第四級アンモニウム塩とは?
第四級アンモニウム塩とはアンモニア分子が炭素で四置換した有機化合物の総称。quaternary ammonium compoundsから英語圏では「QACs」、日本では「QUAT」などとも略されます。
種類と用途
生体の細胞膜を通過する膜作用性物質であり、自然界に存在しているほか多数の化合物が人工的に作られています。代表格と主な用途は以下です。
QUATの種類
- BACsベンザルコニウムとも/細菌・真菌類に対する抗菌作用/手指、傷口、口腔、食器、家屋、乗物、ゴミ箱、冷蔵庫などの殺菌・消毒
- DDACsジアルキルジメチルアンモニウムとも/陽イオン性界面活性剤/毛髪柔軟剤(ヘアリンス)、静電気防止剤
- ATMACsアルキルトリメチルアンモニウムとも/陽イオン性界面活性剤/毛髪柔軟剤(ヘアリンス)、静電気防止剤、逆性石けん
新型コロナによる影響
QACs(QUAT)は新型コロナウイルスの流行で消毒剤の消費量が激増したのに連動して製造量が増えました。例えば2020年の時点で米国内で販売されていた消毒剤430商品中216商品に同成分が含まれていたといいます。
またインディアナ州で行われた調査では、空気中を漂うほこりに含まれるQACs(QUAT)の中央値がコロナ流行を挟んで36.3→58.9 μg/gと、6割近い増加を示したと報告されています。さらにバージニア州で行われた調査では、人の血清サンプルから検出されるQACs中央値に関し、コロナ前3.41ng/mL→コロナ中6.04 ng/mLと、77%の増加を示したといいます。
またインディアナ州で行われた調査では、空気中を漂うほこりに含まれるQACs(QUAT)の中央値がコロナ流行を挟んで36.3→58.9 μg/gと、6割近い増加を示したと報告されています。さらにバージニア州で行われた調査では、人の血清サンプルから検出されるQACs中央値に関し、コロナ前3.41ng/mL→コロナ中6.04 ng/mLと、77%の増加を示したといいます。
代謝と安全性・毒性
体内ではシトクロム(チトクロム)P450と呼ばれる肝酵素を仲介してヒドロキシル基(OH-)もしくはカルボキシ基(COOH-)を含む形に一部が転換され、残りは便から未代謝のまま排出されると想定されていますが、詳細な代謝経路は解明されていません。
また毒性についても不明な点が多く、実験動物を使った急性毒性調査では、高濃度において接触皮膚炎、呼吸器障害、免疫系統の乱れ、生殖毒性、コレステロールと脂質の代謝阻害が引き起こされる危険性が示唆されています。
また毒性についても不明な点が多く、実験動物を使った急性毒性調査では、高濃度において接触皮膚炎、呼吸器障害、免疫系統の乱れ、生殖毒性、コレステロールと脂質の代謝阻害が引き起こされる危険性が示唆されています。
犬のQACs(QUAT)摂取量
今回の調査を行ったのはニューヨーク州保健局とニューヨーク州立大学による共同チーム。2023年6~7月の期間、ニューヨーク州オールバニーにある個人宅および保護シェルターで暮らしている犬から尿43サンプル+便32サンプル、猫から尿31サンプル+便26サンプルを採取し、中に含まれるQUATの母成分(BACs7種+DDACs6種+ATMACs6種)および代謝成分(OH-BACs4種+COOH BACs4種)を測定しました。また時間による比較をするため、2017年時点で同エリア内から採取された犬の尿34サンプルが解析対象に加えられました。
尿サンプル
時期を隔てて採取された犬の尿77サンプルを対象とし、尿中に含まれるCOOH-BACs4種(C6/C8/C10/C12)の検出率を調べた結果、85~100%と非常に高い値となりました。一方、OH-BACs4種に関しては3~64%と低い値を示しました。
後者に関しては人間における検出率も0~31%と低い値が報告されていますので、OH-BACsはBACsがCOOH-BACsに代謝される際の中間形態ではないかと推測されています。
∑BACm(BACs代謝産物の総計)に関しては猫(0.28 ng/mL)より犬(2.08 ng/mL)で高い値となり、犬では特にCOOH-C8-BACが全体の42%を占めていました。こうした動物種による違いは肝臓におけるシトクロム活性の違いではないかと推測されています。
後者に関しては人間における検出率も0~31%と低い値が報告されていますので、OH-BACsはBACsがCOOH-BACsに代謝される際の中間形態ではないかと推測されています。
∑BACm(BACs代謝産物の総計)に関しては猫(0.28 ng/mL)より犬(2.08 ng/mL)で高い値となり、犬では特にCOOH-C8-BACが全体の42%を占めていました。こうした動物種による違いは肝臓におけるシトクロム活性の違いではないかと推測されています。
便サンプル
QUATの母成分19種および代謝成分8種の総計を割り出したところ、乾燥重量の便1gのそれが犬で9680 ng、猫で1260 ngとなりました。また犬猫合わせて構成比率を調べた結果、BACsが57~64%、DDACsが33~34%、ATMACsが4~9%、BACm(BACの代謝成分)が0.2~0.3%となりました。
一方、室内のホコリではBACsが58%、DDACsが18%、ATMACsが14%、消毒剤ではBACsが64%、DDACsが14%、ATMACsが22%と報告されていますので、これらが数値的に近似していることが伺えます。
