トップ2016年・犬ニュース一覧8月の犬ニュース8月22日

犬の肉球はハニカム構造で衝撃を吸収する

 犬の肉球を顕微鏡で調べたところ、地面からの圧力を効率的に分散するための特殊なハニカム構造を備えていることが明らかになりました(2016.8.22/中国)。

詳細

 調査を行ったのは、中国・吉林省長春市にある吉林大学のチーム。警察犬訓練基地で事故死した2頭のジャーマンシェパードを献体として、趾行性動物(しこうせいどうぶつ)の特徴である肉球の構造を電子顕微鏡を用いて詳細に調査しました。その結果、以下のような事実が明らかになったと言います。調査対象となったのは、肉球の中で最も広い面積を誇る「掌球」(metacarpal pad)と呼ばれる部分で、断面にすると外側から順に「角質層→表皮層→真皮層→皮下組織層」という構造になっています。
犬の肉球のミクロ構造
  • 角質層地面と直接接触するため硬い細胞で覆われている/スパイク状になっており、摩擦係数はおよそ0.6犬の肉球表面近くに見られるスパイク構造の顕微鏡写真
  • 表皮層角質層の形状に合わせるように、真皮乳頭(DP)と層状表皮組織(SE)がスパイク状に隆起している/地面に近い底部は、猫やヒョウと同じハニカム構造を形成している 犬の肉球内部に見られる真皮乳頭と層状表皮組織からなるハニカム構造
  • 真皮層地面から遠ざかるに連れてハニカム構造が消え、弾力性に富むエラスチン線維が占めるようになる
  • 皮下組織層象の足や人間の踵と同じように、結合線維の膜によって区切られた脂肪組織が占める/流体静力学的に衝撃を吸収する
 ハニカム構造に一定の圧をかけ、歩行時における肉球の状態をシミュレーションしたところ、非ハニカム構造に比べて床反力(GRF)が最大で35%も低下し(1.3N→0.85N)、表皮層にかかるミーゼス応力(物体の内部に生じる6つの応力をひとつの数値に代表させたもの)が1000分の一にまで低下したといいます。また強い力がかかればかかるほどクッション性能が高まるという特徴が見出されたとも。さらに固い層状表皮(外壁部分)への圧は高まるのに対し、柔らかい真皮乳頭(壁内部)への圧は逆に低くなるという現象が確認されたそうです。
 こうしたデータから研究チームは、犬の肉球はすべての層が協力し合って歩行時のショックを吸収し、関節や筋肉への負担を軽減しているという事実を突き止めました。今回得られた知見は、動物の歩行を模した動きをするロボットや、足に障害を抱えた患者用の足底クッション材などに応用できるのではないかと期待されています。 How does paw pad of Canine attenuate ground impacts: a micromechanical finite element study
Huaibin Miao, Jun Fu, Zhihui Qian, et al. 2016

解説

 ハニカム構造(honeycomb structure)とは、正六角形を始めとする立体図形を隙間なく並べた構造のことです。強度を保ちつつ重量を最小限に抑えられるという特徴を有しています。段ボール材などでたまに見かけるサンドイッチパネルを思い浮かべれば分かりやすいでしょう。 サンドイッチパネル内部のハニカム構造  つま先を地面につけて移動する「趾行性動物」(しこうせいどうぶつ)は、小さな面積で大きな力を支えなければなりません。結果として、優れた圧分散能力を持ったハニカム構造を、進化の歴史の中で発達させてきたものと推測されます。また2013年に行われた調査では、表皮に見られるスパイク状の突起が「動静脈吻合」という特徴的な血管構造を通して、凍傷を防ぐ役割を担っていることが明らかになっています(→詳細)。プニプニして可愛い肉球の中には、私達の想像を遥かに超えたハイテクが隠されているようです。 犬の足 犬の肉球の中にはハイテク機能が隠されている