそれを世話する人の生活に多大なる影響を及ぼし、時として生活の質を低下させてしまうということは普遍的な現象のようです。
特発性てんかんを持病として抱えた42犬種128頭の犬を対象として行われた過去の調査では、発作の頻度に関して中等度~深刻な心配を抱えている飼い主の割合が69%、発作の重症度に関して同様の心配を抱えている飼い主の割合が74%という結果になっています(Wessmann et al. 2012)。またてんかん持ちの犬の飼い主を対象として行われた調査では、54%が「日常生活に制約が加えられる」と回答し、60%が「日程管理や自由時間に影響が及ぶ」と回答したとも(→出典)。さらに人間を対象とした調査では、てんかんを持っていない子供の両親よりも、てんかん持ちの子供の両親のほうが生活の質が低下し、不安やうつ状態に陥る確率が高まり、その確率はてんかんをうまく制御できていないほど高まるそうです(→出典)。
このようにてんかんという病気は、患者や患犬の健康を損なうのみならず、それを世話する人の生活やメンタリティーにも悪影響を及ぼす可能性を内包しているようです。 今回の調査において、調査終了時に死亡が確認された犬22頭のうち、17頭(77%)はてんかんを原因とする安楽死だったといいます。安楽死を選択する理由として飼い主が多く挙げるのは「犬の生活の質が低下したから」という項目です。しかし「てんかん持ちの子供の親ほど生活の質が下がり、不安やうつに陥りやすくなる」という事実と考え合わせると、「自分自身の生活の質が低下したから」という言外のニュアンスも見えてきます。安楽死させられた17頭の平均生存期間は23ヶ月だったと言いますので、ストレスが犬への愛情を上回ってしまう臨界点がこの辺にあるのかもしれません。
飼い主として出来る事は、投薬スケジュールをしっかりと守って可能な限り発作フリーを目指し、犬の生活の質を維持すると同時に、自分自身がうつ状態に陥ってしまわないよう努力することだと思われます。ちなみに2016年に行われた最新の調査では、数ある抗てんかん薬の中で最も安全性が高いと考えられるのは「レベチラセタム」、そして最も効き目が高いと考えられるのは「フェノバルビタール」という結果が出ています。
特発性てんかんを持病として抱えた42犬種128頭の犬を対象として行われた過去の調査では、発作の頻度に関して中等度~深刻な心配を抱えている飼い主の割合が69%、発作の重症度に関して同様の心配を抱えている飼い主の割合が74%という結果になっています(Wessmann et al. 2012)。またてんかん持ちの犬の飼い主を対象として行われた調査では、54%が「日常生活に制約が加えられる」と回答し、60%が「日程管理や自由時間に影響が及ぶ」と回答したとも(→出典)。さらに人間を対象とした調査では、てんかんを持っていない子供の両親よりも、てんかん持ちの子供の両親のほうが生活の質が低下し、不安やうつ状態に陥る確率が高まり、その確率はてんかんをうまく制御できていないほど高まるそうです(→出典)。
このようにてんかんという病気は、患者や患犬の健康を損なうのみならず、それを世話する人の生活やメンタリティーにも悪影響を及ぼす可能性を内包しているようです。 今回の調査において、調査終了時に死亡が確認された犬22頭のうち、17頭(77%)はてんかんを原因とする安楽死だったといいます。安楽死を選択する理由として飼い主が多く挙げるのは「犬の生活の質が低下したから」という項目です。しかし「てんかん持ちの子供の親ほど生活の質が下がり、不安やうつに陥りやすくなる」という事実と考え合わせると、「自分自身の生活の質が低下したから」という言外のニュアンスも見えてきます。安楽死させられた17頭の平均生存期間は23ヶ月だったと言いますので、ストレスが犬への愛情を上回ってしまう臨界点がこの辺にあるのかもしれません。
飼い主として出来る事は、投薬スケジュールをしっかりと守って可能な限り発作フリーを目指し、犬の生活の質を維持すると同時に、自分自身がうつ状態に陥ってしまわないよう努力することだと思われます。ちなみに2016年に行われた最新の調査では、数ある抗てんかん薬の中で最も安全性が高いと考えられるのは「レベチラセタム」、そして最も効き目が高いと考えられるのは「フェノバルビタール」という結果が出ています。