トップ2024年・犬ニュース一覧11月の犬ニュース11月1日

嗅覚で病気を嗅ぎ当てる「パーキンソン病探知犬」の可能性~普通のペット犬でも8割を超える正答率

 病気の進行を遅らせるためには早期発見と早期介入が鍵となるパーキンソン病。犬が糖尿病やてんかんを嗅ぎ分けられることは知られていますが、患者に特有の何らかの匂いからパーキンソン病を検知することもできるようです。

パーキンソン病探知犬の可能性

 調査を行ったのはワイオミング州にあるPADs for Parkinson’s。一般家庭で飼育されている普通のペット犬が、神経疾患の一種である「パーキンソン病」を嗅ぎ当てることができるかどうかを検証するため、さまざまな犬種を用いた実験を行いました。

調査対象

 調査対象となったのは様々な年齢と犬種に属する合計23頭のペット犬たち。全頭が8ヶ月間に及ぶ事前トレーニングで、パーキンソン病患者の嗅覚検知に関し感度と特異度が共に75%以上の成績を収めた探知候補犬です。
 実験サンプルはパーキンソン病患者のサポートグループ、医師、神経学者などから協力者を募り、患者が一晩着たTシャツ43名分が収集されました。また年齢と性別がなるべく合致するようバランス調整した上で、非患者のTシャツも31名分集められました。以下文中「感度(sensitivity)」とは陽性のものを正しく陽性と判定する確率、「特異度(specificity)」とは陰性のものを正しく陰性と判定する確率のことです。

調査結果

 陽性(患者)サンプルと陰性(非患者)サンプルの両方を嗅がせた上で正答率の全体平均を取ったところ、感度が89.0%(4053/4553)、特異度が86.6%(2592/2993)だったといいます。また感度と特異度が共に90%を超える成績優秀な10頭に限定した場合、感度が93.5%(2163/2313)、特異度が93.3%(1452/1556)にまで高まったとも。 パーキンソン病探知犬の嗅覚精度実験装置の様子

初見(未知)の影響

 これまで一度も接したことのない初見サンプルに関しては感度が86.3% (139/161)、特異度が89.0% (121/136)となり、特異度に関しては初見サンプルの方が正答率がやや高いことが明らかになりました。

ラウンドの影響

 弁別テストのラウンド間における成績を比較した場合の結果が以下です。
ラウンドの影響
  • 感度・第1ラウンド:86.2% (1174/1362)
    ・第3ラウンド:91.1% (1241/1362)
  • 特異度第1ラウンド:83.6% (766/916)
    第3ラウンド:88.1% (749/850)
 感度のラウンド差4.9%、および特異度のラウンド差4.5%は共に統計的に有意と判断されました。状況に慣れたのか鼻が慣れたのかわからないものの、いわゆる「ウォームアップ」をすることでパフォーマンスが向上する可能性が示されました。

レボドパの影響

 パーキンソン病の進行遅延薬として1970年代から広く処方されている「レボドパ」の使用者に着目した場合の結果が以下です。
レボドパ服用の影響
  • 感度・使用者89.0%(3020/3395)
    ・非使用者88.25%(954/1081)
  • 特異度・使用者85.6% (1575/1839)
    ・非使用者87.1% (600/689)
 使用者と非使用者の間で見られた僅差は共に統計的に非有意と判断されました。

ドナーの性別の影響

 ドナーの性別は犬のパフォーマンスに影響しないことが明らかになりました。
性別の影響
  • 感度・男性ドナー:88.9%(3158/3553)
    ・女性ドナー:88.7%(899/1013)
  • 特異度・男性ドナー:86.3%(1974/2288)
    ・女性ドナー:87.0%(580/667)

サンプル種の影響

 2022年9月、実験サンプルがTシャツから参加者のうなじ下部の皮脂をこすりつけた綿棒に切り替わりました。サンプル切り替えの前後1週間を比較したところ、感度は82.4%(204サンプル)から91.1%(180サンプル)、特異度は81.7%(180サンプル)から88.4%(112サンプル)に向上したといいます。感度の変化に関しては統計的に有意と判断されました。
From small to tall: breed-varied household pet dogs can be trained to detect Parkinson’s Disease
Lisa Holt, Samuel V. Johnston, Animal Cognition (2024) , DOI:10.1007/s10071-024-01902-5

PD探知犬の実用性

 パーキンソン病の米国内における新規患者数は年間9万人と推計されています。危険因子として知られているのが加齢と性別で、患者の90%以上が65歳以上、女性に比べて男性の方が1.5倍も発症しやすいとされます。非常に知名度の高い疾患ですが決定的なスクリーニングテストが存在しておらず、ドパミントランスポーターシンチグラフィ(脳内のドパミン神経の変性や脱落の程度を評価する検査)や皮膚生検などがあるものの推計誤診率は10~20%。診断が下る頃には大脳基底核におけるドーパミン作動能が60%にまで低下し、振戦、平衡感覚異常、筆跡の乱れ、睡眠障害、話し方の変容などの定型的な症状が発現していることも少なくありません。ドーパミンの減少は症状が出始める5~10年前の時点ですでに始まっていることから、早期介入できれば症状の進行を緩和できると考えられています。
 今回の実験により、一般の家庭犬でも十分な訓練を積めば85%程度の精度で病気を嗅ぎ分けられる可能性、および特に成績優秀な犬なら感度が90%を超える可能性が示されました。この事実はパーキンソン病の早期発見という課題にとって明るい話題です。当調査で得られた知見をまとめると以下のようになります。PD探知犬の実用性を検証する上でのヒントになるでしょう。
PD探知犬の実用性
  • 初見サンプルでも弁別できる
  • 投薬(レボドパ)で検知精度は変わらない
  • 患者の性別で検知精度は変わらない
  • サンプルは綿棒に皮脂を付けるだけでよい