詳細
調査を行ったのは、アメリカのマサチューセッツ工科大学を中心とした医学チーム。過去の実験や調査で確認されている「乳酸菌の一種がマウスのオキシトシンレベルを高める」、「オキシトシンが高まるとダイエット効果も高まる」、「犬との生活で乳酸菌が共有される」という3つの事実に着想を得て、「犬を飼っている人は唾液を通じて犬から乳酸菌をもらい、オキシトシンレベルが高まってダイエット効果を得られるはずだ」という仮説を立てました。
Bernard J Varian, Tatiana Levkovich, et al.2016
- オキシトシン
- 体内を循環して感情や行動を微調整するホルモンの一種で、「母性行動の促進」、「社交性の強化」、「不安の軽減」といった多様な生理作用が確認されている。
Bernard J Varian, Tatiana Levkovich, et al.2016
解説
今回の調査対象となった仮説では、以下に述べる3つの事実が基礎になっています。
オキシトシンが「人と動物の絆の強化」のみならず、「ダイエット効果」ももたらしてくれるのだとすると、犬と積極的にキスしたくなる人も出てくるでしょう。しかし乳酸菌をもらおうとして犬のベロベロを許していると、パスツレラ症やカプノサイトファーガカニモルサス症といった人獣共通感染症にかかる危険性もありますので、あまりお勧めはできません。 今回の調査チームは、「乳酸菌が溶解(滅菌)状態でも同様のダイエット効果が得られた」という事実に着目し、人工的に生成した乳酸菌をセラピー目的で人間に投与するという可能性を視野に入れています。溶解状態の乳酸菌は繁殖しないため、免疫力が低下した人に投与しても安全とのこと。人獣共通感染症のリスクを避けつつ、細菌のメリットだけを享受するためには、こうしたサプリメントの登場を待った方が無難なようです。
乳酸菌とオキシトシン
人間の母乳から分離された乳酸菌の一種「L.reuteri ATCC 6475」をマウスに投与すると、迷走神経(第十脳神経)を通じてオキシトシンレベルが高まる(→出典)。また「L. rhamnosus」を摂取した人でも同様の効果が見られる(→出典)。
オキシトシンとダイエット効果
ラットにオキシトシンを投与すると、食物の摂取量が減る(→出典)。また人間を対象とした調査では、経鼻的なオキシトシンの投与でカロリーの摂取量が減り、炭水化物から脂質の利用に代謝がシフトし、インスリンに対する感受性が改善されたという報告もある(→出典)。オキシトシンが成長ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌を促し、筋肉の量を高めて脂肪の量を減らしているものと推測される(→出典)。
犬の飼育と細菌の共有
24人の赤ん坊を対象に、4ヶ月齢になったタイミングで糞便を採取したところ、ペットと暮らしている乳幼児では、ビフィズス菌が少なくペプトストレプトコッカス多いという特徴を有していた(→出典)。また生まれて間もない赤ん坊が生後1ヶ月を迎えたタイミングで、オムツの中からうんちのサンプルを取り、主に動物の腸内で発見されるビフィズス菌の一種「B. thermophilum」および「B. pseudolongum」の有無を調査した。その結果、「ペットを飼っているグループ」の陽性率がおよそ33%だったのに対し、「ペットを飼っていないグループ」のそれは半分以下の14%にとどまってた(→出典)。
犬と生活していると、手や顔についた唾液を通じて何らかの細菌を受け取り、それがオキシトシンレベルを高めるという可能性は十分ありそうに思われます。過去に行われた調査では、犬と見つめあうだけでオキシトシンの分泌が促されるという現象も確認されていますので(→出典)、ペットによるオキシトシン調整には「視線や体によるコンタクト」と「細菌の共有」という2つのルートがあるのかもしれません。オキシトシンが「人と動物の絆の強化」のみならず、「ダイエット効果」ももたらしてくれるのだとすると、犬と積極的にキスしたくなる人も出てくるでしょう。しかし乳酸菌をもらおうとして犬のベロベロを許していると、パスツレラ症やカプノサイトファーガカニモルサス症といった人獣共通感染症にかかる危険性もありますので、あまりお勧めはできません。 今回の調査チームは、「乳酸菌が溶解(滅菌)状態でも同様のダイエット効果が得られた」という事実に着目し、人工的に生成した乳酸菌をセラピー目的で人間に投与するという可能性を視野に入れています。溶解状態の乳酸菌は繁殖しないため、免疫力が低下した人に投与しても安全とのこと。人獣共通感染症のリスクを避けつつ、細菌のメリットだけを享受するためには、こうしたサプリメントの登場を待った方が無難なようです。