詳細
2016年現在、オーストラリア国内ではすべての州や特別地域においてドッグレースが開催されており、そこで動いた賞金の総額は2011年で8200万オーストラリアドル(約61億5千万円)と推計されています。また、合計4,068回の興行で43,259レースが行われ、登録されているグレーハウンドの数は12,280頭に及ぶとも。このように非常に多くのグレーハウンドが関わっているドッグレース業界ですが、福祉を守るためのルールが万全に整っているとは言えません。例えば、業界団体「GRSA」はレース中の熱中症を予防するために「環境温度が30℃超えるような場合は冷却ジャケット用いるように」という勧告を出しているものの、こうした業界ルールに拘束力があるわけではなく、また科学的な知見に基づいて定められているわけでもありません。
アデレード大学獣医科学部の調査チームは、レース犬の熱中症の危険性を高める外的な要因と内的な要因を明らかにするため、実際にドッグレースに参加したグレーハウンドを対象とした大規模な調査を行いました。対象となったのは、オス134頭とメス104頭からなる238頭。平均年齢は2.6歳です。レース前後における直腸温度、尿検査、環境温度、湿度などを細かく計測し、体温と各種要因との間に何らかの関連性があるかどうかを検証したところ、以下のような事実が明らかになったと言います。なお「ミオグロビン」とは、筋線維がダメージを受けた時、血清や尿中に現れる物質のことです。
Jane McNicholl, G.S.Howarth, et al.
熱中症の危険因子
- 環境温度レース後の直腸温度が41.5℃を超えたときの平均環境温度は31.2℃で、直腸温度が41.5℃以下だったときの平均環境温度は27.3℃だった。また環境温度が38℃を超えている場合、直腸温度が41.5℃を超える犬の割合は39%に達した。
- 体重体重が重くなるほど直腸温度、レース後の体温上昇、尿中のミオグロビンレベルの値が大きくなるという関連性が見られた。
- 性別オス犬とメス犬との間でレース後の尿中ミオグロビンレベルに関し、オス犬は「73.17ng/ml」、メス犬は「128.20ng/ml」と大きな違いが見られた。また、オス犬(38.9±0.5℃)とメス犬(38.8±0.3℃)との間でレース前の体温格差は見られなかったが、レース後の直腸温はオス犬が「41.1±0.5℃」、メス犬が「40.9±0.4℃」と顕著な格差が見られた。
- 被毛色レース前の直腸温度と被毛の色との間に関連性はなかったが、レース後の直腸温度上昇は、明るいタイプの被毛(フォーン・ホワイト)が「2.0±0.4℃」だったのに対し、暗いタイプの被毛(ブラック・ブルー・ブリンドル)が「2.2±0.4℃」と顕著に大きかった。
Jane McNicholl, G.S.Howarth, et al.
解説
今回の調査チームは、グレーハウンドの熱中症リスクが高まる環境温度のボーダーラインが「38℃」であるとし、この温度を超えるような場合は、レースの中止を含めた何らかの業界ルールを作るべきであると提言しています。しかしこの温度は、犬が15~45秒だけ全力疾走する場合を想定したものであり、ゆっくりしたペースで数十分間散歩する場合を想定したものではありません。犬が快適に過ごせる温度の範囲は、体重8.5~10.5kgで23~27℃とされていますので(→出典)、日本に暮らしている犬の飼い主はこちらの値を基準とした方がよいでしょう。
調査対象となったグレーハウンドの運動レベルは、300~730mの距離を15~45秒かけて全力で走り抜くという非常に短いものでした。一見、「こんな短時間で熱中症にはならないよ」と思えますが、実際に直腸温を計測してみると2℃近くも上昇していることが明らかになりました。また、犬の熱中症に関する42の症例を検討した過去の調査では、20~30分という比較的短い運動時間で発症していることが明らかになっています(→出典)。人間や馬を対象とした調査では、長時間の運動によって熱中症を発症するとされていますが、犬の場合はもっと短い時間で病的な状態に陥ると考えておいた方がよさそうです。 レース後の尿中に検出された「ミオグロビン」は、筋線維がダメージを受けたときに放出されるタンパク質の一種です。暑い環境下で激しい運動をすると、熱中症から横紋筋融解症につながり、大量のミオグロビンが腎臓に集まって急性腎不全を引き起こすことがありますので(→出典)、犬がドッグランなどで楽しそうに駆け回っていてもあまり無理をさせない方がよいでしょう。
調査対象となったグレーハウンドの運動レベルは、300~730mの距離を15~45秒かけて全力で走り抜くという非常に短いものでした。一見、「こんな短時間で熱中症にはならないよ」と思えますが、実際に直腸温を計測してみると2℃近くも上昇していることが明らかになりました。また、犬の熱中症に関する42の症例を検討した過去の調査では、20~30分という比較的短い運動時間で発症していることが明らかになっています(→出典)。人間や馬を対象とした調査では、長時間の運動によって熱中症を発症するとされていますが、犬の場合はもっと短い時間で病的な状態に陥ると考えておいた方がよさそうです。 レース後の尿中に検出された「ミオグロビン」は、筋線維がダメージを受けたときに放出されるタンパク質の一種です。暑い環境下で激しい運動をすると、熱中症から横紋筋融解症につながり、大量のミオグロビンが腎臓に集まって急性腎不全を引き起こすことがありますので(→出典)、犬がドッグランなどで楽しそうに駆け回っていてもあまり無理をさせない方がよいでしょう。