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環境ホルモンがオス犬の生殖能力を低下させている

 オス犬の精液を26年間にわたって長期的に調査したところ、ドッグフードに含まれるある種の化学物質が、生殖能力を低下させているという可能性が見えてきました(2016.8.10/イギリス)。

詳細

 調査を行ったのは、イギリス・ノッティンガム大学獣医学部のチーム。1988年から2014年の26年間、補助犬繁殖センターにいる5犬種の種牡から精液サンプルを採取し、精子の数、運動性、形状という3つの項目に関するクオリティーの変遷を、長期に渡ってモニタリングしました。その結果、以下のような現象が確認されたと言います。
オス犬の精子の変化
  • 精子の運動性1988~1998年の期間、運動性が年2.5%ずつ低下/1999~2001年の期間、運動性が年1.2%ずつ低下
  • 精子の形状1988~1994年の期間で、正常な形状を保った精子の数が8.1%減少/1994~1998年の期間でやや正常数が増加して横這いになった
  • 精子の量1988~1998年の期間で精子の量が増加(特に1992~1994年)/1999~2001年の期間で精子の量が増加(特に2004~2005年)/2005~2006年で減少し、その後2014年まで横這い
 同じ地域に暮らすオス犬の精巣を調べた所、DEHP(フタル酸エステル)のほかPCB(ポリ塩化ビフェニル)7種、PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)4種が検出され、そのうち「DEHP」と「PCB153」は特に高濃度だったといいます。また上記12種の化学物質は、市販されているドライフードとウェットフード15種類の中からも同様に検出されたとも。
 こうした事実から調査チームは、ここ数十年の間で見られるオス犬の精子クオリティーの低下は、食事経由で摂取したある種の化学物質によって引き起こされているのではないかという推論を展開しています。また、1995年から2014年の間で確認されている潜在精巣(精巣が正常な位置まで降りてこない病気)の増加とも関わっているのではないかとも。 Environmental chemicals impact dog semen quality in vitro and may be associated with a temporal decline in sperm motility and increased cryptorchidism
Richard G. Lea,Andrew S.Byers,et al. 2016

解説

 人医学の領域では、1938~1991年の間に報告された61の研究を元に、男性の「精巣形成不全症候群」(TDS)が進行しているのではないかといった心配がなされています。またその後、47の研究を元に再分析した結果でも、同様の可能性が示唆されました。しかしこうした調査報告に対しては、「検証方法が統一されていないので確かなことは言えないのではないか?」といった反論も噴出しています。
 今回行われた調査の大きな特徴は、26年間に及ぶ調査手順が、全て同じプロトコルに則(のっと)って行われたということです。調査チームは、この特徴によって検証方法のばらつきによる不確かさが排除され、結論の信ぴょう性が高まったとしています。 犬や人間の「精巣形成不全症候群」(TDS)には環境ホルモンが関係している  犬の精巣、精液、およびドッグフードから検出された「DEHP」、「PCB」、「PBDE」とその同属種は、人間や家畜の精漿からも検出されている物質です。またこれらの化学物質は、完全には解明されていないメカニズムを通して、動物の精子クオリティーを劣化させることが確認されています。こうした事実から考えると、精子の数が減少したり運動性が低下するという現象には、何らかのルートを通じて体内に入った環境ホルモンが影響していると考えるのが妥当なようです。そしてこの因果関係は、生活環境を共有している犬と人間で共通と考えられていることから、人間の「精巣形成不全症候群」を解明する際の手がかりになるのではないかと期待されています。 オス犬の精巣腫瘍