犬はCFLを好むのか?
調査を行ったのはニューヨーク市立大学ハンターカレッジを中心としたチーム。飼育下にある多くの動物で報告されているコントラフリーローディングが犬にも当てはまるのかどうかを確かめるため、主にニューヨーク居住の犬とその飼主を対象とした前向き調査を行いました。
- コントラフリーローディング
- 何の対価もなく報酬を得られる状況であるにも関わらず、何らかの労働対価を必要とする方の報酬をあえて選ぶ現象。「Freeloading」(ただ食い)に反するという意味で「Contrafreeloading」と呼ばれる。
調査対象と方法
犬たちの参加条件は主食がドライフードであること、1歳以上であること、目と視覚に異常がないこととされ、最終的に38頭が分析に回されました。メス22+オス16、平均4.21歳(1~11歳)、純血種17頭という内訳です。
実験に際しては自発選好テストが採用されました。これは犬から当距離(61cm)にフードが盛られたトレイと、フードをバラバラに配置したスナッフルマットを置き、犬が自発的にどちらを選ぶかを観察するものです。「スナッフルマット」とは布などで小さなポケットを作り、その中にキブルを隠すことで犬の自然な採餌行動を引き出すためのペットグッズです。トレイとスナッフルマットの大きさは共に直径30cm程度に統一されました。 1頭につき10回のトライアルを行い、自発的にスナッフルマットを選好した割合をスコア化して0.8(10回中8回)以上を「CFL選好」、0.2(10回中2回)以下を「FL選好」と定義しました。またトレイの中にフードが残っている状態でスナッフルマットとコンタクト(匂いを嗅ぐ・触る・フードを食べる)した回数は「IN値」として計算されました。
実験に際しては自発選好テストが採用されました。これは犬から当距離(61cm)にフードが盛られたトレイと、フードをバラバラに配置したスナッフルマットを置き、犬が自発的にどちらを選ぶかを観察するものです。「スナッフルマット」とは布などで小さなポケットを作り、その中にキブルを隠すことで犬の自然な採餌行動を引き出すためのペットグッズです。トレイとスナッフルマットの大きさは共に直径30cm程度に統一されました。 1頭につき10回のトライアルを行い、自発的にスナッフルマットを選好した割合をスコア化して0.8(10回中8回)以上を「CFL選好」、0.2(10回中2回)以下を「FL選好」と定義しました。またトレイの中にフードが残っている状態でスナッフルマットとコンタクト(匂いを嗅ぐ・触る・フードを食べる)した回数は「IN値」として計算されました。
調査結果
上記した手順で実験を行った結果、ただの1度もスナッフルマットを選好しなかった犬が8頭いた一方、少なくとも1回は選好した犬が30頭いました。そして最終的に「CFL選好」と判断されたのは1頭(2.6%)だけで、「FL選好」が22頭(57.9%)、残り15頭(39.5%)が「好みなし」となりました。
Domestic pet dogs (Canis lupus familiaris) do not show a preference to contrafreeload, but are willing
Rothkoff, L., Feng, L. & Byosiere, Sci Rep 14, 1314 (2024), DOI:10.1038/s41598-024-51663-x
Rothkoff, L., Feng, L. & Byosiere, Sci Rep 14, 1314 (2024), DOI:10.1038/s41598-024-51663-x
CFLで犬の食生活が豊かに?
野生動物は餌が限られているため、エネルギー消費を抑えるため無駄のない採餌行動を選ぶのが基本です。しかし多くの家畜動物ではコントラフリーローディングを「選好」するとの報告があり、この矛盾を説明するため「情報仮説」というものが提唱されてきました。これは馴染みのない環境では自分にとっての有利と不利をしっかり把握するためうろうろ探索する必要があり、エネルギーを投資するだけの価値があるとするものです。
上記「情報仮説」によると家畜化されて久しい犬でもCFLを好む傾向が見られるはずです。しかし少なくとも今回の調査では犬がCFLを積極的に「選好」するという証拠は認められませんでした。犬の環境エンリッチメント(自然な行動が発現するよう生活環境をデザインすること)の一環として探索行動を促すコントラフリーローディングがしばしば提案されてきましたが、これは誤りなのでしょうか?
調査結果を一般化する前に、チームは以下のような因子の影響を考慮する必要があると言及しています。 ✅フードの提供元が目の前にあり、匂いですぐわかるので探索する必要性を感じなかった ✅ペット犬たちは給餌されることに慣れているので、そもそも自力で食べ物を見つけようとするモチベーションが野生環境下よりは弱かった ✅実験中は空腹状態だったため探索より眼前に見えているフードの摂食を優先した 現時点ではコントラフリーローディングに「犬の自然な行動を促す」ための環境エンリッチメントとしての役割はないかもしれません。しかし嗅覚を通じて脳に刺激を与えるリクリエーションとしての役割や、早食いを予防する役割は十分に期待できますので、いきなりやめてしまう必要はないでしょう。
調査チームは少なくとも1回スナッフルマットとファーストコンタクトした犬たちを「willing」と表現しています。意味合いとしては「自発的にはやらないけど、必要とあらばやぶさかではない」といったところでしょうか。人間でいうと、スーパーの有人レジが混んでいるとき、空いているセルフレジを使う感覚に近いのかもしれません。
上記「情報仮説」によると家畜化されて久しい犬でもCFLを好む傾向が見られるはずです。しかし少なくとも今回の調査では犬がCFLを積極的に「選好」するという証拠は認められませんでした。犬の環境エンリッチメント(自然な行動が発現するよう生活環境をデザインすること)の一環として探索行動を促すコントラフリーローディングがしばしば提案されてきましたが、これは誤りなのでしょうか?
調査結果を一般化する前に、チームは以下のような因子の影響を考慮する必要があると言及しています。 ✅フードの提供元が目の前にあり、匂いですぐわかるので探索する必要性を感じなかった ✅ペット犬たちは給餌されることに慣れているので、そもそも自力で食べ物を見つけようとするモチベーションが野生環境下よりは弱かった ✅実験中は空腹状態だったため探索より眼前に見えているフードの摂食を優先した 現時点ではコントラフリーローディングに「犬の自然な行動を促す」ための環境エンリッチメントとしての役割はないかもしれません。しかし嗅覚を通じて脳に刺激を与えるリクリエーションとしての役割や、早食いを予防する役割は十分に期待できますので、いきなりやめてしまう必要はないでしょう。
調査チームは少なくとも1回スナッフルマットとファーストコンタクトした犬たちを「willing」と表現しています。意味合いとしては「自発的にはやらないけど、必要とあらばやぶさかではない」といったところでしょうか。人間でいうと、スーパーの有人レジが混んでいるとき、空いているセルフレジを使う感覚に近いのかもしれません。