トップ2023年・犬ニュース一覧10月の犬ニュース10月22日

犬のストレス性行動はゴム製おもちゃで解決~特に興奮しやすさの軽減に効果大

 動物福祉の分野で言われる「5つの自由」には「自然な行動の発現」が含まれます。ではゴム製おもちゃを犬に与えてガジガジかじらせると、ストレスはどの程度軽減するのでしょうか?

ゴム製おもちゃと犬の変化

 調査を行ったのはタイにあるワライラック大学のチーム。天然ゴムでできたチューイング玩具が犬の行動にどのような変化を与えるかを確かめるため、オンラインを利用した前向き調査を行いました。

調査対象

 調査参加者は2021年12月~2022年2月の期間、Googleが提供するフォームを通じてオンラインで募集されました。飼い主の条件はタイの住人であること、18歳以上であること、飼育歴が1ヶ月以上であること。犬の条件は2ヶ月齢以上と設定されました。
 最終的に12名の飼い主(およしその飼い犬12頭)が選抜され、飼い主に対するアンケートから主観ベースで犬の性格・気質を推し量る「C-BARQ 」という調査が実験の前後で実施されました。

調査方法

 犬に供与するゴム製おもちゃの主原料としては強度があって破損しにくい天然ゴム(パラゴム)が採用されました。デザインは、中に入れたトリートが出てくるための穴と、ブラッシング効果を高めるための半球型突起が付いているというものです。 犬の選考試験で用いられたパイプ状のゴム製おもちゃ  色の選好テストをするため、食用色素を用いて犬が識別しやすい青と黄色に色されました。また匂いの選好テストをするため、ビーフとバニラの香料が混ぜられました。ただし匂いテストで用いられたのは上記したパイプ型のおもちゃとは別物です。

調査結果

 実験は12頭の犬を対象とし、飼い主の自宅で飼い主同席のもと行われました。

色の選好実験

 犬が好む色を調べるため、飼い主は2色のパイプにおやつを入れた状態で、犬から1m離れた場所に等距離になるよう配置しました。
 青と黄色の場所を入れ替えて合計3回(右右左 or 左左右 or 右左右 or 左右左のどれか)実験を繰り返した結果、青(16.66%/2頭)より黄色(83.33%/10頭)が選好される傾向が見られたと言います。ここでいう「選好」とはどちらかの色が2回以上自発的に選ばれることですが、どちらか一方を選好した犬は例外なく3回とも同じ色を選んだそうです。
 統計的に有意(≒偶然では説明しにくい)と判断されたのは、「7歳未満の若い年齢層の犬(9頭中9頭)は7歳以上の高齢犬(3頭中1頭)に比べ黄色を好みやすい」という点だけで、不妊手術ステータス、犬種、性別は無関係と判断されました。

匂いの選好実験

 犬が好む匂いを調べるため、飼い主はビーフとバニラの匂いがついた2つの同型のおもちゃを犬から1m離れた場所に等距離になるよう配置し、自発的にどちらを選ぶかをチェックしました。
 色の選好実験と同様、場所を入れ替えて合計3回繰り返したところ、ビーフ(3頭)よりバニラ(9頭)の方が好まれる傾向が確認されました。ただし統計的に有意とまでは言い切れず、不妊手術ステータス、犬種、性別、年齢といった変数はすべて選好結果とは無関係と判断されました。

