トップ2024年・犬ニュース一覧10月の犬ニュース10月18日

犬の「フレイル(frailty)」を進行させる要因~飼い主の愛着不足が犬の老化を加速する?

 人医学で認知度が高まりつつある「フレイル(衰弱状態)」。この概念を犬に応用する動きがあり、評価法確立のほかフレイルを悪化させる要因についても調査が進められています。

犬のフレイル危険因子

 調査を行ったのはフランスにあるトゥールーズ大学のチーム。人医学分野から獣医学分野に転用され、犬を対象とした予備調査が各国で散発的に行われている「フレイル」が、いったいどのような因子によって変動するのかを一般の飼い主を対象として検証しました。
フレイル
フレイル(frailty)とは健康な状態と要介護状態の中間状態のこと。運動機能の低下(ロコモティブシンドローム)、筋肉の目減りと衰弱(サルコペニア)、うつ状態や軽度の認知症、独居や経済的困窮の状態などを含む。

調査対象

 調査対象となったのはフランスのトゥールーズに暮らす飼い主と犬のペア。2023年8月、トゥールーズ獣医学校を通じて呼びかけを行うと同時に、地方新聞への広告や企業へのチラシ配布などを行ってボランティアベースで参加者を募りました。
 犬の条件は「8歳以上」「20kg以上」「病気に関わる治療を受けていないこと」とされ、さらに候補者の中から呼吸困難、肥満、悪液質など明白な健康異常が認められる個体が除外されました。
 最終的に解析対象となったのは飼い主とペット犬のペア74組で、犬の年齢中央値は9歳(7~14歳)、体重中央値は29.4kgです。

調査方法

 犬の健康状態を評価するため尿と血液が採取され、単一の獣医師が身体検査を行いました。
 犬のフレイル評価では先行調査における表現型タイプ(Hua, 2016)が採用され、下記条件のうち少なくとも2つに該当する場合「フレイル」と定義されました。
犬のフレイル評価基準
  • 虚弱獣医師の主観ベースで全身性の筋萎縮を中等度~重度で評価
  • 疲弊飼い主の報告ベース運動不耐症を評価
  • 活動性低下飼い主の報告ベースで日頃の活動量を評価
  • 慢性的栄養失調獣医師の主観ベースで粗雑な被毛等をチェック
  • 運動性の障害獣医師が6分間の歩行テストで歩様をチェック
 フレイルへの影響因子としては飼い主の基本属性のほか、さまざまなアンケート結果が参考にされました。
飼い主への調査票
  • CCDR犬の認知症の度合いを測る
  • CBPI犬の痛みの度合いを測る
  • BFI飼い主のパーソナリティを分類する
  • MCPQ-R飼い主の主観評価を元にした上記BFI指標の犬版で、特に外向性と神経質症の項目で互換性が高く人と犬の比較がしやすい
  • LAPS飼い主からペットへの愛着の度合いを測る

調査結果

 調査の結果、全体の41.9%(31頭)までもが「フレイル」と評価されました。内訳は以下です。
フレイル指標の該当数
  • 2項目該当=17頭
  • 3項目該当=12頭
  • 4項目該当=0頭
  • 5項目該当=2頭
 また該当項目は多い順に以下のような並びになりました(複数回答)。
犬で多いフレイル指標
  • 活動性の低下=30頭
  • 疲弊=27頭
  • 栄養失調=24頭
  • 虚弱=17頭
  • 運動性低下=9頭
 飼い主からの基本属性やアンケート結果と飼い犬のフレイルとの関連性を統計的に調べたところ、以下の項目がフレイルのリスクを高めている可能性が浮上しました。数字は「オッズ比」(OR)で、標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したものです。数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。
フレイルのリスクファクター候補
  • 定期的(3ヶ月に1回)な駆虫をしていない:OR5.85
  • 愛着スコアが低い:OR3.91
  • 犬の年齢が高い:OR1.68
  • 人と犬の外向性の差:OR1.06
Exploring frailty in apparently healthy senior dogs: a cross-sectional study
Blanchard, T., Mugnier, A., Dejean, S. et al. BMC Vet Res 20, 436 (2024), DOI:10.1186/s12917-024-04296-1

犬への愛がフレイルを予防?

