トップ2024年・犬ニュース一覧9月の犬ニュース9月9日

ドッグフードに含まれる甲状腺組織による犬の甲状腺中毒症例

 「自然に近い形の給餌が最善」という信念の元、飼い犬に生肉ベースの食餌を与える飼い主が増えています。しかしメーカーの原料管理がおろそかだと、出来上がったフードが原因でホルモンバランスを崩してしまうかもしれません。

生肉フードによる甲状腺中毒

 甲状腺中毒症(thyrotoxicosis)とは外的な原因によって血中甲状腺ホルモン濃度が上昇した病態のこと。甲状腺自体に病変が生じて原発的にホルモンバランスが崩れた甲状腺機能亢進症(hyperthyroidism)とは区別されます。
 オランダ・ユトレヒト大学獣医学部のチームが犬では珍しい人工甲状腺中毒症の症例報告を行いましたのでご紹介します。
 オスのブルテリア(7歳 | 20.5kg)がユトレヒト大学付属のコンパニオンアニマルクリニックを受診した。5ヶ月前から多飲多尿、パンティング(浅速呼吸)、多動、体重減少(食欲は正常)などの体調不良を示しているという。
 身体検査ではやせ型寄りの正常体型(BCS4/9)、高体温(40°C)、頻脈(200回/分)、頻呼吸(120/分)が認められ、可能性として糖尿病、副腎皮質機能亢進症、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症などが疑われた。
 血液生化学検査や尿検査では異常が見られなかったため血清甲状腺刺激ホルモン(TSH)、総サイロキシン(T4)、CTスキャン、頸胸部のシンチグラフィ検査などを行った結果、ホルモン値が異常であったこと、および良性と悪性とにかかわらず腫瘍組織が見つからなかったことから外因性の甲状腺機能亢進症が強く疑われた。
 飼い主への聞き取りを行ったところ、「完全栄養食」と銘打って市販されている生肉ベースの食事を長期に渡って給餌していることが判明。給餌開始のタイミングと症状の出現も一致していた。
 確定診断のため給餌されていたフードを検査したところ正常の7倍近いT4が検出され(参照値0.75μg/gに対し5.1μg/g)、食事内容を顕微鏡で調べたところ甲状腺組織が確認された。
 飼い主がドライフードを頑なに拒絶したため食事を甲状腺ホルモンが正常濃度の別のRMBD(生肉ベースフード)に変更した結果、cTSH(甲状腺ホルモン刺激ホルモン)値が0.03未満→0.23μg/L(※参照値0.60μg/L未満)、TT4値が70→13nmol/L(※参照値19~46nmol/L)に改善した。
 食事変更から60日後にフォローアップ検査を行った結果、TT4、TSH、シンチグラフィーにおける異常所見が消失。体重は22.8 kgに増量し体温は39.5°Cに低下した。
Food-induced thyrotoxicosis in a dog
Veterinary Record Case Reports, Marco Isidori, Ronald J. Corbee, Hans S. Kooistra, DOI:10.1002/vrc2.975

生肉フードの選別に注意

 犬における甲状腺中毒症の先行例としては、L-サイロキシンを含む薬剤の過剰投与による医原性のものや、L-サイロキシンサプリを摂取している同居犬の便を食糞したことによるものが報告されています。今回の症例ではフードの原材料として使われた喉頭部の組織に甲状腺が含まれていたために発症したものと推測されます。
 甲状腺ホルモンは160°Cでも失活せず胃酸でも消化されないため、フードの加熱工程をすり抜けてそのまま販売ルートに乗ってしまう危険性があります。食道や気管の使用はペットフードでは禁止されていないため、今回のような症例を予防するためにはメーカーが自主規制すべきだと言及されています。
2018年にはアメリカでフードに安楽死薬(ペントバルビタール)が混入するという信じられない事件が起こっています。生肉フードの選別には要注意です。 日本のペットフードに安楽死薬(ペントバルビタール)が混入する可能性はないのか?