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老犬の幸せを評価するための簡易チェック方法~週に1回QOLを数値化しよう

 犬と生活していると、毎日接しているがゆえに微妙な変化に気づきにくくなります。特に生活の質が低下しがちな老犬に関しては、いかにしてQOLの変化を客観的かつ継続的にモニタリングするかが重要になります。

老犬のQOL調査票

 調査を行ったのはノースカロライナ州立大学獣医学校のチーム。犬の加齢による福祉全般への影響を長期的にモニタリングするプログラムの一環として、ペット犬のQOL(生活の質)に関する17項目からなるアンケートを飼い主に配布して回答してもらいました。

調査対象

 調査対象となったのは2019年1月から2023年1月までの期間、大学の呼びかけに応じた犬の飼い主。参加条件は体重と体高から予測される犬の寿命の75%を経過していること、および寿命に関わるような病気を抱えていないこととされました。最終的に合計92頭が解析対象となり、内訳はメス50頭(うち未避妊1)+オス42頭(うち未去勢1)、平均12.84歳(9.6~16.4)、想定される寿命を100%としたときの年齢は平均104%(77~126%)、非純血種42頭+中~大型犬を中心とした純血種58頭となりました。

調査方法

 調査方法としては先行調査で使用された Canine Owner-Reported Quality of Life Questionnaire(CORQ)という質問票にわずかな調整を加えたものが採用されました。これは飼い犬の福祉を「生命力」「伴侶性」「痛み」「運動性」という4つの分野に分けた上で17の設問に飼い主が主観で回答していくもので、直近1週間が0~7までの8段階で評価されました。さらに犬の生活の質全般を1~10までで評価するという単一項目(NRS)も付け加えられました。

調査結果

 最高値7のCORQスコアを全体的に見たときの中央値は5.76で、分野別には以下のようになりました。
CORQスコア(中央値)
  • 生命力=5.1(1.4~7)
  • 伴侶性=6.33(3.17~7)
  • 痛み=5.5(0~7)
  • 運動性=5.6(0~7)

横断調査の結果

 NRSとCORQ全体との間に明白な正の相関が認められると同時に、CORQの各分野(特に生命力)とも強い相関が認められました。言い換えると犬のQOLに関する飼い主の主観評価が上がると(下がると)、CORQスコアも上がる(下がる)となります。
 年齢および分画寿命(予測寿命を100%としたとき%で表される年齢)はCORQ全体およびCORQの各分野と負の相関を有していました。唯一の例外は「運動性」と「年齢」との間に相関が認められなかったという点だけです。言い換えると、犬の加齢が進むほどCORQスコアが下がるとなります。
 NRS(最高点10)は年齢および分画寿命と負の相関にあり、関係の強さは年齢<分画寿命でした。言い換えると、犬の加齢が進むほどNRSが下がるとなります。

縦断調査の結果

 92頭のうち34頭(メス21+オス13)が経時観察対象となりました。内訳は非純血種13頭、平均12.5歳、平均分画寿命99%で、およそ6ヶ月に1回のペースで繰り返し質問票を完了して数値の推移をモニタリングしました。
 34頭中14頭が安楽死となり、死直近のCORQは中央値で3.70でした。分野別の数値、およびNRSは以下です。
安楽死直近のQOL(中央値)
  • 生命力=3.8
  • 伴侶性=5.5
  • 痛み=4.0
  • 運動性=3.62
  • NRS=6.0
 CORQスコアと時間経過およびCORQスコアとベースラインの分画寿命との間に負の相関が認められました。具体的には加齢が1ヶ月進むごとにCORQスコアが0.05ポイント低下し、分画寿命が10%進行するたびにCORQスコアが平均0.8低下するというものです。
 分画寿命のハザード比は1.02となり、全死因死亡リスクとの間に有意関係は認められませんでした。一方、CORQ全体のスコアに関してハザード比を計算したところ0.56となりました。これはCORQスコアが1ポイント低下すると死亡する確率が79%増加するという意味になります。
 CORQ全体のスコア5.35を境にして死亡ハイリスク群とローリスク群が分けられ、前者に比べて後者のリスクは15.44倍になると推定されました。
Cross-sectional and longitudinal analysis of health-related quality of life (HRQoL) in senior and geriatric dogs
Mondino A, Yang C-C, Simon KE, Fefer G, Robertson J, Gruen ME, et al. (2024) , PLoS ONE 19(9): e0301181. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0301181

老犬のQOL低下を捉える

 加齢が進むに連れ老犬たちのQOLが低下するという結果は直感的理解に準ずるものです。この知見を犬との生活に活用する場合、どのような方法があるでしょうか。

CORQとNRSの互換性

 先行調査ではCORQが飼い主によるQOLの主観評価値(VAS)と強く相関していたと報告されています。当調査でも1項目からなるNRSとCORQとの間に明白な正の相関が認められましたので、煩雑なアンケートができないような場合はVAS(VisualAnalogScale=つまみを調整して感覚的にしっくりくる場所に合わせる)やNRS(主観を数値化する)が簡易評価法として代用できるのではないかと言及されています。
 例えば1週間に1度のペースで「直近1週間における犬の生活の質は10点満点中何点?」という評価を継続して行っていれば、犬のQOLが数値化されて微妙な変化に気づきやすくなる可能性があります。犬が一番元気だった頃を10点として減点方式で評価すれば、より直観的に現在の状態を数値化しやすくなるでしょう。
 調査票に則って生命力、伴侶性、痛み、運動性という分野で評価する場合は以下のような設問が役に立ちます。
老犬のQOL評価・簡易版
  • 生命力好きな活動に勤しんでいるか | 十分に遊んでいるか | いつもどおりの振る舞いか | 不安が生活に影を落としていないか | 活力に満ちているか
  • 伴侶性自分のそばにいることを楽しんでいるか | いつもどおりの愛情を示してくれるか | 撫でられたり触られることを喜んでいるか | 食欲は減っていないか | 起き上がるのに苦労していないか | 食事量はいつも通りか
  • 痛み夜中に十分眠れているか | 痛みや苦悩の徴候はないか
  • 運動性バランスを崩すことはないか | 散歩中に苦労することはないか | 起床時や横臥時に苦労することはないか | 居心地の悪さを感じていないか

死亡リスクを評価する

 死亡リスクに関してはCORQ全体のスコアが5.35を下回るとハイリスク群となり、ローリスク群に比べると15.44倍になると推定されました。
 AAHAが推奨している「半年に一度の受診」を実行し、健康診断だけでなくアンケートも行えば犬のQOLを捉えやすくなり、また死亡リスクの評価にもつながるのではないかと期待されています。
 終末期における安楽死の割合が圧倒的に多い米国(9割)などにおいては、特に上記した死亡リスクの早期評価が貴重な判断材料になってくれると考えられます。一方、最期まで看取ることが美徳とされる日本では「本格的な介護に備える」「心理的なお別れの準備をする」といったペット終活の目安として利用できるでしょうか。
CORQの17項目に関しては本文内に設問と計算式が掲載されています。単純な加算方式ではないのでご注意ください。