詳細
調査を行ったのは、オーストリア・ウィーン大学の獣医学研究チーム。子犬の頃から人間と接触して十分に社会化が行われたペット犬17頭(オス11+メス6)と、生後2ヶ月で離乳して以降、必要最小限の接触しか行われなかった研究施設生まれのラボ犬8頭を対象とし、視線追尾システムを用いた注視実験を行いました。具体的な内容は、「ニュートラル」、「喜び」、「怒り」、「悲しみ」という4種類の感情を表現した顔写真を、2m先にあるスクリーン上に映し出し、犬の視線がどのような軌道を描くかを記録するというものです。なお、顔写真には「顔なじみの人」と「見知らぬ人」というバリエーションが設定されています。
実験の結果、ペット犬とラボ犬との間で共通点と相違点の両方が確認されたと言います。具体的には以下です。
ペット犬とラボ犬の相違点
- 顔を注視する時間 顔に対する注視は全体的にペット犬の方がスムーズだったが、人間の顔を見つめるトータル時間に関してはペット犬よりもラボ犬の方が長かった。この事実は、経験を積めば積むほど、相手の顔を認識して脳内で処理する時間が短くなっていくとする「顔なじみ仮説」と符合する。ただし、ただ単に新奇物に対して興味を抱いただけという可能性も否定できない。
- 最初に注視する場所 ラボ犬が目と額の領域を最初に見たのに対し、ペット犬は口の領域を最初に見た。人間と接する時間が長いペット犬では、口頭でコマンドが出されることに慣れているため、人間の口元に注目する癖がついたのかもしれない。また写真がネガティブな感情の時(悲しみ・怒り)、ペット犬はラボ犬と同じように目と額の領域を見る割合が増えた。これは「ニュートラル」と「怒り」における人間の口元の変化が小さすぎるため、他のパーツに視線をシフトすることで情報収集しようとした結果なのかもしれない。
ペット犬とラボ犬の共通点
- 注視までの待機時間 ペット犬もラボ犬も、目と口元に対する注視が早かった。これらのパーツが人間と犬とのコミュニケーションにおいて重要な役割を果たしている可能性を示唆している。
- 感情の質による影響 写真がポジティブな感情(喜び)のときは額に対する注視が増え、ネガティブな感情(悲しみ・怒り)のときは目と口に対する注視が増えた。人間を対象とした調査では、ポジティブな感情のとき口元がよく見られ、ネガティブな感情の時は目元がよく見られるという傾向が確認されているが、犬では少々違うらしい。
- 視線回避 「見知らぬ人間」と「ネガティブな感情」という条件が重なった時、最初の注視で顔の下半分を見る傾向が見出された。これは、脅威的な刺激に対峙した時の人間でも起こる現象である。
- ゲイズバイアス ペット犬もラボ犬でも、左側への強いゲイズバイアス(どちらか一方に視線がかたよる現象)が確認された。過去の報告では、ニュートラルとネガティブな表情の時だけ観察されたとされているが、今回の調査では感情の質にかかわらずレフトゲイズバイアスが見られた。この事実は、ネガティブな感情を司る右脳が活性化したときだけレフトゲイズバイアスが生じるとする「感情価モデル」ではなく、感情全般を司る右脳が活性化するだけでレフトゲイズバイアスが生じるとする「右脳モデル」を支持するものである。
解説
人間の場合「目は口ほどにものを言う」の格言通り、コミュニケーションする際はもっぱら目元に注目し、鼻から下はほとんど見ませんが、人間と生活を共にしているペット犬が人間の顔と接したとき、最初に注視するのが「口元」であるという事実は注目に値します。犬と人間との間でこのような差が生まれる原因は、「目の解像度の違い」と「表情筋の違い」だと考えられます。
犬の視力は一般的に「0.26」程度とされ、細かいものをあまり鮮明に見ることができません。こうした目の悪さが、変化の小さい「目」ではなく、比較的大きい「口」への視線誘導を促しているのかもしれません。また犬同士がコミニケーションする時は、たくさんの表情筋を有しており、それだけ感情表現が豊かな口元を見る傾向があります。この傾向がそっくりそのまま人間とのコミュニケーションに応用されたという可能性もあるでしょう。
過去の調査では「犬は人間の怒った顔と笑った顔を区別できる」といった報告がありますので(→出典)、日常生活の中に「笑顔」という要素を取り入れてあげると面白いかもしれません。例えば、犬を誉めるときは露骨に笑顔を作るなどです。「ご褒美をもらう」とか「褒められる」といった心地よい体験と「笑顔」という視覚的な情報をリンクしておけば、犬に笑顔を見せるだけで行動の正解を伝えることができるようになり、クリッカーの代用になってくれる可能性があります。犬の耳が不自由なときなどは特に役立ってくれるでしょう。
犬の視力は一般的に「0.26」程度とされ、細かいものをあまり鮮明に見ることができません。こうした目の悪さが、変化の小さい「目」ではなく、比較的大きい「口」への視線誘導を促しているのかもしれません。また犬同士がコミニケーションする時は、たくさんの表情筋を有しており、それだけ感情表現が豊かな口元を見る傾向があります。この傾向がそっくりそのまま人間とのコミュニケーションに応用されたという可能性もあるでしょう。
過去の調査では「犬は人間の怒った顔と笑った顔を区別できる」といった報告がありますので(→出典)、日常生活の中に「笑顔」という要素を取り入れてあげると面白いかもしれません。例えば、犬を誉めるときは露骨に笑顔を作るなどです。「ご褒美をもらう」とか「褒められる」といった心地よい体験と「笑顔」という視覚的な情報をリンクしておけば、犬に笑顔を見せるだけで行動の正解を伝えることができるようになり、クリッカーの代用になってくれる可能性があります。犬の耳が不自由なときなどは特に役立ってくれるでしょう。