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イヌパピローマウイルス(CPV)による皮膚病~乳頭腫、色素性プラーク、扁平上皮腫

 もっぱら犬に感染し、さまざまな皮膚疾患の原因になることで知られているイヌパピローマウイルス(CPV)。一体どういった種類があり、具体的にどのような病気を引き起こすのでしょうか?

パピローマウイルスとは?

 パピローマウイルス(Papillomavirus)は環状二本鎖DNAを含むカプシド(ウイルスゲノムを取り囲むタンパク質の殻)を備えた20面体のノンエンベロープウイルス。もっぱら人間に感染するヒトパピローマウイルスは5つの属と450以上のタイプが確認されています。 ヒトパピローマウイルスの3Dモデル  パピローマウイルスは人間を始めとした哺乳動物のみならず、鳥類や爬虫類においても上皮に病変を引き起こすことが知られており、病原性という観点から何ら臨床症状を引き起こさないタイプと、組織の過形成(いわゆるイボ)を引き起こすタイプに分けられます。 皮膚の微小外傷から基底細胞層に侵入するパピローマウイルスの模式図  病原タイプのパピローマウイルスは皮膚や粘膜の微小外傷から入り込んで上皮基底細胞に感染し、細胞の急速な複製を促します。そしてウイルスDNAを含んだ上皮組織の過形成が促進され、イボに成長します。イボが大きくなると免疫応答が刺激されてウイルスの複製が止まり、最終的に病変部は自然消滅しますが、個体の健康状態により難治性となることもあります。

イヌパピローマウイルス(CPV)

 もっぱら犬にだけ感染するイヌパピローマウイルス(Canine papillomavirus, CPV)としては、現在3属24タイプが確認されています出典資料:Medeiros-Fonseca B, 2023)
タイプ病変
1ラムダ口腔乳頭腫, 皮膚乳頭腫, 内反性乳頭腫, 結膜上皮過形成
2タウ皮膚乳頭腫, 口腔扁平上皮腫
3カイ色素性プラーク, 皮膚扁平上皮腫
4カイ色素性プラーク, 皮膚扁平上皮腫
5カイ色素性プラーク, 皮膚扁平上皮腫
6ラムダ口腔乳頭腫, 皮膚乳頭腫
7タウ皮膚乳頭腫, 口腔扁平上皮腫
8カイ色素性プラーク, 皮膚扁平上皮腫
9カイ皮膚乳頭腫, 色素性プラーク, 皮膚扁平上皮腫
10カイ色素性プラーク, 皮膚扁平上皮腫
11カイ色素性プラーク, 皮膚扁平上皮腫
12カイ皮膚乳頭腫, 色素性プラーク, 皮膚扁平上皮腫
13タウ皮膚乳頭腫, 口腔扁平上皮腫
14カイ色素性プラーク, 皮膚扁平上皮腫
15カイ色素性プラーク, 皮膚扁平上皮腫
16カイ色素性プラーク, 皮膚扁平上皮腫
17タウ皮膚乳頭腫, 口腔扁平上皮腫
18カイ色素性プラーク
19カイ皮膚乳頭腫, 口腔扁平上皮腫
20タウ不明
21タウ不明
22タウ不明
23タウ不明
24カイ色素性プラーク
  • カイパピローマウイルスカイ属のパピローマウイルス(Chipapillomavirus)には14タイプ(3, 4, 5, 8, 9, 10, 11, 12, 14, 15, 16, 18, 19, 24)が含まれ、色素性プラークや扁平上皮腫との関連が疑われています。
  • ラムダパピローマウイルスラムダ属のパピローマウイルス(Lambdapapillomavirus)には2タイプ(1, 6)が含まれ、皮膚と口腔に強い向性をもっています。特にCPV1は内反性乳頭腫や結膜上皮過形成に関連しているとされます。
  • タウパピローマウイルスタウ属のパピローマウイルス(Taupapillomavirus)には8タイプ(2, 7, 13, 17, 20, 21, 22, 23)が含まれ、皮膚乳頭腫と関連が深いとされます。

CPVによる病気

 はっきりと証明されていないものまで含めると、イヌパピローマウイルス(CPV)が引き起こすとされる皮膚病変はかなりたくさんあります。

色素性プラーク

 ウイルス性皮膚色素性プラークは犬ではまれで、免疫力が低下した個体に多いとされています。発症部位は腹部や四肢の内側に多く、色は暗くて複数箇所に出現します。プラークが拡大するとかゆみや痛みに発展しますが、多くの場合自然軽快します。 パグの腹部に発症したウイルス性色素プラーク  パグを対象としたゲノム解析では特にCPV4やCPV24との関連が指摘されています出典資料:Tobler, 2008 | 出典資料:Munday, 2022)

口腔乳頭腫

 口腔乳頭腫は犬の唇や口の中にできる外方増殖性の滑らか~カリフラワー様のイボです。 犬の歯肉部に発症した口腔乳頭腫・肉眼所見  多くはCPV1によって引き起こされますが、必ずしも病原性を発揮するわけではなく、何ら症状を示していない犬の10.5~21.9%が保有しているという報告もあります出典資料:Lange, 2008)
 免疫力が整っていない若齢個体に多く、4~8週間で自然寛解します。稀なケースでは口腔から被毛部位へと広がって扁平上皮腫に進展する可能性や、接触を通じ個体間で移る可能性も示唆されています。

皮膚乳頭腫

 皮膚乳頭腫は足、顔、耳などに多く発症し、股間部はまれです。多くは3ヶ月ほどで自然軽快しますが場合によっては2年ほどその場にとどまり、ごくまれに扁平上皮腫へ進展することがあります。 犬の肉球に発症したカリフラワー様のウイルス性皮膚乳頭腫・肉眼所見

内反性乳頭腫

 内反性乳頭腫は中心部にケラチンを含むカップ状もしくはドーム状のイボで、上皮から真皮に向かって伸びる内向性の乳頭状突起を特徴としています。1つのウイルスが原因になっているのではなく複数の要因が絡み合って発症するものと推測されており、便宜上4つのタイプに分類されます出典資料:Lange, 2010)
内反性乳頭腫のタイプ
  • タイプ1もっとも古典的で広く見られるタイプで、灰色がかった1~2 cmの カップ状結節が腹部に複数個できます。 ドーム型の外観と中央部のくぼみを有した典型的な内反性乳頭腫
  • タイプ2肉色をした4mmほどのドーム状結節が全身にできます。
  • タイプ3細胞質内に好酸球を含む黒ずんだ2mmほどの小結節が全身にできます。ボクサーで報告されています。
  • タイプ4古典的なタイプ1に付随してもっぱら指の間に発生します。免疫力が低下したビーグルで報告されています。

結膜上皮過形成

 結膜上皮過形成は文字通り、結膜の上にイボができた状態です。 犬の結膜に発症した上皮過形成病変