詳細
調査を行ったのはハンガリー・エトヴェシュ・ロラーンド大学動物学部のチーム。言語によって思い出を語ることができない動物においては証明することが非常に難しい「エピソード記憶」を、「偶発的記銘」という特徴を利用して実証しようとしました。
もし犬が直前に見た人間の行動を再現できなかったら、「周囲の状況を覚えようと意識していないとき犬の脳内に記憶は残らない」 、すなわち「犬にエピソード記憶は無い」と判断されます。もし逆に、犬が直前に見た人間の行動を再現できたら、「周囲の状況を覚えようと意識していなくても犬の脳内に記憶は残る」、すなわち「犬にもエピソード記憶がある」と判断されます。実際のテスト結果は以下です(※調査方法と結果に関するより詳しい内容は犬のエピソード記憶というページにまとめてあります)。
こうした結果から調査チームは、犬には体験した内容を偶発的に記銘する能力、すなわちエピソード記憶的なものがあるらしいという可能性を突き止めました。 Recall of Others’ Actions after Incidental Encoding Reveals Episodic-like Memory in Dogs
Fugazza et al., Current Biology (2016), http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2016.09.057
- エピソード記憶
- 長期的に脳内に残る個人が経験した出来事に関する記憶のこと。特徴の一つは、周囲の状況を覚えようと意識していないにもかかわらず、時間が経ってからその状況を思い出すことができること。例えば「今日の朝何食べた?」と聞かれて「コーンフレーク」と答えることができるなど。
もし犬が直前に見た人間の行動を再現できなかったら、「周囲の状況を覚えようと意識していないとき犬の脳内に記憶は残らない」 、すなわち「犬にエピソード記憶は無い」と判断されます。もし逆に、犬が直前に見た人間の行動を再現できたら、「周囲の状況を覚えようと意識していなくても犬の脳内に記憶は残る」、すなわち「犬にもエピソード記憶がある」と判断されます。実際のテスト結果は以下です(※調査方法と結果に関するより詳しい内容は犬のエピソード記憶というページにまとめてあります)。
インターバル1分
インターバル1時間
動作を見てから実際に再現するまでのインターバルが1分の時も1時間の時も、犬たちは人間が見せた行動を35~59%の確率で真似することができました。このことはつまり、周囲の状況を記憶することが要求されていないにもかかわらず、犬の脳内には体験したことがある程度記憶として残っていることを意味します。こうした結果から調査チームは、犬には体験した内容を偶発的に記銘する能力、すなわちエピソード記憶的なものがあるらしいという可能性を突き止めました。 Recall of Others’ Actions after Incidental Encoding Reveals Episodic-like Memory in Dogs
Fugazza et al., Current Biology (2016), http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2016.09.057
解説
人間が「真似してごらん」という命令を発した時、もし犬が命令されることを心のどこかで予期していたら、「周囲の状況を覚えようと意識していない状態」ではなくなりますので、調査の結果に信憑性がなくなってしまいます。調査チームはこの可能性を排除するため、「期待違反原則」を採用しました。これは、予期していない事象に遭遇した時、対象を見つめる時間が延びるという現象のことです。ちょうどカトちゃんの「二度見」といえば分かりやすいでしょう。
もし「真似してごらん」と命令されたとき、犬が人間の方を見つめている時間が延びていれば「期待に反する事象に出くわして驚いている」(命令を予期していなかった)、延びていなければ「期待通りの事象を確認している」(命令を予期していた)と判断されます。具体的に計測したところ、以下のような結果になりました。 インターバルが1分のときも1時間のときも、命令を下された直後に人間の方を見つめる時間が、練習時よりも延びることがわかりました。つまり命令されることを予期していなかったということです。この事実から調査チームは、犬の頭の中には人間の動作に注目して覚えようという意識がなかったことを間接的に証明できたと主張しています。そして、周囲の状況を記憶しようと意識していなかったにも関わらず人間の動作を再現できたのは、取りも直さず犬にもエピソード記憶がある証拠だとも。
人間以外の動物で、複雑な事象に関するエピソード記憶らしきものの存在が示されたのは、今回が世界初ということです。同じ調査方法をうまく用いれば、イルカ、オウム、シャチといった言語を話せない動物でも、エピソード記憶の存在を証明できるかもしれないと期待が高まっています。なおこの知見の詳しい解説や、しつけへの応用の仕方に関しては以下のページにまとめてありますのでご参照ください。
もし「真似してごらん」と命令されたとき、犬が人間の方を見つめている時間が延びていれば「期待に反する事象に出くわして驚いている」(命令を予期していなかった)、延びていなければ「期待通りの事象を確認している」(命令を予期していた)と判断されます。具体的に計測したところ、以下のような結果になりました。 インターバルが1分のときも1時間のときも、命令を下された直後に人間の方を見つめる時間が、練習時よりも延びることがわかりました。つまり命令されることを予期していなかったということです。この事実から調査チームは、犬の頭の中には人間の動作に注目して覚えようという意識がなかったことを間接的に証明できたと主張しています。そして、周囲の状況を記憶しようと意識していなかったにも関わらず人間の動作を再現できたのは、取りも直さず犬にもエピソード記憶がある証拠だとも。
人間以外の動物で、複雑な事象に関するエピソード記憶らしきものの存在が示されたのは、今回が世界初ということです。同じ調査方法をうまく用いれば、イルカ、オウム、シャチといった言語を話せない動物でも、エピソード記憶の存在を証明できるかもしれないと期待が高まっています。なおこの知見の詳しい解説や、しつけへの応用の仕方に関しては以下のページにまとめてありますのでご参照ください。