行動変化調査

 特別なアタッチメントにパイプ型おもちゃ4本を連結させ、その日の最後の食餌の前のタイミングで30~60分自由に遊ばせるという実験を30日間継続し、実験の前後で「C-BARQ」に回答してもらいました。 犬の行動比較実験に用いられた十字型のゴム製おもちゃ  その結果、以下の項目匂いて変化が見られたと言います。「訓練性」以外はすべて減少傾向です。
おもちゃと行動変化
  • 見知らぬ人への攻撃性
  • 見知らぬ犬や人への恐怖
  • 犬同士のいがみ合い
  • 別離に伴う問題
  • 活力
 上記した項目群は統計的に有意とまでは判断されませんでした。一方、有意と判断された唯一の項目は「興奮しやすさ」で、回答者は6名と少なかったもののビフォー4.67→アフター1.68と、3ポイント近い大幅な減少を見せました。
Preference of Dogs Towards Feeding Toys Made of Natural Rubber, and Their Potential to Improve Canine Behaviour: A Study Based on Owners' Observations
Boonhoh, Worakan and Saramolee, Prachid and Sriphavatsarakom, Prarom and Amaek, Waluka and Waran, Natalie and Wongtawan, Tuempong, SSRN(pre-preint as of 22th Oct.), DOI:10.2139/ssrn.4582866

ゴム製おもちゃの鎮静効果

 口の中に入れたものを繰り返しくちゃくちゃと噛み続ける犬のチューイング行動にはデメリットとメリットがあります。両者をしっかり把握した上でベストなおもちゃを与えてあげましょう。

犬は植物の匂いが好き?

 匂いの選好に関する先行調査では、対象を動物の匂いに限定した場合「ウシ>ヒツジ・ウマ」「ウシ>ニワトリ・サカナ」という報告があります。一方、対象を動物と植物の匂いにまで広げた場合、動物の匂いよりラベンダーを始めとした植物系の匂いの方が選考されたという報告があります。
 当調査でも「ウシ」より「バニラ」の方が選考されましたが、統計的に有意ではありませんでした。一般化できる段階ではないものの、せっかくおもちゃを買い与えたのにあまりガジガジしてくれないというような場合、動物以外の匂いがついたものに切り替えると意外と食いつきが良くなるかもしれません。

犬が好きな色は?

 色素細胞を通した調査により、犬は部分色盲で青と黄色およびその中間のスペクトルしか認識でないと推測されています。一方、行動実験では青、赤、緑を識別できるという組織学的な知見とは合致しない可能性も示唆されており、正確なところはよくわかっていません。
 今回の調査では特に7歳未満の若い犬で黄色が積極的に好まれるとされましたが、米国で行われた先行調査では他の色に比べ青色がもっとも選好されたと報告されています。
 最も好まれる色に関しては、犬の色覚と合わせさらなる後続調査が必要なようです。少なくとも現段階で言えるのは「個体や国によって結果が変わりうる」ということです。

おもちゃは犬の興奮を鎮める

 直感と合致する知見は、「おもちゃの供与が犬の興奮性を鎮める」という点でしょう。
 多くの飼い主が経験を通じて知っていることですし、調査でも追認されましたので比較的一般化しやすい項目と言えます。興奮しやすさは無駄吠え、破壊行動、常同行動などと連動していますので、ゴム製のおもちゃを与えるだけでこれらすべての軽減が期待できます。 ニワトリの形をしたゴム製おもちゃで遊ぶ黒ラブ  飼い主がいる状況では犬の食事量や遊び時間が増え、ストレス行動が軽減されるとされます。なるべくなら一緒に遊んであげるとシナジー効果が生まれるでしょう。
 ゴム製のおもちゃには本能的な行動の充足によるストレス解消の他、歯垢や歯石の物理的除去、血流促進による口腔内の治癒力の増進といった副次的な効果も期待できます。さらに当調査と同時期にアメリカのオーバーン大学が行った別の実験では、「怖がり」という性格特性を持つ犬が頻繁にチューイング(クチャ噛み)行動を取ると、その後の作業記憶パフォーマンスが向上するという面白い現象も確認されています出典資料:Krichbaum, 2023)
 犬にチューインググッズを与える際は、以下の注意点に気をつけながら選んであげましょう。
良いチューイング素材とは?
  • 誤飲できない大きさ
  • 噛み砕けない丈夫さ
  • 歯を折らない程度の柔らかさ
  • 清潔さ
犬のチューイング(くちゃ噛み)と健康の関係