犬はどの色を好む?
調査を行ったのはインド科学教育研究大学のチーム。国内に多数生息している放浪犬(FreeRoamingDogs)を対象とし、色が犬の行動に及ぼす影響力を検証しました。
調査対象と方法
調査対象となったのは都市部や郊外などさまざまな地域に暮らす放浪犬合計458頭。1頭につき1回だけテストを受けるようデザインされ、セッティングに際しては光の具合が統一されるよう配慮されました。用いられた器具は犬の色覚スペクトラムで視認可能な黄色、青、灰色のボウル(直径12.6cm × 高さ4.7cm)。犬の鼻がボウルから5cmの距離に入って探索を行った時点で「選好した」とみなされました。
調査結果
セッティングを調整した4種類の実験が行われました。
実験1
3色ボウルを15cm間隔で置き、犬の自発的な選好を観察しました。「おやつが入ったバージョン」と「おやつがないバージョン」で試行した結果、どちらのバージョンでも黄色が選好されることが判明しました。

実験2
黄色の次に好まれる色を調べるため、青と灰色の2色に絞って同様の選好実験を行いました。なお実験1によりおやつの有無が選好に影響しないことが判明したため、バージョンは「おやつあり」に統一されています。実験の結果、明白な選好は確認されませんでした。
実験3
着色剤の匂いが影響している可能性を考慮し、ボウルの匂いはすれど実物は視認できない状態を作りました。具体的にはボウルの上にふるいを被せてしまうというものです。実験の結果、明白な選好は確認されませんでした。

実験4
黄色いボウルがもつ誘引力を確かめるため、おやつの入った黄色いボウルとおやつのない黄色いボウルを並べた選好実験を行いました。その結果、おやつが入った方のボウルが選好されることが確認されました(35:19)。
またおやつの入った灰色のボウルとおやつのない黄色いボウルを並べた選好実験を行った結果、なぜか空っぽの黄色いボウルの方が統計的に有意なレベルで選好されることが明らかになりました。この結果はおやつがビスケットだろうとチキンだろうと変わらなかったとのこと。
Ready, set, yellow! color preference of Indian free-ranging dogs
Roy, A., Lahiri, A., Nandi, S. et al. Anim Cogn 28, 7 (2025), DOI:10.1007/s10071-024-01928-9
またおやつの入った灰色のボウルとおやつのない黄色いボウルを並べた選好実験を行った結果、なぜか空っぽの黄色いボウルの方が統計的に有意なレベルで選好されることが明らかになりました。この結果はおやつがビスケットだろうとチキンだろうと変わらなかったとのこと。

Roy, A., Lahiri, A., Nandi, S. et al. Anim Cogn 28, 7 (2025), DOI:10.1007/s10071-024-01928-9

「黄色」は魅力的だが要検証
青と灰色を用いた実験2では明白な選好が認められなかったものの、少なくとも犬たちはボウルに鼻先を近づけての探索行動を行いました。この事実からどちらかの色が積極的に忌避されているわけではないことがわかります。
また実験1および実験3の結果から、犬が積極的に黄色を選好すること、およびその誘引力が匂いによるものではないことが判明しました。実験4からも分かる通りこの視覚的な誘引力は非常に強く、たとえ匂いの強いビスケットやチキンが横にあっても、空っぽの黄色ボウルを選ぶほどでした。
また実験1および実験3の結果から、犬が積極的に黄色を選好すること、およびその誘引力が匂いによるものではないことが判明しました。実験4からも分かる通りこの視覚的な誘引力は非常に強く、たとえ匂いの強いビスケットやチキンが横にあっても、空っぽの黄色ボウルを選ぶほどでした。
先天的な選好?
なぜこれほどまでに黄色は犬を惹きつけるのでしょうか?適当な日本語訳が見当たらないので原文通りに記載しますが「species confidence hypothesis」(種の自信仮説?)では同種の動物が保有する体の色に選好を示すとされています。
放浪犬の被毛にはたいていオレンジ~茶色が含まれており黄色に近い色として認識されるため、黄色に対する極端な選好につながったと解釈できなくもありません。しかしこの仮説はそもそも繁殖相手を選ぶときにとりわけ重要となるものです。食料漁りという状況で同属種の色を優先的に探すということはカニバリズム(共食い)を前提としていることになり、やや直感に反します。
また青(被毛色にない)と灰色(被毛色に含まれる)の間で選好が見られなかったという点や、モロッコで行われた別の調査で青と黄色の間で色の選好がなかったと報告されている点からも先験仮説の信憑性には疑問が残ります。
放浪犬の被毛にはたいていオレンジ~茶色が含まれており黄色に近い色として認識されるため、黄色に対する極端な選好につながったと解釈できなくもありません。しかしこの仮説はそもそも繁殖相手を選ぶときにとりわけ重要となるものです。食料漁りという状況で同属種の色を優先的に探すということはカニバリズム(共食い)を前提としていることになり、やや直感に反します。

