犬の耳の仕組み
犬の耳の形や解剖学的(かいぼうがくてき)な構造などを、写真を交えて解説していきます。なお犬の耳に対して行われる人為的な整形手術に関しては犬の断耳をご参照ください。
犬の耳の形
長年の選択繁殖(せんたくはんしょく=人間の好みに合わせて繁殖を行うこと)の結果、犬の耳は同一種とは思えないほど様々な形状をもつようになりました。中にはアメリカのティガーのように、片方の耳だけで34センチメートルもある極端な犬もいますが、以下では代表的な耳の形12個をご紹介します。
画像Wikimedia Commons
犬の耳の形12種一覧
- プリックイヤープリックイヤー(prick ear)は日本語では「立ち耳」と呼ばれ、直立しており、先端は丸かったりとがっていたり様々です。ジャーマンシェパード、シベリアンハスキー、ポメラニアンなどのスタンダードとして規定されています。「prick」とは英語で「とがったもの」の意味。
- キャンドルフレームイヤーキャンドルフレームイヤー(candle flame ear)は、立ち耳の中でも特に先端がとがっており、ちょうどろうそくの炎のような形を成している耳です。ミニチュアピンシャーなどで見られますが、ドーベルマンなど断耳によるものは除外します。
- ラウンドティップドイヤーラウンドティップドイヤー(roun- tipped ear)は、立ち耳のなかで先端が丸くなっている耳のことです。フレンチブルドッグの耳は特にチューリップイヤーと呼ばれることもあります。
- バットイヤーバットイヤー(bat ear)は、形状的にはラウンドティップドイヤーと同じですが、ちょうどコウモリ(bat)のように、顔の大きさに比べて耳が大きい場合は、特別にこう呼ばれます。チワワやウェルシュコーギーが代表です。
- フーデドイヤーフーデドイヤー(hooded ear)は、立ち耳の中で、ちょうどフードをかぶったような形をした耳のことで、耳全体が丸みを帯び、内側にカーブしている点が特徴です。バセンジーなどで見られます。
- コックドイヤーコックドイヤー(cocked ear)は、立ち耳の中で、耳が途中で折れ曲がっているものを指し、日本語では「半立ち耳」などど呼称します。プリックイヤーとボタンイヤーのちょうど中間くらいです。コリーやシェットランドシープドッグ(シェルティー)などで見られます。
- ドロップイヤードロップイヤー(drop ear)は、耳が頭の横に垂れ下がったもので、日本語では「垂れ耳」(たれみみ)と呼ばれます。バセットハウンドが代表格です。
- ボタンイヤーボタンイヤー(button ear)は、コックドイヤー(半立ち耳)とドロップイヤー(垂れ耳)の中間くらいの耳を指し、耳が前方に垂れて耳の穴を隠しているものの、垂れ耳のように穴を密閉していない状態です。ジャックラッセルテリアで見られることがあります。
- ローズイヤーローズイヤー(rose ear)は、耳がやや後方に巻き込まれたもので、パグ、ウィペット、ブルドッグ、グレイハウンドなどでよく見られます。
- フォールデドイヤーフォールデドイヤー(folded ear)とは、垂れているものの根元付近は若干立っていて、やや外側に広がった状態の耳です。キャバリアなどのスパニエル種でよく見られます。
- VシェイプイヤーVシェイプイヤー(V-shaped ear)とは、文字通り「V」字型をした耳のことで、前から見たときに折りたたまれた耳の外縁がちょうどアルファベットの「V」に見えるような耳を指します。ブルマスティフやヴィズラなどで見られます。
- フィルバートシェイプイヤーフィルバートシェイプイヤー(Filbert-shaped ear)とはフィルバートナッツのような形をした耳を指し、ベドリントンテリアが有名です。
犬の耳の解剖図
犬の耳は大きく分けて外耳(がいじ)と中耳(ちゅうじ)、および内耳(ないじ)とから構成されます。
外耳
外耳(がいじ)とは体の表面についている目に見える部分で、耳介(じかい)と呼ばれる耳のひらひら部分や音の通り道である外耳道(がいじどう)、耳介を動かす耳介筋(じかいきん)などからなります。
