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犬がそばにいると騒音などの不快刺激に対して人間は我慢強くなる

 犬がそばにいると、不愉快な刺激を我慢できる人間の限界時間が延びることが明らかになりました(2016.8.24/ブラジル)。

詳細

 調査を行ったのはブラジル・サンカルロス大学の研究チーム。10人の女性と8人の男性からなる18人の大学生(18~35歳の平均25歳)を対象に、犬の存在が不快刺激に対する人間の受忍限度にどのような影響を及ぼすかを検証しました。具体的な内容は、継続的で単調なローピッチ音3種類(1kHz | 1.3kHz | 1.6kHz)を、ヘッドフォンを通じて42デシベルの音量で聞かせ、その騒音が我慢できずにヘッドホンを外してしまうまでの時間を計測するというものです。
 被験者の意識をそらす陽動刺激としては、「犬」(1歳のボーダーコリーで、触れ合ったりおやつを与えてもよい)と「本」(オランダ語で書かれた文章と絵が記載されている)が用意されました。聞かせる音と陽動刺激の順番がすべてバラバラになるように調整して実験を行ったところ、不快刺激に対する我慢の限界時間に明確な格差が生まれたと言います。
陽動刺激と受忍限度
犬の存在と騒音刺激に対する人間の受忍限度の変化
  • 犬がいる=24.4秒
  • 本がある=20.9秒
  • 陽動刺激なし=15.1秒
 さらに実験後、状況に対する好悪を「-3」(最悪)から「+3」(最良)までの7段階で評価してもらったところ、10項目の平均が「陽動刺激なし=-0.02」、「本=-0.62」、「犬=1.2」という結果になり、統計的に有意であることが確認されたそうです。
 こうしたデータから調査チームは、犬の存在は不快な音に対して逃避反応が生じるまでの限界時間を延ばしてくれるという結論に至りました。 Influence of dog presence on the tolerance and evaluation of aversive stimulation
Isabela Zaine, Camila Domeniconi, et al. 2016

解説

 犬がそばにいるだけで人間の身体的・感情的反応が変化するという現象は古くから指摘されています。
 例えば1991年、45人の女性被験者に「実験者がそばにいる研究室内」、「友人がそばにいる自宅内」、「犬がそばにいる自宅内」という3つの状況においてストレスのかかる作業をやってもらうという実験が行われました。その結果、犬がそばにいる状況において最も身体的な反応が弱く(緊張の度合いが低く)、作業の成績も良かったと言います。友人の存在がまるで試験官のように被験者にプレッシャーを与えて成績を悪化させたのに対し、犬の存在は逆に被験者にリラックスをもたらし、本来の力を十分に発揮できたのだと推測されています(→出典)。
 また2014年に行われた調査では、犬の存在が認知行動療法の治療成績を高めたという事例が報告されています。何らかのトラウマを抱えた人とトラウマを抱えていない人を対象に、不安や心的外傷の治療法として認められている描写法(不愉快な状況を克明に描写することで認識の仕方を根本的に変える)の効果が検証されました。犬がいる状況といない状況の両方で描写を行ってもらったところ、トラウマを抱えた人では急性の不安発作が多く見られたといいます。ただし犬がいる状況においてはその度合いが低かったとも。さらに被験者を追跡調査したところ、犬がいる状況で描写を行ったトラウマグループでは、日常生活における抑うつ症状の軽減が確認されたそうです。こうした事実から、犬の存在はトラウマを抱えた人の急性不安発作を軽減すると同時に、描写療法が持つセラピー効果を補強してくれる可能性があることが明らかになりました(→出典)。
 「不愉快な音」、「厄介な仕事」、「トラウマの想起」など、人間にストレスを与えるような状況において、近くに犬がいるかどうかという点は非常に大きいようです。この特性を利用して近年は、法廷で証言する人を精神的にサポートするため、犬を同伴するという試みが行われているところもあります(→出典)。また日本の愛知県名古屋市でも、採血室にいる献血者に介助犬が付き添うという先取的な取り組みが始まっています(→出典)。 犬のアニマルセラピー フロリダ州の証言支援犬「カール」 愛知県赤十字血液センターの献血付添犬