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犬のエレベーター事故~ドアとの衝突やリードトラップに要注意

 エレベーターに関連した犬の怪我はいったいどの程度の頻度で発生するのでしょうか?米国内で統計調査が行われ、稀ではあるものの重症化する可能性が示されました。

犬のエレベーター事故統計

 調査を行ったのはマサチューセッツ州にある動物病院「Angell Animal Medical Center」の救急医療部門。エレベーターに関連した犬の受傷パターンを検証するため2つの情報源から症例データを収集しました。1つはアメリカの都市部にある二次診療施設や救急医療施設4ヶ所、もう1つは北米や英国の獣医師から寄せられた情報を集積した「VetCOT」と呼ばれる外傷診療データベースです。

調査対象

 2015年8月から2020年10月の期間に絞り、十分な情報が揃った症例だけを選別した結果、診療機関経由で9頭、データベース経由で4頭のデータが見つかったといいます。
 性別はメス6頭(避妊済2)、オス7頭(去勢済5)、平均年齢は4.9歳、体重は中央値で4.3kg(1.5~32kg)でした。またほとんどが純血種で、アメリカンピットブルテリア(1頭)、ジャイアントシュナウザー(1頭)、レトリバークロス(1頭)、犬種不明のミックス(1頭)を除いた残りの9頭は、すべて小型の純血種もしくはその血統が入った犬でした。

調査結果

 外傷の種類はドアとの衝突(犬の体がドアに挟まれる)が9例(69%)、ドアによる捕捉(リードがドアにからむ)が4例(31%)でした。前者のうち7例が裂傷、2例が剥離とグローブ外傷(皮膚が手袋状に剥離する)でうち7頭が外科手術を要しました。一方、後者のうち外科手術を要した患犬はいませんでした。
 比較のためエレベーター患犬とVetCON内の全患犬(35,536例)を分けて分析したところ、年齢(平均4.9歳:中央値4.2歳)に差異は見られませんでしたが、体重中央値(4.3kg:14.5kg)では統計的に有意な差が認められました。これは体の小さな犬におけるエレベーター受傷例が多いことを示唆しています。
Retrospective evaluation of elevator-related-injuries in dogs(2015-2020):13 cases
Bartling J, Whelan M, Sinnott-Stutzman V, J Vet Emerg Crit Care 2023;33:70-73, DOI:10.1111/vec.13246

エレベーター事故の原因と予防

 外傷データベースの調査期間中における患犬の総数が35,536例だったのに対し、エレベーターが関連していると思われる症例が18例、さらにデータが十分だった症例に絞るとわずか4例でした。割合でいうと0.01~0.05%とかなり低いものです。しかし稀な事故だからといって軽視できない面も持っています。

衝突事故の原因

 エレベーターには通常、ドアの中央部に「セーフティシュー(safety shoe)」と呼ばれる出っ張りがあり、体に触れると奥に引っ込んで閉じかけていたドアが再び開くようになっています。 エレベータードアの反転起動装置「セーフティシュー」  しかし小型犬くらい体が小さいと、出っ張りに衝突しても十分な押し返し圧力が生じず、反転機能が作動しないまま体を挟んでしまう可能性があります。あるいはセーフティシューがないドアのヘリ部分に足先やしっぽが挟まった状態でドアが閉じきってしまう状況もありうるでしょう。
 当調査では犬のしっぽ、後肢、後肢の指における受傷例が大部分を占めていました。こうした部位の偏りには上記した受傷パターンが関係しているものと推測されます。

捕捉事故の原因

 エレベーターにリードが絡むとはどういう状態でしょう?詳細が記載されていないため推測するしかありませんが、おそらく子供によくある「戸袋に指を挟んだ」状態に近いのではないでしょうか。あるいはニュースでよく見る「宙吊りになる犬」も含まれるかもしれません。
犬のエレベーター事故
元動画は→こちら
 世の中には不注意極まりない飼い主もいますので、リードの持ち手部分がエレベータードアの隙間に挟まったまま気づかない人や、廊下に犬を置き去りにしたまま自分だけ昇降してしまう人がきっといるのでしょう。
 当調査内では4頭中3頭までがハーネスを装着していました。ドアやカゴによってリード経由でハーネスに強い牽引力がかかり、体が天井や壁に打ち付けられる状況が想像されます。不幸中の幸いか、外科手術を要した症例はありませんでしたが、装具がもし首輪だったら首吊り状態になりますので「窒息(死)」や「気管・頸椎の骨折」などより重篤な状態に陥ったかもしれません。

エレベーター事故を防ぐには?

 受傷パターンを見る限り、犬の体がドアに挟まれる、犬をかごの外に置き忘れる、リードが隙間に挟まれるなどに集約できそうです。
 こうした状況を作らないため、愛犬と共にエレベーターを利用する際は「リードを手に持ったまま抱っこする」という基本スタイルを守ることが重要になります。多くの賃貸物件では小型犬の飼育だけが許容されており、また集合住宅の内規でも同様のルールがあると思いますので、これは常識の範囲内でしょう。
 もし中型犬以上の飼育が許容されている場合は、「リードをもったまま犬を壁際に寄せる」が安全でしょうか。スマホを片手にボーッとしていると犬がセーフティシューに挟まれますので、犬が乗り込むまで飼い主がドアを抑えてあげるようにします。同乗者トラブルを避けるため、一人になるまで待ったほうがよいかもしれません。
人におけるエレベーター関連の受傷原因としてはおよそ半数が「転ぶ」となっています。交通機関と同様、「駆け込み乗車」にはご注意ください。特に犬を抱えた状態では危険性が増します。 東京消防庁