外耳の構成要素
- 耳介耳のひらひら部分である耳介(じかい)には耳介軟骨が入っており、この形状によって犬の耳の形が大きく変化します。なお、特定の犬種においては断耳といって、人為的に耳介軟骨を切り落とし、耳を立たせるという慣習があるものの、近年は動物愛護の観点から欧米の多くの国で禁止されるようになってきました。
- 耳介筋耳介筋は頬骨耳介筋、頚耳介筋、耳下腺耳介筋などの細かい筋肉から構成され、主に顔面神経からの指令によって耳介を思う方向に動かします。
- 外耳道外耳道(がいじどう)は音(振動した空気)の通り道で垂直部と水平部に分かれており、両者の間には屈曲部と呼ばれるL字カーブが存在します。綿棒で耳の奥を掃除しようとしても、鼓膜まで到達できないのはこのL字カーブによって途中で邪魔されるからです。よく聞く外耳炎(がいじえん)という病名は、外耳道内部に生じた炎症のことを言います。
中耳
中耳(ちゅうじ)とは耳の鼓膜から奥のことを指し、中耳腔(ちゅうじくう)、耳小骨(じしょうこつ)、耳管(じかん)から構成されます。
中耳の構成要素
- 中耳腔中耳腔とは鼓膜の奥の空洞状になっている部分で、鼓室(こしつ)とも呼ばれます。ここに炎症が起こった状態が中耳炎(ちゅうじえん)です。
- 耳小骨耳小骨とはつち骨・きぬた骨・あぶみ骨の3つからなる小さい骨で、鼓膜に伝わった空気の振動を増幅して内耳に伝える働きがあります。
- 耳管耳管とは中耳腔から伸びる管で鼻腔、咽頭につながっています。耳管の中には、たくさんの線毛が生えており、この線毛の働きによって中耳の中は清潔に保たれます。
内耳
内耳とは中耳のさらに奥にある部分で、蝸牛(かぎゅう)と前庭・三半規管(ぜんていさんはんきかん)より構成されます。
内耳の構成要素
- 蝸牛蝸牛とはカタツムリのことですが、巻貝状の形態をしていることからこの名がつけられました。その内部はリンパ液で満たされており、鼓膜そして耳小骨を経た振動はこのリンパを介して聴神経に伝わり、最終的に脳内に情報が送られます。
- 前庭・三半規管前庭・三半規管は、おもにバランス平衡感覚をつかさどる器官です。前庭神経を経由して情報が脳内へと伝達されます。
犬の聴覚
犬の音を聞き取ることが出来る範囲、聴力、聞き取り能力など、犬の聴覚について写真を用いて解説してきます。
犬に聞こえる音域(可聴域)
人間の可聴域(かちょういき=聞き取れる音の範囲)が20~20,000ヘルツであるのに対し、犬の可聴域は40~65,000ヘルツといわれています。下限は人間それほど違いませんが、上限が大きく違います。最高音域はピアノの鍵盤(けんばん)の右端に、さらに48個の鍵盤を足して4オクターブ高くした右端の音です。こうした犬の広い可聴域は、野生の小動物が発する高い鳴き声を聞き取り、獲物の居場所を素早く発見するために発達したと考えられます。ちなみに犬笛(いぬぶえ)は犬の可聴域の広さを応用した道具で、人間には聞き取れない超音波(約30,000ヘルツ)を発して犬を呼び戻します。
上記した犬の可聴域の中でも、とりわけ聞き取り能力が優れている区間があります。それは3,000~12,000ヘルツの間です。この音域に関する犬の聴力は、人間よりも5~15デシベル(音の強さの単位)弱い音でも聞き取れるとか。具体的には以下のような音になります(YouTube, 別ウィンドウ)。 3,000ヘルツの音 12,000ヘルツの音 犬がこのような高い音に対して敏感な聴力を持っているということは、上記したように小動物の発する甲高い鳴き声をいちはやく察知する際に役立つ反面、掃除機や芝刈り機、ドライヤーや電動工具などの出す高い音に対し、人間よりも強く不快感を感じてしまう原因にもなっています。