一方、室内のホコリではBACsが58%、DDACsが18%、ATMACsが14%、消毒剤ではBACsが64%、DDACsが14%、ATMACsが22%と報告されていますので、これらが数値的に近似していることが伺えます。
BACs
便サンプル中におけるBACsの総計は、乾燥重量1g中犬で5350 ngと推計されました。一方、BACsの代謝産物の総計は13.6 ngと2桁以上の開きが見られました。
この事実からBACsは代謝されずに直接便に排出される可能性が高いと推測されました。
この事実からBACsは代謝されずに直接便に排出される可能性が高いと推測されました。
DDACs
DDACs6種は犬から採取されたすべての便サンプルから検出され、総計は乾燥重量1g中4660 ngでした。
構成比率に関しては室内のホコリ同様、C10およびC18-DDACsが最多という特徴を示しました。また犬猫ともC10-DDACとC10~C16BACsおよびC10-ATMACとの濃度が正の相関にあることが判明しました。
DDACsは消毒剤、静電気防止剤、抗生剤、乳化剤、防錆剤などで多く使用される成分です。こうした製品の中にDDAC、BACs、ATMACが同時に含まれて併用されていたのだとすると、上記したような濃度の相関にも説明が付きます。
構成比率に関しては室内のホコリ同様、C10およびC18-DDACsが最多という特徴を示しました。また犬猫ともC10-DDACとC10~C16BACsおよびC10-ATMACとの濃度が正の相関にあることが判明しました。
DDACsは消毒剤、静電気防止剤、抗生剤、乳化剤、防錆剤などで多く使用される成分です。こうした製品の中にDDAC、BACs、ATMACが同時に含まれて併用されていたのだとすると、上記したような濃度の相関にも説明が付きます。
ATMACs
犬の便における各種ATMACs検出率は81~100%で、総計は乾燥重量1g中110 ngと推計されました。これはDDACsやBACsと比較すると42~49倍も低い値です。
犬と猫のQACs比較
各種QUATおよびその代謝成分に関し、便でも尿でも犬>猫という勾配が見られました。尿では猫の4~13倍、便では最大で猫の30倍という大きな開きです。
この開きを「犬の方が曝露リスクが高いから」と解釈すると、パンティングに伴うホコリの吸引、ペット用シャンプー(家庭用/業務用)の使用頻度、床・壁・家具をかじったり舐めたりする習慣などが原因として思い当たります。
この開きを「犬の方が曝露リスクが高いから」と解釈すると、パンティングに伴うホコリの吸引、ペット用シャンプー(家庭用/業務用)の使用頻度、床・壁・家具をかじったり舐めたりする習慣などが原因として思い当たります。
シェルターと家庭
各種QUATおよびその代謝成分に関しシェルター犬と家庭犬の便サンプルを比較した結果、多くの成分が前者で2~18倍高い値を示すことが明らかになりました。
しかし逆にシェルター犬よりも家庭犬の便サンプルで高い濃度が検出された成分もあったことから、双方の施設で高頻度に使用されている「何か」がこうした違いに反映されたのではないかと推測されています。
例えば動物保護シェルターで大量に使用される消毒剤、もっぱら家庭で使用されるプールの藻殺剤、目薬、静電気防止剤、ヘアケア用品などです。
しかし逆にシェルター犬よりも家庭犬の便サンプルで高い濃度が検出された成分もあったことから、双方の施設で高頻度に使用されている「何か」がこうした違いに反映されたのではないかと推測されています。
例えば動物保護シェルターで大量に使用される消毒剤、もっぱら家庭で使用されるプールの藻殺剤、目薬、静電気防止剤、ヘアケア用品などです。
2023年と2017年
2017年に採取された犬の尿34サンプルと2023年に採取された43サンプルを比較したところ、 意外なことにBACmに格差は認められませんでした。この格差はシェルターサンプルを除外しても維持されたため、2017年の時点ですでにかなりの量のBACsが使用され、吸引や嚥下を通じて犬の体内に取り込まれていたものと推測されます。
An Exposure Assessment of 27 Quaternary Ammonium Compounds in Pet Dogs and Cats from New York State, USA
Li, Zhong-Min and Lee, Conner and Kannan, Kurunthachalam, Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=4626663 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4626663(preprint article as of December 2023)
Li, Zhong-Min and Lee, Conner and Kannan, Kurunthachalam, Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=4626663 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4626663(preprint article as of December 2023)
QACs(QUAT)とどう付き合う?
