前庭器官以外が原因の斜頚
調査を行ったのはイギリスにある王立獣医大学のチーム。学内にある電子医療データベースを回顧的に参照し、2000年1月から2021年11月までの期間で「斜頚」と診断された症例群をピックアップしました。
調査対象
患犬たちの選別条件は医療記録がそろっていること、斜頚発症が受診から6ヶ月以内であること、CTもしくはMRI検査済みであること、脳内の異常がなく頚椎に病変があることとされました。また除外条件は中耳や脳の異常、キアリ様奇形、脊髄空洞症、代謝性疾患とされました。
上記条件で検索した結果、斜頚全2881例中最終的に15例が解析対象として残りました。
上記条件で検索した結果、斜頚全2881例中最終的に15例が解析対象として残りました。
調査結果
患犬たちの内訳は非純血種1頭+純血種14頭でそのうち4頭までもがフレンチブルでした。性別はオス12(去勢7)+メス3(避妊1)で、受診時の年齢中央値は6.1(2.5~12)歳、患側は右側斜頚9+左側斜頚6でした。
精神作用や脊髄反射に関しては全頭正常で、神経症状の発現は超急性(24時間未満)が13%(2頭)、急性(1~7日未満)が26.7%(4頭)、慢性(15日以上)が60%(9頭)でした。また症状の持続期間は平均30日(1~120日)でした。
受診時の主訴は以下です。
追跡調査は11頭に対して行われ、中央値で60日(5~720)、治療後回復例が8頭に対し変化なしが3頭でした。 Head tilt as a clinical sign of cervical spinal or paraspinal disease in dogs: 15 cases (2000-2021)
Journal of Small Animal Practice(2024), T. Liatis, S. De Decker, DOI:10.1111/jsap.13674
精神作用や脊髄反射に関しては全頭正常で、神経症状の発現は超急性(24時間未満)が13%(2頭)、急性(1~7日未満)が26.7%(4頭)、慢性(15日以上)が60%(9頭)でした。また症状の持続期間は平均30日(1~120日)でした。
受診時の主訴は以下です。
症状
- 頚部の知覚過敏
- 斜頚
- 協同性障害
- 元気喪失
- 卒倒発作
- 頚部スパズム
- 四肢不全まひ(歩行可能)
- 片側へ倒れる
- 後肢を引きずる
- 一過性の痛み
- 体の傾き
- 運動を嫌がる
- 一過性の虚弱
- 荷重不全
- 膝を伸ばした竹馬様歩行
- 脊柱後弯
- ナックリング
追跡調査は11頭に対して行われ、中央値で60日(5~720)、治療後回復例が8頭に対し変化なしが3頭でした。 Head tilt as a clinical sign of cervical spinal or paraspinal disease in dogs: 15 cases (2000-2021)
Journal of Small Animal Practice(2024), T. Liatis, S. De Decker, DOI:10.1111/jsap.13674
頚部の異常にいち早く気付こう
犬の斜頚は多くの場合前庭疾患によって引き起こされます。しかし今回の調査で明らかになったように、少数ながら頚部神経障害や頚髄のミエロパチー(脊髄障害)が首の傾きを引き起こしてしまう例があるようです。
便宜上、病変を部位別に分類すると以下のようになります。
当調査では追跡調査11頭中8頭で治療後の回復が認められましたので、慎重な鑑別診断と早期治療が望まれます。飼い主の注意点は、斜頚のほか全体の53%で見られた頚部の知覚過敏にいち早く気づいてあげることです。また交通事故、壁への衝突、転倒、落下等、首に対する明白な外傷後に発生した斜頚では、高い確率で頚椎や頚髄の障害が疑われます。事故後の数ヶ月間は犬の首の傾きを注意深くモニタリングしましょう。
便宜上、病変を部位別に分類すると以下のようになります。
- 頭側頚髄(C1-2)が原因脊髄C1-C3髄節背側にある神経根や神経節が障害され、前庭からの情報を司る脊髄小脳路や前庭脊髄路が機能不全に陥って斜頚が発生する
- 尾側頚髄(C3以下)が原因網様体脊髄路(姿勢、歩行、頭頚部・体幹・四肢の協調的な運動や眼球運動、頚部のコントロールに関わる神経路)が分断されて斜頚が発生する
- 脊椎傍筋が原因頚部の痛みを避けるための自発的筋収縮、もしくは痛みに対する不随意的な屈曲反射によって斜頚が発生する
当調査では追跡調査11頭中8頭で治療後の回復が認められましたので、慎重な鑑別診断と早期治療が望まれます。飼い主の注意点は、斜頚のほか全体の53%で見られた頚部の知覚過敏にいち早く気づいてあげることです。また交通事故、壁への衝突、転倒、落下等、首に対する明白な外傷後に発生した斜頚では、高い確率で頚椎や頚髄の障害が疑われます。事故後の数ヶ月間は犬の首の傾きを注意深くモニタリングしましょう。