上記した犬の可聴域の中でも、とりわけ聞き取り能力が優れている区間があります。それは3,000~12,000ヘルツの間です。この音域に関する犬の聴力は、人間よりも5~15デシベル(音の強さの単位)弱い音でも聞き取れるとか。具体的には以下のような音になります(YouTube, 別ウィンドウ)。 3,000ヘルツの音 12,000ヘルツの音 犬がこのような高い音に対して敏感な聴力を持っているということは、上記したように小動物の発する甲高い鳴き声をいちはやく察知する際に役立つ反面、掃除機や芝刈り機、ドライヤーや電動工具などの出す高い音に対し、人間よりも強く不快感を感じてしまう原因にもなっています。
犬と音程
「パブロフの犬」で有名なロシアの生理学者・イヴァン・パブロフは、犬たちを一定の音程に反応すると同時に、その音程から少しでもずれた場合は反応しないよう訓練しました。結果、犬たちは「ド」の音と、そこからわずか1/8音だけずれた音程を聞き分けることができたそうです。
犬の聴力
馬、牛、山羊の音源定位能力(おんげんていいのうりょく=音の来る方向を聴き定めること)が20~30度であるのに対し、犬の音源定位能力は約8度と言われています。ちなみに人間のそれは1度程度と言われていますので、この能力に関しては人の方が一歩リードしているといったところでしょう。
また、犬はたまに小首をかしげるしぐさを見せますが、これは右と左の耳の位置を変えることでより正確に音源を探ろうとしているときのしぐさです。野性環境では外敵や獲物の位置を、音から瞬時(しゅんじ)に把握することが生き延びることに直結しているため、音源定位能力が自然と発達したのでしょう。なお、左右の耳に入ってくる音の誤差から音源を逆算しているため、頭の大きい犬のほうが、小さい犬に比べて音の到達誤差がより明瞭になり、音源定位能力に関しては有利と言えます。 また、犬の耳には「頬骨耳介筋」(耳を前に向ける)、「頚耳介筋」(耳を後ろに引く)、「耳下腺耳介筋」(耳を下に引く)といった細かな筋肉が付いており、耳介(じかい=耳のひらひら部分)をあらゆる方向に片方ずつ動かすことが出来ます(ただし垂れ耳の犬にはできません)。これはちょうどレーダーアンテナのように音を集めるために発達した能力ですが、その影響もあって犬の聴力は人間のおよそ4倍あるといわれています。人間が10メートル離れたところでようやく聞き取れる音を、犬は40メートル離れた地点からでも聞き取ることが出来るのです。
また、犬はたまに小首をかしげるしぐさを見せますが、これは右と左の耳の位置を変えることでより正確に音源を探ろうとしているときのしぐさです。野性環境では外敵や獲物の位置を、音から瞬時(しゅんじ)に把握することが生き延びることに直結しているため、音源定位能力が自然と発達したのでしょう。なお、左右の耳に入ってくる音の誤差から音源を逆算しているため、頭の大きい犬のほうが、小さい犬に比べて音の到達誤差がより明瞭になり、音源定位能力に関しては有利と言えます。 また、犬の耳には「頬骨耳介筋」(耳を前に向ける)、「頚耳介筋」(耳を後ろに引く)、「耳下腺耳介筋」(耳を下に引く)といった細かな筋肉が付いており、耳介(じかい=耳のひらひら部分)をあらゆる方向に片方ずつ動かすことが出来ます(ただし垂れ耳の犬にはできません)。これはちょうどレーダーアンテナのように音を集めるために発達した能力ですが、その影響もあって犬の聴力は人間のおよそ4倍あるといわれています。人間が10メートル離れたところでようやく聞き取れる音を、犬は40メートル離れた地点からでも聞き取ることが出来るのです。
犬の聴力4倍は本当? 犬の聴力が人の4倍という数字は、W.B.ジョスリン氏が非公式に行った実験が元データになっているようです。彼は6.4キロ離れた地点からオオカミの遠吠えをまねて叫んだところ、アルゴンキン公園(カナダ)内のシンリンオオカミがこれに応えたといいます。そして似たような条件下で、人間に対して同様の実験をしたところ、1.6キロ地点から行っても聞こえなかったそうです。この実験結果からオオカミ(および犬)は人間より4倍耳がよい、という風説が生まれたようですが、「全ての音に関して一様に人間よりも聴力が優れているわけではない」と考える人もいます。 犬も平気でうそをつく?(文春文庫)
犬は人の言葉を聞き取れる?
