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ダニは犬の汚れた寝具で激増する~繊維系のものはすぐ洗濯を!

 カーペット、毛布、バスタオルなど繊維系のものに犬が吐いてしまったとき、適当に拭き取っただけで終わりにしていませんか?しっかり洗わないとダニが激増します。

汚れた寝具とダニの繁殖

 調査報告を行ったのは総合家庭用品メーカーレックや動物病院などからなる共同チーム。人間と生活環境を共有する犬が、外部寄生虫であるダニの媒介にどの程度関わっているのかを明らかにするため、家庭内における推定および実測の両側面からダニの生息数調査を行いました。

調査対象

 調査対象となったのは3~8歳の小型犬5頭が飼育されている一般家庭の室内。2022年6月16日~24日の9日間に渡り、5頭が寝床としてランダムに使用したバスタオルを回収して汚れの度合および生息ダニ数を客観化しました。
 汚れに関してはバスタオルを5cm×5cmの356区画に細かく分け、汚れの厚み(べっとりした汚れA~汚れなしDの4段階)と汚れの被覆度(70%以上の5~1%未満の0の6段階)を評価していきました。ここでいう「汚れ」とは吐瀉物を代表格とした犬の排泄物全般です。
 ダニ生息数に関しては10倍自然増加率(ヤケヒョウヒダニが57日 | コナヒョウヒダニが46日)から計算し、実際に採取したダニを適切環境下(湿度75% | 25~27°C)で数十日間に渡って増殖したものを推定の生息数としました。
 さらに上記調査とは別に、2023年4月に室内で飼育されている小型犬12頭(トイプードル10頭+ミニチュアシュナイザー1頭+非純血種1頭)を対象とし、ヘアケアの工程ごとに体毛サンプルを採取してダニの個体数をカウントしました。具体的には「シャンプー前のブラッシング時の毛→シャンプー時に水に流れ出た毛→シャンプー後のブロー時の毛→シャンプー後にカットした毛」という4つのタイミングです。

調査結果

 バスタオルに付着した汚れの厚さに関してはランクB(はっきりとした汚れ)が180区画と全体の50.1%を占め、それに17.7%(63区画)のランクA(べっとりとした汚れ)が続きました。一方、汚れの被覆度に関しては1が93、2が96、3が82区画となり、この3つだけで全体の76.1%を占めていました。

バスタオル内のダニ種

 ダニ類の同定は全体の半数以上を締めていたランクBに絞って行われ、サンプルとして被覆度1、3、5からそれぞれ3つずつ合計9サンプルが採用されました。ダニはこれら9サンプルから合計269個体が得られ、内訳はコナヒョウヒダニ257個体(95.5%)、ヤケヒョウヒダニ5個体(1.9%)と、チリダニ科だけで9割以上を占めていました。

汚れ具合とダニ数

 ランクBと汚れが一切ついていない「ランクD/被覆度0」の平均ダニ数を統計的に分析した結果、汚れの被覆度とダニ類の増殖との間に有意な関連性が認められました。また平均ダニ数の多重比較を行ったところ、B3(30%以上50%未満)およびB4(50%以上70%未満)のダニ数はD0(汚れなし)よりも有意に多いことが示されました。さらに汚れの被覆度の各階級の中央値と平均ダニ数の相関関係を分析したところ、被覆度が高いほどダニ数が多いという直線関係が認められました。一方、汚れの厚みとダニ数との間に同様の直線関係は認められませんでした。
 5cm×5cmからなる区画ごとのダニ類の推定値を20未満、20以上、30未満、30以上40未満、40以上に分け、バスタオル上でダニ類が多く増殖した区域の分布図を作成したところ、汚れの多い部分の複数個所にダニ数の多い区域が集中していることが明らかになりました。

被毛内のダニ種

 被毛調査の対象となった犬12頭中8頭から合計12個体のダニ類が検出されました。紛失した個体を除いた内訳はコナヒョウヒダニ5体(幼虫1+若虫4)、ヤケヒョウヒダニ2体(成虫オス1+メス1)、ケナガコナダニ1体(成虫オス)で、すべてシャンプー前のブラッシング工程の体毛から回収されました。
室内犬の寝床および体毛より得られた屋内生息性ダニ類の種類と密度について
Med. Entomol. Zool. Vol. 75, Hiroki Kamezaki et al., DOI: 10.7601/mez.75.147

汚れはダニの培養土

 使用済みバスタオルを対象とした観察結果から、汚れの厚さではなく被覆度が大きいほどダニ数が直線的に増えることが明らかになりました。室温での保管期間中にダニが自発的に栄養満点の汚染場所に移動し、そこで増殖した結果だと推測されます。調査チームのシミュレーションでは、汚れの酷い部分を中心としてバスタオル1枚に4千匹以上、密度として500個体/m2のダニが生息していると推計されました。

汚れた繊維はすぐ洗濯を

 もし犬の寝具を洗濯せずに1ヶ月以上使い続けた場合、季節にもよりますが上記結果と同等かそれ以上のダニが繁殖してしまう危険性を伺わせます。ちなみに文部科学省の学校環境衛生マニュアル(2018)が定める保健室の寝具や教室に敷かれたカーペットのダニ密度管理基準は100個体/m2ですので、汚れの放置=ネグレクトという等式も成り立ちます。
 当調査ではバスタオルがピックアップされましたが、ダニが生息しやすい繊維系の家庭用品全般にも同じ教訓が当てはまります。ぬいぐるみ、カーペット、クッション、ベッド、カーテンなどに犬が何かを吐いてしまった場合、表面だけ軽く拭き取って終わらせるのではなくしっかりと洗濯したほうが良いでしょう。また犬の被毛自体に汚染物がついた場合は速やかにシャンプーしてあげましょう。

ダニ被害は同居人(動物)にも

 飼い主である人間がバスタオルを使わなければ直接的な被害は受けないかもしれませんが、「シャンプー前のブラッシング工程の体毛からダニ個体が回収された」という事実と考え合わせると決して楽観視はできません。
 一例を出すと「犬がバスタオルで寝る→ダニが被毛に移る→犬が飼い主のベッドに陣取る→被毛からベッドにダニが移る」といったルートを通じて、ダニが室内で引っ越しをしてしまう危険性が大いにあります。また同定した8個体中7個体はヒョウヒダニ類で、すべての発育ステージが検出されたことから、犬の体表で繁殖する可能性も否定できないと調査チームは指摘しています。犬と一緒に寝る習慣がある家庭においては看過できない知見でしょう。
 さらに多頭飼育家庭においては犬同士が添い寝することで被毛→被毛へと容易にダニが移行します。アレルゲンになるチリダニだけでなく動物の表皮を刺すイエダニやツメダニもいますので、季節にかかわらず室内の掃除は念入りに行いましょう。