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犬のフィラリア症~症状・原因から予防・治療法まで

 犬のフィラリア症について病態、症状、原因、治療法別に解説します。当ページの内容はかなり簡単な説明にとどめていますので、より詳しい内容まで知りたい方は「寄生虫症」の方のフィラリア症をご参照ください。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬のフィラリア症の病態と症状

 犬のフィラリア症とは、寄生虫の一種であるフィラリアによって引き起こされる症状全般を指します。
 一般的には犬の心臓(右心房/うしんぼう)と肺動脈(はいどうみゃく)に寄生する犬糸状虫(いぬしじょうちゅう, Dirofilaria immitis)が有名ですが、ヒトやネコに寄生するものもいます。
血中のミクロフィラリア  フィラリアのメス体内に充満したミクロフィラリアと呼ばれる幼虫は、宿主(しゅくしゅ=寄生された動物のこと)の血管に移動し、蚊やブヨを始めとする吸血昆虫に吸い取られます。吸い取られたミクロフィラリアは吸血昆虫の体内で脱皮を繰り返して発育し、吸血昆虫が次に動物の血を吸った際、その動物の体内に侵入することで次々と感染していきます。
 犬のフィラリアには急性と慢性があり、慢性フィラリア症では以下のような症状が見られます。なお、急性フィラリア症(大静脈症候群, ベナカバシンドロームとも)と呼ばれる症状は、赤褐色の尿、元気が無くなる、黄疸(白目や歯茎が黄色くなること)、呼吸困難などを特徴としており、放置すると死にいたりますので、早急に獣医さんの診察を受けましょう。
慢性フィラリア症の主症状
  • 咳(気管支静脈の血流悪化)
  • 息切れ
  • 散歩を嫌がる
  • 肝臓や腎臓の障害
  • 腹水(腹部に水がたまってふくらむこと)
  • 水を異常にほしがる
  • 四肢のむくみ

犬のフィラリア症の原因

 犬のフィラリア症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
犬のフィラリア症の主な原因
  • 蚊の刺咬(しこう)  フィラリアの幼虫であるミクロフィラリアを含んだ蚊が犬を刺すことで感染します。
     フィラリアは日本名を犬糸条虫(いぬしじょうちゅう)と呼び、体調12~3cmの細長い寄生虫です。トウゴウヤブカ、コガタアカイエカ、ヒトスジシマカなどの蚊が媒介(ばいかい)します。フィラリアは犬の体内で交尾するとミクロフィラリアと呼ばれる幼虫を犬の血液中に産み落とします。このミクロフィラリアは体内では成長できず、血液中を回って蚊に吸われるのを待ちます。蚊に吸われたミクロフィラリアは蚊の体内で二度脱皮して成長し、この蚊が犬を刺すことでその傷からミクロフィラリアが感染します。犬の体内に侵入したミクロフィラリアは皮下組織や筋肉の中で2~3ヶ月かけて成長しながら心臓の右心室にたどり着き、最終的には心臓や肺動脈に寄生します。そこでさらに成長を続け、3~4ヵ月後に成虫となる、というのがフィラリアのライフサイクルです。ちなみにフィラリア成虫は、犬の心臓内で5~6年生きるといわれています。
  • 屋外飼育  室内犬に比べて屋外にいる犬のほうが、蚊に刺される可能性が高くなり、それだけフィラリアに感染する危険性も高くなります。ですから屋外飼育自体が、フィラリア症の間接的な原因ともいえるでしょう。
 なお以下は、一般的な蚊のライフサイクルです。繁殖に最適な温度域が22℃~27℃くらいで、4月下旬~11月中旬が主な活動期間です。しかし冬でも生きている種がいますので油断はできません。 蚊のライフサイクル~卵・幼虫・さなぎ・成虫
  • 水分と温度で孵化する。条件がそろわない場合は、最適な季節が来るまで乾燥した環境で越冬できる。
  • 幼虫ボウフラとも呼ばれる。水中で5~14日かけて脱皮を繰り返し、徐々に大きくなる。
  • さなぎ水面近くに生息し、数日かけて成虫へと近づく。
  • 成虫オスは植物などをエサとし、寿命は約1週間。メスは動物の血液をエサとし、寿命は約1ヶ月。フィラリアの伝播に関係しているのはメスの成虫のみ。

犬のフィラリア症の治療

 犬のフィラリア症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
犬のフィラリア症の主な治療法
  • 駆虫薬  慢性フィラリア症の場合は駆虫薬を投与して寄生虫を除去します。ただし、心臓内で死んだフィラリアの遺骸が肺動脈に詰まることもありますので、投薬後4~6週間は散歩を控えて安静にするのが無難です。
  • 外科手術  急性フィラリア症の場合は一刻を争う緊急事態ですので、外科手術が施されます。首の頚静脈から器具を挿入し、フィラリア虫を摘み取ります。
  • 蚊の駆除 蚊が活発に吸血する4月下旬~11月中旬にかけ、生活環境の中から蚊を駆除するよう努めます。卵、幼虫、さなぎの状態にある蚊は、すべて水を必要としますので、家の周囲やベランダに水たまりを作らないことが予防になるでしょう。また成虫の蚊に対しては殺虫剤で対処するようにします。一般的にピレスロイド系の殺虫剤は安全だとされていますが、体に直接吹きかけたり、エサのある場所での噴霧は控えます。
  • 予防薬 フィラリアを予防するためには予防薬を用います。毎日(もしくは一日おき)に投与するもの、月に一度投与するもの、年に一度注射するものなど、種類は様々です。
     予防薬の投与は犬の体重に合わせて行いますので、素人判断で行うのではなく、必ず獣医師の指示通りに行うのが鉄則です。なおフィラリア予防薬は、薬事法第49条によって「要指示医薬品」に指定されています。獣医師による検査や処方がないままネット等で売買することはできません。
イベルメクチン  フィラリア薬の中に「イベルメクチン」と呼ばれる成分が含まれていることがあります。しかし犬の中には、この成分に対して過剰に反応してしまう個体がいますので要注意です。投与量を間違うと、4~48時間以内に、倦怠、よだれ、嘔吐、食欲不振、起立不能、昏睡といった症状を示します。
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