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犬の虚血性発作は小脳で多発する

 人間でよくある脳の虚血性発作が犬で起こった場合、平衡感覚を司る小脳に障害が出るケースが多いようです(2016.7.1/デンマーク)。

詳細

 「虚血性発作」とは、脳に血液を届ける血管に閉塞が起こり、血流が一時的に遮断される現象のこと。閉塞が長引き、小~大規模の脳細胞が壊死した場合は「脳梗塞」と呼ばれます。デンマーク・コペンハーゲン大学の調査チームは2010~2015年の期間、イギリスやデンマーク国内にある専門性の高い5つの病院を受診した犬を対象に、脳の虚血性発作に関する統計調査を行いました。対象となったのは、13頭のメスと10頭のオスからなる23頭の犬。平均年齢は8歳8ヶ月です。犬種別に発症頻度を調べたところ、以下のような内訳になったといいます。
虚血性発作の犬種別頻度
  • キャバリアキングチャールズスパニエル=9
  • グレイハウンド=2
  • ラブラドールレトリバー=2
  • バセットハウンド=1
  • ケアンテリア=1
  • イングリッシュコッカースパニエル=1
  • ジャーマンシェパード=1
  • ラーチャー=1
  • ポインター=1
  • シーズー=1
  • チベタンテリア=1
  • ワインマラナー=1
  • 中型雑種=1
 キャバリアの発症年齢は7歳(±9ヶ月)で、他の犬種の平均9歳1ヶ月(±6ヶ月)よりも著明に早い段階で発作に見舞われることが明らかになりました。症状として最も多く見られたのは、運動失調、頭の傾斜、眼振(目が揺れる)、恐怖反応の減弱、姿勢反射障害など。5頭(22%)では、過去2週間から3年の間にも発作の病歴があったといいます。 犬の小脳に血液を供給している吻側および尾側小脳動脈の解剖学的位置  虚血性発作の結果として発生した梗塞は、吻側小脳動脈の右側が10例、左側が11例、中央部が2例で、尾側小脳動脈の支配領域における梗塞は認められませんでした。広範囲の梗塞を伴っていた4頭の入院日数はおよそ6.5日で、限局性の梗塞を伴っていた20頭の日数はおよそ1日でした。そして梗塞の重症度にかかわらず、すべての犬が10日以内に退院できたといいます。
 調査チームは、なぜ吻側小脳動脈にだけ多発するのかはよくわからないものの、動脈の分岐の仕方や犬ごとの解剖学的個性が脳内の血流に変化を及ぼし、虚血発作や梗塞を引き起こしているのではないかと推測しています。またキャバリアで多く報告されている脳のキアリ奇形も恐らく関わっているだろうとのこと。犬の虚血性発作は短期の予後が非常に良いため、急性~亜急性の神経症状で来院した犬の病因がたとえ分からなかったとしても、安易に安楽死を選択してはいけないと警告しています。 Neurological signs in 23 dogs with suspected rostral cerebellar ischaemic stroke

解説

 虚血発作を経験したことがある2,416人を対象とした調査によると、23%の人が過去に「一過性虚血発作」(TIA)の既往歴があったそうです。今回の調査でも22%の犬が過去に発作歴があったといいますので、飼い主が気づかないだけで、犬は頻繁にTIAを経験しているのかもしれません。犬の頭が傾いてふらふら歩いている場合、真っ先に「前庭疾患」が思い浮かびますが、「虚血性発作に伴う小脳疾患」という可能性も頭の片隅に置いておく必要があるでしょう。虚血発作が長引いて梗塞が起こると、症状が永続化してしまうことも考えられますが、発作に対する効果的な予防法がないというのが歯がゆいところです。 犬の小脳障害 犬の前庭神経炎