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犬の投薬コンプライアンス(処方箋遵守)を高めるには?

 飼い犬に投薬する際、多くの飼い主が何らかの困難を感じます。投薬スケジュールや方法を間違うと期待される薬効が発揮されませんので、困難を乗り越えたうえでの処方箋遵守(投薬コンプライアンス)が極めて重要になります。

投薬コンプライアンス調査

 調査を行ったのはニュージーランドにあるマッセー大学獣医科学校を中心としたチーム。獣医師が患犬に対して何らかの薬を処方した際、飼い主が処方箋通りに投薬スケジュールや方法を遵守しているのかどうかをアンケートベースで調査しました。

調査対象

 調査対象となったのは2019年1月から2020年7月までの期間、マッセー大学獣医教育病院を受診したペット犬のうち、何らかの薬剤(経口薬 or 局所薬)を処方されたケース。
 アンケートでは飼い主および飼い犬の基本属性のほか、投薬にまつわるさまざまな側面が深堀りされました。

調査結果

 最終的に解析に回されたのは患犬151頭の飼い主。犬の体重中央値は23kg(2.2~73kg)、年齢中央値は6.6歳(2~16.5歳)です。飼い主の属性は76%が女性で、30歳未満が13%、30~40歳未満が12%、40~50歳未満が27%、50~60歳未満が30%、60歳超が15%という内訳でした。
 「コンプライアンス(処方箋遵守)」を100%の投薬成功と定義した場合、1回でも処方箋を守れなかった「ノンコンプライアンス(処方箋違反)」の飼い主の割合は47%に達しました。また多変量解析を用いてさまざまな変数とノンコンプライアンスの関係性を統計的に調べた結果、オッズ比が「犬の加齢」によって0.9に、「投薬補助不使用」によって0.24に低下することが明らかになりました。これは犬が高齢であるほど、また飼い主が何らかの補助を使わ「ない」ほど投薬コンプライアンスが高まることを意味しています。
Factors Associated with Medication Noncompliance in Dogs in New Zealand
Thomas F. Odom, Christopher B. Riley, et al., Animals 2024, 14(17), 2557, DOI:10.3390/ani14172557

処方箋違反の原因と対策

 投薬に際し、ペットもしくは飼い主のどちらかが多少なりとも困難を感じたという設問に対する回答は58%に達しました。どうすれば投薬コンプライアンスを高められるのでしょうか。

犬の加齢と投薬コンプライアンス

 「犬の加齢」によってコンプライアンスが10%ほど高まることが明らかになりました。高齢になると様々な持病が現れ、患犬が投薬を受ける機会および飼い主が投薬する機会が増えた結果、成功率が高まるものと推測されます。また度重なる通院と獣医師との繰り返しのセッションを通じて、投薬の重要性に関する飼い主の理解度が深まったという側面もあるでしょう。投薬を怠るとネグレクトとみなされかねないという心理的抵抗も一因としてあるかもしれません。

投薬補助とコンプライアンス

 「何の投薬補助も用いない」場合、コンプライアンスが86%も高まることが明らかになりました。これを因果関係ととらえると著しく直感に反する結果ですが、単なる関係性と捉えるとすんなり理解できます。一例を挙げると、犬が従順だったり飼い主の投薬技術が高かったため、そもそも補助なしでも投薬がうまくいったなどです。
 調査対象の中には獣医学生、動物看護師、獣医療教育者が比較的多く含まれていたため、ランダムで選択した飼い主より投薬技術に習熟した層が選ばれてしまった可能性が指摘されています。
 この項目に関しては先述した通り、「投薬補助を用いないほど投薬がうまくいく」という逆説的な因果関係で捉えない方が現実的です。

投薬コンプライアンスの向上

 具体的な投薬方法について病院で何の説明も受けていない人の割合が47%に達しました。この数値自体はコンプライアンス違反と連動していなかったものの、飼い主が我流で投薬してしまう危険性につながる懸念事項ではあります。
 例えば薬効成分の生体内への吸収ペースとの関係上、食餌との併用が禁止されているにも関わらずフードやトリーツ(おやつ)と混ぜてしまったり、薬の形状を変えてしまうことが禁止されているにもかかわらず錠剤を砕いてしまうなどです。実際、投薬に際してフードを用いた人が55%、薬の物理属性を変えた人が10%いました。
 投薬スケジュールが保たれていても、投薬方法が間違っていたら本来期待される薬効は発揮されませんし、場合によっては体に害をなすかもしれません。獣医師から明確な説明がない場合は「食餌やおやつにまぜていいですか?」とか「砕いてもいいですか?」くらいは自発的に聞いておきましょう。
 調査チームは投薬コンプライアンス向上のため、獣医師側がメールや電話を通じたリマインダー、投薬方法について記載した印刷物の配布、動画共有サイトにアカウントを持っている場合はハウツー動画の紹介などを積極的に行い、投薬スケジュールと方法の両方に誤解や早合点がないようにすべきだと言及しています。