トップ2023年・犬ニュース一覧11月の犬ニュース11月24日

「お出かけ」と「お泊り」は短くても保護犬の譲渡率を上げる

 収容施設に入った保護犬が施設の外で行う活動としては、短い「お出かけ」と短期間の「お泊り」があります。こうした施設外活動を受けた犬ではその後の譲渡率が明白にアップしてくれるようです。

施設外活動による犬の譲渡率変化

 調査を行ったのはアリゾナ州立大学の心理学部を中心とした共同チーム。保護犬を収容した後の介入によって譲渡率にどのような変化が生じるかを検証するため、全米にある50超のシェルターを対象とした大規模な前向き調査を行いました。具体的な介入方法として採用されたのは、先行調査でも大小の効果が報告されている「お出かけ」および「お泊り」です。 犬の譲渡機会を増やすお出かけおよびお泊りプログラム
  • お出かけボランティア、シェルタースタッフ、地域メンバーが施設外において1~4時間保護犬の散歩を行う。譲渡イベントは除外する。
  • お泊りボランティア、シェルタースタッフ、地域メンバーの家に保護犬が1~2日外泊する。一部例外を除いて基本は1頭だけが訪問。先住犬の有無は問わない。

調査対象

 「お出かけプログラム」の参加条件は「現在お出かけプログラムを採用していないこと」もしくは「採用していてもプログラムを享受している犬が収容数の10%未満であること」とされました。また「お泊りプログラム」の参加条件は「現在お出かけプログラムを採用しており享受している犬が全体の10%超であること」「お泊りプログラムを採用していないか、していても享受している犬が10%未満であること」とされました。
 介入方法を統一化するため、参加するシェルターには慈善団体Maddie’s Fundが提供するトレーニングプログラムを受講してもらいました。またプログラムに参加する犬は「6ヶ月齢以上であること」以外に条件は設けず、シェルタースタッフに恣意的に決めてもらいました。
 調査開始後、「お出かけ(平均3.0時間)」は1,728頭に対し2,786回行われ、「お泊り(平均1.6日)」は599頭に対し695回行われました。極端な例を除外するため、これらの犬たちを「体重1.36~45.36kg」「年齢150ヶ月齢未満」という条件で絞り込み、最終的にどちらかの介入(お出かけ or お泊り)を受けた1,955頭、およびどちらの介入も受けなかった(比較対照)25,946頭のデータが解析に回されました。

調査結果

 「お出かけ」という介入を受けた犬と受けていない犬を比較した場合、「安楽死、逸走、不慮の死亡、別シェルターへの移送」という譲渡以外の命運をたどる相対リスクが、前者で0.2に低下することが判明しました。逆の言い方をすれば、お出かけをした犬たちが「譲渡」という命運をたどるチャンスがしていない犬たちの5倍あるということです。
 同様に「お泊り」という介入を受けた犬と受けていない犬を比較した場合、譲渡以外の命運をたどる相対リスクが前者で0.07に低下、すなわちお泊りをした犬たちが「譲渡」という命運をたどるチャンスがしていない犬たちの14.29倍に跳ね上がることが判明しました。
The Influence of Brief Outing and Temporary Fostering Programs on Shelter Dog Welfare
Lisa M. Gunter, Emily M. Blade, Rachel J. Gilchrist, Animals(2023), DOI:10.3390/ani13223528

施設外活動は犬の命を救う

 近位効果(犬が現在経験していること)に絞った先行調査では、1~3泊の「お泊り」で犬のコルチゾールレベル(ストレス度)が低下して休息時間が増えることが報告されている一方、「お出かけ」で同様の変化は見られなかったとされています。遠位効果(譲渡されて新たな家庭で生活を送ること)に絞った今回の調査では、お出かけだろうとお泊まりだろうと、施設外で介入を受けた犬では高い確率で譲渡チャンスを掴めることが示されました。

介入後は犬もスタッフも変化

 収容されてから譲渡されるまでの滞在期間(LOS, length of stay)に関し、介入を受けていない犬たちは平均9.5日(中央値5日)でした。一方、介入を受けた犬たちは介入に要した日数を差し引いて平均35.1日(中央値21.0日)と、かなり長期化することが明らかになりました。しかしこの日数を介入の前後で分断した場合、介入前(収容~介入)のそれが平均32.7日(中央値14日)、介入後(介入~譲渡)のそれが平均9.9日(中央値5日)となり、介入後の日数(9.9日)が非介入グループの日数(9.5日)とほぼ同等となりました。
 介入前の滞在期間が長期化した理由としては、そもそもシェルターに長くとどまっている犬をスタッフが優先的に選別したため、数値に偏りが生じた可能性が考えられます。調査開始時の参加条件は「6ヶ月齢以上」という項目だけで滞在期間に関する縛りはなかったため、早く里親を見つけたいスタッフが長期滞在組を積極的に選んだ可能性は大いにあるでしょう。
 また介入後の滞在期間が標準レベルに戻った理由としては、犬自身の気質がポジティブに変化したことに加え、プログラムを通じて参加者(お出かけに同行した人/お泊りに協力した人)から犬の気質がシェルターに伝わり、里親候補者に積極的に推薦する動機づけになったことなどが考えられます。里親候補者からすると、「いいこですよ」という漠然とした評価より、「ボランティアさんとお散歩したときも、うれしそうに尻尾を振りながら色んな場所をクンクンしていましたよ」という具体的な評価があった方が、将来の生活をイメージしやすくなり、家族として迎え入れる強い動機にもなります。

スタッフの口添えは諸刃の剣

 スタッフの口添えが譲渡率を左右する逆の例としては、体重が重い犬ほど滞在期間が伸びるというものがあります。
 当調査により犬の体重が重いとお出かけの時間が短くなるという負の関係性が認められました。これは犬の引っ張りが強くて散歩に付き合う人間の方が先にバテてしまい、途中でギブアップした結果だと推測されます。そして参加者がシェルターに対し「グイグイ引っ張るので手が痛くなって十分に散歩できなかった」という情報をシェルターに対して正直に伝えた場合、里親候補者にもやはり同様の事前説明をせざるを得なくなるでしょう。その結果が、体重の重い犬で認められた滞在期間の延長なのではないでしょうか。
 上記仮説が正しいとすると「介入による予行演習→犬の詳細情報獲得→里親候補者への具体的なインフォーム」という流れが、プラスにもマイナスにも作用しうる事例といえます。

期待される地域の参加

 偶然的な発見として、「地域メンバーの世話人が多いシェルターでは介入数が多い」という関係性が認められました。
 特に「お泊り」の場合、宿泊日数が長引くことで預かった犬への愛着が強まって別れが辛くなる点や、預かり中の飼養コストが増えるという点がネックとなり、参加希望者が二の足を踏んでしまう状況がよく起こります。
 今回の調査により、1~3日という短いお泊りでも十分に遠位効果(=譲渡の促進)が発揮される可能性が示されましたので、上記したようなネックがいくらか緩和されるのではないでしょうか。「里親さんが現れるまで預かってください」と「3日間だけでいいので預かってください」とでは参加希望者の心理的なハードルが随分違いますね。
 これまで保護施設やシェルターとは無関係だった地域メンバーが、「お出かけ(お散歩ボランディア)」や「お泊り(預かりボランティア)」という比較的とっつきやすいプログラムに参加する未来図には期待が持てます。こうしたプログラムは犬たちの単なる気晴らしで終わるのはなく、譲渡率の明白な向上につながる可能性がデータで示されましたので、自分たちが参加することの意義を実感し、関わることへの強いモチベーションになってくれるでしょう。