伝説の出どころ
「犬は算数ができる」という都市伝説の出どころは、テレビやインターネットで紹介される「足し算ができる犬」という隠し芸を持った犬だと考えられます。これらの芸はたいてい、飼い主が犬に対して簡単な計算問題を出し、犬が吠える回数や前足のタップ回数でその答えを返すというものです。足し算のほか、引き算や割り算といったバリエーションもあります。
算数をする犬(?)
上で紹介したような隠し芸を見た視聴者の中には、「犬にも算数ができるんだ! 」と思い込み、友人や知人に言いふらす人もいることでしょう。そしてこうした伝言ゲームが積み重なった結果として、「犬は算数ができる」という都市伝説が確立したものと推測されます。
伝説の検証
メディアでよく見る「計算ができる犬」の裏には、基本的に「クレバーハンス効果」が隠されていると推測されます。「クレバーハンス効果」とは、飼い主やハンドラーが送る何らかの微妙なサインを動物が感じ取り、振る舞い方を変える現象のことです。
表現の元となった「クレバーハンス」は、1890年ごろから1900年代初頭にかけてドイツに実在していました。この馬は、飼い主であるヴィルヘルム・フォン・オーステン卿とともに「計算ができる馬」として各地を巡業して回っていたようです。 ところが1907年、心理学者オスカー・フングストの調査により、ハンスには計算能力がないことが証明されてしまいます。この隠し芸のトリックは「問題を出す人の姿勢と表情に現れる微妙な緊張をハンスが目で読み取り、蹄でのタップを止めるタイミングを計っていた」という単純なものでした。この出来事が元となり、以降同様の現象は「クレバーハンス効果」と呼ばれるようになりました。 「計算ができる犬」も、問題を出す人間が観客には分からない何らかのサインを犬に送ることにより、吠えるのをやめるタイミングや前足でのタップを止めるタイミングを示しているものと推測されます。ただしそのサインが極めて微妙で、何度見ても分からないというレベルである場合、この「計算ができる犬」という現象を一瞬信じてしまいそうになることも確かです。例えば以下は、計算ができる犬として有名なジャックラッセルテリア「マギー」(Maggie)の動画です。飼い主であるジェシーさんから何らかのサインを受け取っていることまでは確認されています。しかし、そのサインが何であるのかはよくわかっていません。
表現の元となった「クレバーハンス」は、1890年ごろから1900年代初頭にかけてドイツに実在していました。この馬は、飼い主であるヴィルヘルム・フォン・オーステン卿とともに「計算ができる馬」として各地を巡業して回っていたようです。 ところが1907年、心理学者オスカー・フングストの調査により、ハンスには計算能力がないことが証明されてしまいます。この隠し芸のトリックは「問題を出す人の姿勢と表情に現れる微妙な緊張をハンスが目で読み取り、蹄でのタップを止めるタイミングを計っていた」という単純なものでした。この出来事が元となり、以降同様の現象は「クレバーハンス効果」と呼ばれるようになりました。 「計算ができる犬」も、問題を出す人間が観客には分からない何らかのサインを犬に送ることにより、吠えるのをやめるタイミングや前足でのタップを止めるタイミングを示しているものと推測されます。ただしそのサインが極めて微妙で、何度見ても分からないというレベルである場合、この「計算ができる犬」という現象を一瞬信じてしまいそうになることも確かです。例えば以下は、計算ができる犬として有名なジャックラッセルテリア「マギー」(Maggie)の動画です。飼い主であるジェシーさんから何らかのサインを受け取っていることまでは確認されています。しかし、そのサインが何であるのかはよくわかっていません。
計算犬マギー
伝説の結論
口頭による出題や数字を使った問題に対し、犬が脳内で暗算をして答えを出すという芸当は、「クレバーハンス効果」なしでは到底できるものではありません。ですから「犬は算数ができる」という都市伝説は嘘と言ってよいでしょう。しかし、犬には全く数学的な能力がないのかというとそういうわけではなく、数の大小くらいは比較できるようです。以下は、犬の数量比較能力を示すいくつかの研究報告です。
2007年に行われた調査では、18頭の犬を対象とし、多い方のおやつと少ない方のおやつを同時に見せたとき、犬がどちらのおやつを選びやすいかが観察されました(→出典)。その結果、犬は基本的に多い方を選ぶ傾向が強かったものの、両者の差が小さければ小さいほど、どちらか一方選択するまでに困難を要したと言います。こうした結果から研究者は、犬にはパッと見で量の過多を見分ける能力が備わっているとの結論に至りました。なお犬が持つこの能力に関しては、イギリスのBBC2が製作した犬と猫の比較番組「Cats Vs Dogs」の中でも垣間見ることができます(→こちら)。
2012年に行われた調査では、38頭の犬を対象とした2頭1組のテストが行われました(→出典)。テストでは「両方の犬に平等におやつを与えるトレーナー」と「どちらか一方に多くおやつを与えるトレーナー」のどちらかが登場し、それぞれ2頭の犬たちを平等および不平等に扱いました。こうしたプロセスを経た後、犬が自発的にどちらのトレーナーに近づいていくかを観察した結果、平等なトレーナーよりも、自分にたくさんのおやつをくれるトレーナーの方に近づく傾向が見られたと言います。また、平等なトレーナーと自分にあまりおやつをくれないケチなトレーナーとの間に差は見られなかったとも。こうした結果から研究者は、犬は報酬の平等性よりも、不平等性に対して強い感受性を示す傾向があるとの結論に至りました。
2002年に行われた調査では、11頭の犬を対象として、仕切り板の後ろに1個ずつ合計2個のおやつを隠し、仕切り板を外した時の凝視時間が計測されました(→出典)。その後、同じ作業手順でおやつを隠した後、本来あるべき「2個」という答えとは違う「1個」や「3個」という予想外の数を提示してみました。その結果、「興味や不信感」の指標である凝視時間が延びたと言います。この結果から研究チームは、犬にも単純な数量比較能力があるようだとの結論に至りました。
上記したような調査報告から、犬に数の大小を比較する能力がある事は確かなようです。そしてこの数量比較能力は、野生環境で群れをなして暮らしている犬にとっては非常に重要な役割を果たしている可能性が示されています。それは群れの大小を瞬時に比較することで、自分が属する群れの進退を決しているというものです。
2010年、ミシガン大学の研究チームは、野犬の群れ同士の間で見られる自然発生的な対立状況を観察しました(→出典)。その結果、群れ内の1頭が敵対する群れに対して攻撃的な振る舞いを見せる確率は、敵対する群れが自分の群れよりも少ない時に高まったといいます。逆に、自分の群れが敵対する群れよりも小さいとき、群れ内の半分以上が撤退する確率が高まったとも。さらに、群れの大きさを比較する能力は、1つの群れに最低4頭の犬が含まれ、なおかつ両者の格差が大きければ大きいほど高まったそうです。こうした結果から研究チームは、犬に備わっている数量の比較能力は、自分の属している群れと敵対する群れの構成要員を瞬時に把握し、侵攻か撤退かを決めるのに役立っているのではないかとの可能性を導き出しました。
現代の日本に暮らすペット犬が、群れの大きさを比較するという状況に出くわす事はまずないでしょうが、パッと見で数量を比較するという能力は「おやつの多い少ないを見比べて多い方を選ぶ」とか、「自分にたくさんのおやつをくれる人を覚える」といった形では役に立ってくれそうです。もし犬が危機的な状況に陥ったら、恐らくこうした能力がサバイバルにつながってくれることでしょう。