詳細
調査を行ったのは、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の心理学部チーム。ハンドラー(19人は女性 | 平均年齢42.8歳 | 平均実務経験3.7年)とセラピードッグ(16頭はメス犬 | 平均年齢5.8歳)のペア20組に協力してもらい、高校を卒業して実家を離れたばかりの大学1年生を対象とした実験を行いました。被験者として集められたのは、ホームシックにかかっていると自覚がある大学1年生44人(36人は女性 | 平均年齢18.3歳)。半分の22人をセラピーグループ、残りの22人を非セラピーグループに分け、前者には週に1回、金曜の午後に45分間のグループセラピーを8週間受けてもらいました。具体的な内容は以下です。
こうしたデータから調査チームは、故郷から離れて大学に入ったばかりの新入生に対する犬を介したアニマルセラピーは、ホームシックの感覚を軽減し、生活の満足度を高めることで、ドロップアウトする確率を下げてくれるかもしれないとの結論に至りました。 Hounds and Homesickness: The Effects of an Animal-assisted Therapeutic Intervention for First-Year University Students
Anthrozoos, 29:3, 441-454, DOI: 10.1080/08927936.2016.1181364
新入生向けドッグセラピー
- 室内にはランダムで選ばれた12組の犬-ハンドラーペアがいる
- セッションにはランダムで選ばれた学生3~4人が同時に参加する
- 最初の30分はランダムで選ばれた1ペアと学生たちとで交流をもつ
- 残りの15分は自分の意志でどの犬とでも自由に触れ合える
こうしたデータから調査チームは、故郷から離れて大学に入ったばかりの新入生に対する犬を介したアニマルセラピーは、ホームシックの感覚を軽減し、生活の満足度を高めることで、ドロップアウトする確率を下げてくれるかもしれないとの結論に至りました。 Hounds and Homesickness: The Effects of an Animal-assisted Therapeutic Intervention for First-Year University Students
Anthrozoos, 29:3, 441-454, DOI: 10.1080/08927936.2016.1181364
解説
今回の調査では、実験が終わった後に17人の学生を招いて自由評価セッションが開かれました。ここで出てきた意見の中で注目すべきは、「犬はありのままの自分を受け入れてくれるのが嬉しい」といったものです。大学が設置している「学生相談室」などでは、人間と面と向かって話す必要がありますので、どうしても「自分に何らかの評価が下されるのではないか?」といった緊張感を抱いてしまいます。その結果、安心感を得るどころか逆に不快感を強めてしまうかもしれません。その点、犬は相手の外見や能力を評価して点数をつけることがありませんので、人見知りの人でも「セッションを受けてみよう」という最初の1歩を踏み出しやすくなると考えられます。
評価セッションでは「自分の家に友達が犬を連れてきた感じがする」といった意見も聞かれました。その場に人間だけしかいないと「話題を続けないといけない!」といったプレッシャーを感じ、時として気詰まりになってしまいます。一方犬がいると、初対面の人間同士でも共通の話題が生じ、会話がスムーズに進行します。犬が持つこうした社会的潤滑油としての役割が、コミュニケーションを円滑に進めることで孤独感を軽減し、間接的にホームシック感を軽減してくれるのでしょう。
ホームシックにかかった学生はキャンパスでの生活になじめず、最終的に中退してしまうということが多くなると言います。こうしたドロップアウトは、中途退学する学生にとってのみならず、学費という資金源を失う大学にとっても大きな痛手です。ドロップアウトする学生を可能な限り減らすため、今後は人間の職員が常駐する「学生相談室」のほか、セラピードッグをキャンパスに連れてきてホームシックにかかりやすい新入生を癒やす「Doggy De-Stress Day」のようなイベントも増えてくるかもしれません。