後天的な選好?
黄色に対する選好が先天的なものでないとすると、生きていく中で獲得した後天的なものであると想定されます。
例えばインドの家庭ではターメリック(黄色)や乾燥チリ(赤)がよく用いられ、廃棄物の中にも頻繁に残されます。放浪犬たちが残飯漁りを繰り返すうち、いつしか「黄色=食べ物」という学習が成立したのだとすると、黄色に対する条件反射的な選好にも説明がつきます。また犬の目には生肉の赤色が黄色っぽく見えるため、1度でも肉を目にしたことのある犬にとっては少なくとも青や灰色よりも黄色が魅力的に映る可能性もあるでしょう。
例えばインドの家庭ではターメリック(黄色)や乾燥チリ(赤)がよく用いられ、廃棄物の中にも頻繁に残されます。放浪犬たちが残飯漁りを繰り返すうち、いつしか「黄色=食べ物」という学習が成立したのだとすると、黄色に対する条件反射的な選好にも説明がつきます。また犬の目には生肉の赤色が黄色っぽく見えるため、1度でも肉を目にしたことのある犬にとっては少なくとも青や灰色よりも黄色が魅力的に映る可能性もあるでしょう。
犬との生活に利用できる?
今回の実験で明らかになった色の選好は、犬との生活の中で何かの役に立つのでしょうか?
まず青や灰色が積極的に避けられるわけではないという事実から、これらの色を忌避剤として利用する道は難しいでしょう。例えば2010年代、インド国内では青色が野良犬よけになるとの風説が一般化した結果、家の周囲にインディゴブルーの水が入ったペットボトルを配置する人が増えました。しかし上記したように「犬は青を嫌う」という実証データがあるわけではないため、ちょうど日本で言う猫よけのペットボトルと同じ程度の「おまじない」の意味しかないでしょう。
次に黄色が積極的に選好されるという事実から、誘引剤として利用する道は少しはありそうです。まずまっさきにフードの着色料としての可能性が思い浮かびますが、フードは飼い主にも美味しく見せる必要性があるため現状では赤系統で占められています。もし犬ファーストでデザインした場合、フードの色は真っ黄色くらいでもいいのかもしれませんね。
次におもちゃへの応用が考えられますが、その前に黄色への偏愛がそもそも犬全体に一般化できるハードワイアな現象なのか、それともインドの犬だけに見られるローカルな現象なのかを検証する必要があります。調査チームもこの点に関してはさらなる調査が必要と言及していますので、現時点では「犬は匂いより色を優先することがある」以上のことは断言しない方がフェアでしょう。
まず青や灰色が積極的に避けられるわけではないという事実から、これらの色を忌避剤として利用する道は難しいでしょう。例えば2010年代、インド国内では青色が野良犬よけになるとの風説が一般化した結果、家の周囲にインディゴブルーの水が入ったペットボトルを配置する人が増えました。しかし上記したように「犬は青を嫌う」という実証データがあるわけではないため、ちょうど日本で言う猫よけのペットボトルと同じ程度の「おまじない」の意味しかないでしょう。

次におもちゃへの応用が考えられますが、その前に黄色への偏愛がそもそも犬全体に一般化できるハードワイアな現象なのか、それともインドの犬だけに見られるローカルな現象なのかを検証する必要があります。調査チームもこの点に関してはさらなる調査が必要と言及していますので、現時点では「犬は匂いより色を優先することがある」以上のことは断言しない方がフェアでしょう。
風向きにもよるでしょうが、犬と対象の距離が3mを超えた場合、匂いはもはや役に立たないとの報告もあります。飼い主は服の色を黄色系統にすると、遠くからでも視認しやすくなるかもしれません。