家庭製品に大量に含まれ、知らないうちに大量に体内に取り込んでいると推測されるQACs。人やペットはこの怪しげな成分とどのように付き合っていけばよいのでしょうか?
1日の摂取量
今回の調査を通し、便サンプルで検出されたQACsは人の血液、母乳、尿サンプルおよびペットの尿サンプルより3桁ほど高い濃度でした。またげっ歯類を対象とした調査では、BACsやDDACsの90~99%が代謝されないまま便を通じて体外に排出されると報告されています。
こうした事実から調査チームは、すべてのQACsが代謝されずに犬の便に排出されると仮定し、1日の便排出量を湿重量で254 g(体重中央値20.4 kg)と仮定した場合の1日の累積摂取量を推計しました。その結果、体重1kg当たり1日49.4 μg(3.5~701 μg)となりました(※1μg=100万分の1g)。
こうした事実から調査チームは、すべてのQACsが代謝されずに犬の便に排出されると仮定し、1日の便排出量を湿重量で254 g(体重中央値20.4 kg)と仮定した場合の1日の累積摂取量を推計しました。その結果、体重1kg当たり1日49.4 μg(3.5~701 μg)となりました(※1μg=100万分の1g)。
犬への毒性・危険性
上で計算した摂取量は安全圏なのでしょうか?それとも危険領域に入っているのでしょうか?
げっ歯類を対象とした調査では生殖毒性・発達毒性のNOAELs(無毒性量:毒性試験において有害影響が観察されなかった最高の暴露量)が体重1kg当たり1日1~100 mgとされています。またビーグルを対象とした調査では、摂食量減少、体重減少、体重回復不全をきたす摂取量が体重1kg当たり1日C10-DDACが10~93mg、C12-C16 BACsが3.7~188mgと推計されています。
当調査における推定累積摂取量は上記NOAELsより2桁以上少ない値ですが、過去の実験は急性大量摂取を想定して行われているため、慢性少量摂取の影響として解釈できるかは不明です。さらにげっ歯類を対象とした調査では、環境中に存在するのと変わらない濃度のQACs(QUAT)を摂取した場合、胚の時期の神経管発達、精子の数や運動性能、免疫細胞の表現型や機能の変化に異常が引き起こされる可能性が示唆されています。
げっ歯類を対象とした調査では生殖毒性・発達毒性のNOAELs(無毒性量:毒性試験において有害影響が観察されなかった最高の暴露量)が体重1kg当たり1日1~100 mgとされています。またビーグルを対象とした調査では、摂食量減少、体重減少、体重回復不全をきたす摂取量が体重1kg当たり1日C10-DDACが10~93mg、C12-C16 BACsが3.7~188mgと推計されています。
当調査における推定累積摂取量は上記NOAELsより2桁以上少ない値ですが、過去の実験は急性大量摂取を想定して行われているため、慢性少量摂取の影響として解釈できるかは不明です。さらにげっ歯類を対象とした調査では、環境中に存在するのと変わらない濃度のQACs(QUAT)を摂取した場合、胚の時期の神経管発達、精子の数や運動性能、免疫細胞の表現型や機能の変化に異常が引き起こされる可能性が示唆されています。
代謝経路についても毒性についても、まだ不明な点が多いまま見切り発車的に使用されているQACs(QUAT)。新型コロナにより使用量が増えていると考えられるため、人とペット両方における慎重なモニタリングが必要です。