詳細
調査を行ったのは、イギリス・ポーツマス大学「Dog Cognition Centre」の研究チーム。犬に純粋な利他的行為が可能かどうかを検証するため、設定の異なる2つの状況における犬の行動を観察しました。参加したのはオス16頭とメス8頭からなる24頭で、平均年齢は3.8歳、具体的な実験手順は以下です。
実験の結果、犬がメモ帳の容器の方へ実験者を多く導いてくれるという傾向は見いだされませんでした。しかし、この結果には「おもちゃの魅力が強すぎた」とか「真新しいものを選好するネオフィリアが現れた」といった紛れが含まれているため、「犬は利己的な動物で利他的な概念がない」と結論づけるのは早計と判断されました。
実験の結果、容器の中にメモ帳が隠されている状況において、容器を眺めている時間が最も長くなるという現象が確認されました。そしてこの現象は、人間に対して自分の意図を伝えようとする気持ちの現れと解釈されました。 こうした実験結果から調査チームは、人間の幼児で確認されているのと同じような能力を、犬もある程度備えているという可能性に行き着きました。具体的には以下のような思考ができるのではないかと推測されています。
Patrizia Piotti , Juliane Kaminski, et al. 2016
実験1
まず実験者と犬が室内に入り、実験者は犬の目の前でこれ見よがしにメモ帳を使い始めます。狙いは「この人にとってメモ帳は大事なものだ」という関連性を犬に理解させることです。
その後、実験者だけがメモ帳とともに一旦部屋を退室します。次に、実験者とは別の第三者が犬のおもちゃを持って入室し、部屋の両脇にある2つの容器のうちのどちらか一方におもちゃを隠します。他方の容器との組み合わせによって、以下に述べる3つのバリエーションが設定されました。
- おもちゃ+何もなし
- おもちゃ+ホチキス
- おもちゃ+メモ帳
実験の結果、犬がメモ帳の容器の方へ実験者を多く導いてくれるという傾向は見いだされませんでした。しかし、この結果には「おもちゃの魅力が強すぎた」とか「真新しいものを選好するネオフィリアが現れた」といった紛れが含まれているため、「犬は利己的な動物で利他的な概念がない」と結論づけるのは早計と判断されました。
実験2
「おもちゃ」の存在が招く混乱を避けるため、次の実験では「ホチキス」と「メモ帳」だけが用いられました。参加したのは実験1に参加した犬とは全く別の48頭です。実験者はまず犬と共に室内に入り、これ見よがしにメモ帳を使うことで「メモ帳は人間にとって重要なものである」という関連性を犬に刷り込みました。次にメモ帳をベンチの上に置いたまま退室し、代わりに第三者が入室します。第三者は犬の注意を十分に引きつけながらベンチの上にあるメモ帳を取り、部屋の隅に置かれている3つの容器のうちどれか1つを選びます。バリエーションは「どれか1つにメモ帳を入れる」か「どれか1つにホチキスを入れる」の2つだけです。第三者が隠し終えたタイミングで再び実験者が入室し、犬の注意を引き付けながら探し物を始めます。
犬の目から見たとき、「ホチキス」は毒にも薬にもならない無用物、そして「メモ帳」は人間にとって意味のある関連物です。今回は「おもちゃ」が含まれていませんので、「ホチキス」よりも「メモ帳」の入っている容器に人間を導いてくれたら、それは「メモ帳はこの人にとって大事なもの」という認識に根ざした利他行為とみなされます。実験の結果、容器の中にメモ帳が隠されている状況において、容器を眺めている時間が最も長くなるという現象が確認されました。そしてこの現象は、人間に対して自分の意図を伝えようとする気持ちの現れと解釈されました。 こうした実験結果から調査チームは、人間の幼児で確認されているのと同じような能力を、犬もある程度備えているという可能性に行き着きました。具体的には以下のような思考ができるのではないかと推測されています。
犬の手助け行動が持つ意味
- 対象物と人間の関連性を理解する
- 探している状況=困っていると理解できる
- 相手を助けてあげようという利他的な動機で行動できる
Patrizia Piotti , Juliane Kaminski, et al. 2016