 まだ数少ない先行調査における犬のフレイルは割合で8.6%および17%と報告されています。一方、今回の調査では41.9%とかなり高めの数字が出ましたが、調査間で条件が違うため単純な比較はできません。例えば「先行調査/当調査」の順で比較すると「調査対象がラブラドール/さまざまな犬種+非純血種」「そもそも活動性が高く社交性も高い個体が選別されている現役の補助犬/ペット犬」「年齢が5~13歳/7~14歳」「調査班による対象選定/ボランティアベースでランダム」などです。
 新旧どちらの調査結果がより正値に近いのかは判断が難しいですが、先行調査群では対象がかなり恣意的に限局されていますので、どちらかといえば当調査の方が一般家庭の犬たち(※体重20kgを超える)が含むランダム性を反映している可能性が高いと考えられます。ちなみにフレイル率に関しては人を対象とした調査でも4.0~59.1% とかなり大きな幅が見られ、調査対象がボランティアベースの場合、やはりやや高め(31.8%)だったそうです。そもそも関心を持った人が選別段階で残りやすくなっていることが一因と考えられます。

フレイルリスク:駆虫スキップ

 定期的(3ヶ月に1回)な駆虫薬投与を行っていない場合、フレイルリスクが6倍近くに跳ね上がることが判明しました。わかりやすく逆の言い方をすれば「駆虫治療を行うとフレイルリスクが減る」となりますが、注意すべきは「因果関係」とは断定できない点です。
 順当に考えると「犬の健康への関心が高い飼い主は駆虫治療を行う確率が高いため、消化機能が保たれてフレイルにもなりにくい」あるいは「蠕虫治療でインフラメージングが緩和された」となります。
 一方「犬がフレイルで外出機会が減ったので投与機会を減らした」という状況なら、駆虫治療がフレイルを引き起こしたのではなくフレイルが駆虫治療を減らしたことになります。
 当調査では因果関係までは精査していませんので、現時点ではあくまでも「関連性」という位置づけで把握する必要があります。

フレイルリスク:愛着不足

 犬への愛着スコアが低い場合、フレイルリスクが4倍近くになることが明らかになりました。「犬への愛着スコアが高いとフレイル予防になる」という因果関係で捉えると、「犬への愛着が強い飼い主は一緒に活動したり、医療介入に熱心だったり、体調管理を怠らない」となり、結果としてフレイルに陥りにくくなります。
 しかしこの項目も因果関係を前提としてはおらず、一例としては「フレイルによって活動性が低下したため愛着が減った」など愛着がフレイルの引き金になっていない考え方も併存しています。

フレイルリスク:外向性の差

 人医学では外向性が高いとフレイル率が低くなる傾向が認められており、身体活動レベルが関係している可能性が指摘されています。
 今回の調査では飼い主と犬の外向性ギャップが高いと、ややフレイルが高くなる(OR1.06)ことがわかりました。外向性に関しては獣医師ではなく飼い主の主観評価が元になっていますので、バイアスが入り込む余地が比較的大きいと考えられます。例えば飼い主の外向性(外出好き・友好的・活発・話好き etc)が犬より高い場合、自分を基準として犬の外向性を過小評価してしまい、仮に犬の活動性が平均レベルでも「なんだか元気がないなぁ…」と不当にフレイルの条件に当てはめるかもしれません。一方、ただ単純に外向性が高い人は関心が多くの対象に分散しているため、犬の健康維持が疎かになってフレイルに陥りやすくなるという、因果関係としての捉え方もあります。
フレイルの該当項目は出現順番である可能性があるため、早期発見を目的とする場合は「活動性の低下」が一つの目安になるでしょう。また因果関係だろうとなかろうと「犬への愛着」は無償ですので変わらず保ち続けましょう。