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犬ががんを発症しやすい年齢は?~犬種や体重から目安を推測することが可能

 飼い主の多くは漠然と「犬が高齢になったらがんに気をつけよう」と考えているでしょうが、もう少し具体化できないものでしょうか?アメリカ国内で3千頭を超える患犬たちのデータを元に、犬種および体重を元にした推定値が算出されました。

犬のがん好発年齢

 犬におけるがんの好発年齢に関する調査を行ったのはカリフォルニア州サンディエゴのバイオ企業「PetDx」。異なる3つのソースからがんを発症した犬3,452頭のデータを収集し、症状発現前のタイミングで行うスクリーニングの適正時期がいつなのかを検証しました。なおがんのグレードやステージは区分されておらず、獣医師によってがんの診断を受けていればデータとして採用されています。
がん患犬の元データ
  • ソース12019~2021年の期間、CANcer Detection in Dogs(CANDiD)と呼ばれるがんに特化した前向き調査に参加した犬の中から663頭。
  • ソース2National Cancer Institute(NCI)に検体として回されたがん患犬1,888頭分の検体サンプル。前向きデータでがんのタイプは7種限定(骨肉腫・リンパ腫・メラノーマ・血管肉腫・悪性軟部腫瘍・肥満細胞腫・肺がん)。
  • ソース3カリフォルニア大学デイヴィス校の獣医療教育病院が15年かけて収集した901頭分のがん患犬後ろ向きデータ。
 最終的に純血種2,537頭、ミックス種858頭分の医療データが集積されました。上記「ミックス種」には純血種同士のかけあわせ、片親が純血種、両親とも犬種不明の犬たちが含まれます。また性別はオス1,900頭(去勢率76%)、メス1,552頭(避妊率90%)という内訳でした。

犬種別・がんの発症年齢

 データでは122の純血種が報告されていました。アメリカなので中~大型犬が多く、100頭以上のサンプルが確認された犬種としてはゴールデンレトリバー(422)、ラブラドールレトリバー(397)、ボクサー(178)、ロットワイラー(168)、ジャーマンシェパード(102)などが上位を占めています。
 以下は日本国内で飼育頭数が多い犬種に絞った場合のリストです。元々のサンプル頭数が少ない場合、データとしての価値が低い点にはご留意ください。またダックスフントに関してはスタンダードやミニチュアといったサイズ区分が記載されていませんでした。 代表的な犬種におけるがん発症時の年齢(平均値と中央値)一覧表  純血種2,537頭(8.2歳)に比べミックス種915頭(9.2歳)では、がんの発症年齢(平均値)が有意に1歳分遅いことが判明しました。一方、体重と品種の間に相互関連性は見られなかったそうです。

体重別・がんの発症年齢

 データでは2.5~98kgという幅広い体重が報告されていました。平均30.3 kg、中央値30.6 kgですので、小型犬が多い日本の犬たちに当データを転用する場合は注意が必要です。 犬の体重とがん発症時年齢の関係~体重が軽いほど発症は遅い  全体的な傾向とし、体重が軽いほど発症年齢が遅く、重いほど発症年齢が早いという傾向が見られました。がん発症年齢(中央値)の簡易計算式は以下です。例えば犬の体重が5kgなら10.8歳、75kgなら6歳ころから発症リスクが高まることになります。
11.104-(0.068×犬のkg)歳
 報告が多かった37犬種で上記計算式を検証した結果、23犬種では実際の中央値と±1歳の誤差に収まったといいます。一方、計算式の結果と大きくかけ離れた犬種も一部で見られました。具体的にはブルドッグ、ボクサー、ヴィズラ、フレンチブルドッグ、ボストンテリアなどで、推定値より2歳以上下回っていた(=発症が早い)ことから考え、これらの犬種では遺伝の関与が強く疑われる結果となりました。

性別と不妊手術

 メス(8.7歳)に比べてオス(8.3歳)の発症年齢(平均値)は有意に早いことが明らかになりました。その他、統計的な有意差(以下のグラフ中「*」)が確認されたのは去勢オス(8.5歳)と避妊メス(8.9歳)、避妊メス(8.9歳)と未避妊メス(7.3歳)去勢オス(8.5歳)と未去勢オス(7.6歳)です。 オス犬とメス犬の不妊手術ステータスとがん診断時の平均年齢比較グラフ  一方、体重と不妊手術ステータスとの間に相互関連性は見られませんでした。

がんのタイプ別・発症年齢

 発症頻度が多いがんのタイプ別に見た発症年齢(平均値と中央値)は以下です。 がんのタイプと診断時における犬の年齢(平均値・中央値)一覧表 Age at cancer diagnosis by breed, weight, sex, and cancer type in a cohort of more than 3,000 dogs: Determining the optimal age to initiate cancer screening in canine patients
Rafalko JM, Kruglyak KM, McCleary-Wheeler AL, Goyal V, Phelps-Dunn A, Wong LK, et al. (2023) PLoS ONE 18(2): e0280795, DOI:10.1371/journal.pone.0280795

愛犬のがんに備える

 日本とアメリカでは小型犬(大型犬)の飼育比率があまりにも違うため、データとしてカウントされたがんの種類にも大きな隔たりが生まれてしまいます(大型犬に多い骨肉腫など)。結果としてがん発症時の犬全体の平均年齢や平均体重はデータとしての価値が低いため割愛しました。興味のある方は原文の方をご参照ください。

犬種とがん発症年齢

 犬種ごとにがんを発症しやすい年齢が明らかになりました。国が変われば繁殖ラインも変わる可能性があるため、犬種ベースのがん発症年齢は国ごとに算出するのが理想です。「犬種別・がんの発症年齢」で記したデータを日本国内で応用する際は、こうした難点を踏まえておく必要があります。

犬の体重とがん発症年齢

 当調査内では犬たちの肥満の有無がまったく考慮されていないものの、全体をならすと体重が軽いほど発症年齢が遅く、逆に重いほど発症年齢が早いという明白な傾向が認められました。大型犬種に多い骨肉腫などがこうした特徴を生み出している可能性があります。
 犬種が判明している場合は「犬種別・がんの発症年齢」が参考になりますが、判明していない場合は体重から簡易計算式を用いて発症時中央値を推定する方が妥当です。漠然と「犬が高齢になったらがんに気をつけよう」と考えるより、「犬の体重が10kgだから10歳半になる前に前臨床検査を受けてみよう」と考えを具体化した方が受診のモチベーションが高まります。

飼い主は心の準備を

 当調査を主導したバイオ企業「PetDx」はそもそもリキッドバイオプシー(組織サンプルの代わりに血液を用いてがんの診断を行う液体生検のこと)を取り扱う会社であり、商売の間口を広げるため現在「Cancer Lifetime Assessment Screening Study in Canines(CLASSiC)」と呼ばれる長期的な調査を行っているとのこと。これはがん未発症の犬1000頭超を対象とした前向き調査で、半年に1回のペースでリキッドバイオプシーを行い、どの段階で検査を推奨するのが妥当なのかを明確化するものです。
 論文の最後でちゃっかり自社製品の宣伝をしていますが、がんを発症しやすい年齢が予測できれば、飼い主の安心と犬の健康につながることは事実です。企業バイアスがかかりにくい客観データの方は大いに利用しましょう。
がんの発症がエピジェネティック(遺伝と環境の相互作用)である場合、国土の違いによって疫学データが大きく変わる可能性があります。当調査は米国内で行われたものですので、国内犬への過剰な拡大解釈にはご注意ください。犬に多いガン