音声学の領域にはフォルマント(ホルマント)という概念があります。これはある個体の発した音声は、その個体特有の周波数領域が強くなっているという現象のことです。発声器官の形状が個体によって微妙に違うためにこのような現象が生じます。
「犬は人間の言葉を理解できない」というのが通説となっていますが、フォルマントの聞き取りはできるようです。たとえば目の見えない子犬は、鳴き声中に含まれるフォルマントを聞き分けることにより母犬や兄弟犬の個体識別を行っていると考えられています。また人間の発する言葉は母音(ぼいん=a,e,i,o,u)と子音(しいん=k,s,t,n,h,・・・)とからなっていますが、犬は飼い主の発する母音からフォルマントを聞き分け、飼い主の識別できるのではないかと考えられています。
このように複雑な文章の聞き取りや理解は確かに無理でしょうが、母音の聞き取り、およびその中に含まれるフォルマントの選別くらいは犬にもできるようです。
「犬は人間の言葉を理解できない」というのが通説となっていますが、フォルマントの聞き取りはできるようです。たとえば目の見えない子犬は、鳴き声中に含まれるフォルマントを聞き分けることにより母犬や兄弟犬の個体識別を行っていると考えられています。また人間の発する言葉は母音(ぼいん=a,e,i,o,u)と子音(しいん=k,s,t,n,h,・・・)とからなっていますが、犬は飼い主の発する母音からフォルマントを聞き分け、飼い主の識別できるのではないかと考えられています。
このように複雑な文章の聞き取りや理解は確かに無理でしょうが、母音の聞き取り、およびその中に含まれるフォルマントの選別くらいは犬にもできるようです。
- フォルマントとは?
- 音声は声帯(vocal fold)の振動によって生成された音波が声道(vocal tract)で共鳴することで形成されます。音声の源となる声帯の振動は会話時で100~200Hzであり、実はゴム風船のブーという振動とほとんど変わりません。この味も素っ気もない声帯音源が、声道(咽頭喉頭、唇・舌・歯・顎・頬で構成される口腔、さらに鼻腔、副鼻腔)で共鳴することにより、特定帯域ごとに音が増幅されます。そしてこの増幅された成分の塊をフォルマントと呼びます。
犬の聴力低下と耳のチェック
犬の耳を悪くする要因、および耳に関連した疾患をいちはやく見つけるためのチェックリストです。犬の耳のケアと合わせて習慣化しましょう。
犬の聴力低下要因
人間より優れた聴力を持つ犬ですが、その聴力を低下させるものとしては主に以下のようなものがあります。飼い主の側でどうしようもない要因もありますが、病気や有害物質など予防できそうなものは確実に予防したいものです。
犬の耳を悪くする要因
- 加齢人間同様、加齢に伴い内耳の中にあって音の増幅を担当する耳小骨(じしょうこつ=つち骨・きぬた骨・あぶみ骨)の動きが悪くなると、聴力が落ちます。
- 遺伝ルイジアナ州立大学のジョージ・ストレイン氏の研究によると、白、糟毛(かすげ=灰色の地毛に白の差し毛)、および白黒ブチの被毛を持った犬と、先天的な聴覚障害には密接な関連性があるそうです。白黒ブチの代表格であるダルメシアンでは、22%の割合で片耳が聞こえず、8%の割合で両耳が聞こえないといい、また白いブルテリアは20%の確率で聴覚障害を持つとか。
- 感染症外耳炎、中耳炎、内耳炎などの感染症が、鼓膜を始めとする耳内部の組織や細胞を破壊し、聴力が低下することがあります。
- 化学物質シンナー、接着剤、洗剤などが鼻から吸い込まれたり皮膚に直接ついて犬の体内に取り込まれると、溶剤の成分が耳の分泌液に蓄積され、聴力が落ちてしまうことがあります。
- 音響外傷あまりにも大きな音を聞き続けていると、内耳の中で音の伝達にかかわっている有毛細胞が損傷を受け、聴力が低下します。猟犬として使われることの多いゴールデンレトリバー、ポインター、スパニエルに難聴が多いのは、これらの犬種がハンターの出す銃声を日常的に聞かされているためです。