病態と症状
スイミングパピー症候群とは、生後間もない子犬に発症する原因不明の運動不全。医学用語が統一されておらず、文献によって「swimmer (puppy) syndrome」「swimming (puppy) syndrome」「flat pup syndrome」「turtle pup」「splay leg」など表現はさまざまです。連動して日本語訳も不確定ですが、当ページ内では比較的使用される頻度の高い「スイミングパピー症候群」を便宜上採用していきます。
症状については人間で言う平泳ぎ、もしくは匍匐(ほふく)前進を思い浮かべればわかりやすいでしょう。四肢で体を支えきれず、胴体の一部~全部を地面に接しながら、まるで泳いでいるかのようなモーションで前進します。前肢より後肢の方が障害を発症しやすいとされます。
スイミングパピー症候群
タイ国内で行われた疫学調査では2006年から2012年の期間中、19の医療施設で何らかの治療を受けた2,443頭の子犬(オス1,183+メス1,260)のうち2.13%(52頭)で当症が見られたと報告されています(:Korakot, 2013)。
原因
スイミングパピー症候群の原因は解明されていません。解剖生理学的な原因としては神経筋シナプスの変性、神経線維の有髄化不全、末梢運動神経の発達不全、体重に対する筋力の発育遅延、脊髄前角ニューロパチーなどが想定されています。
また複数の国において行われた調査では以下のような可能性が報告されています。
また複数の国において行われた調査では以下のような可能性が報告されています。
SPSの原因候補
- 同腹子数タイ、日本、ドイツなど複数の国で共通して報告されている原因候補です。1度の出産で生まれるきょうだい犬の数(=同腹子数)が少なければ少ないほど発症リスクが高まります。ちなみにタイで行われた調査では、健常犬たちの同腹子数が3.64だったのに対し、患犬たちのそれは1.92だったと報告されています(:Korakot, 2013)。
- 持病タイで行われた調査では、患犬52頭中15.38%(8頭)という高い割合で胸郭奇形の一種である漏斗胸が認められたと報告されています。また四肢すべてに荷重不全を発症している個体において共存しやすい傾向も併せて確認されました(:Korakot, 2013)。
- 体重日本の北海道で行われた調査では、患犬と健常犬を比較した場合、生後10日目および28日目における体重が患犬において統計的に有意なレベルで重かったといいます(:Tomihari, 2022)。ただし調査対象は盲導犬候補というかなり狭い個体群に限られています。
- 遺伝ドイツで行われた調査では、4つの犬舎で繁殖されていた血縁関係の近い個体群において高い発症率が確認されたと言います(:Rumpel, 2023)。また日本で行われた調査では、患犬たちに共通する26頭の血統犬が見つかったとされています(:Tomihari, 2022)。ブラジルで行われた調査(:Ramos, 2013)でも患犬たちに血縁性が認められていることから、何らかの遺伝的な要因が絡んでいるものと推測されています。
治療法
スイミングパピー症候群の病態がはっきりしていなかった頃は獣医師が予後を悲観して安直な安楽死を行っていたようです。しかし近年は寛解~治癒しうる良性の運動不全症であるとの認識に変わりつつあります(:Kim, 2013)。
効果に関する検証は不十分ですが、文献上で報告のある治療法は以下です。積極的な治療を行うことで回復が早まる可能性が示されています。
明確な原因が見当たらず、新生子の症状がスイミングパピー症候群に酷似している場合、安易に安楽死を行わずリハビリを優先してください。早ければ6週齢、遅くとも12週齢までには症状が寛解~治癒してくれる可能性が十分にあります。
SPSの治療法
- 床面の変更フローリングなど滑りやすい材質から、カーペットなど足裏が滑りにくい材質に変える。また患犬は寝たまま排泄するため吸水性の高いトイレパッドを用意してあげる
- ビタミンEやセレンのサプリ幼齢期における神経発達に重要な微量元素やビタミンを補給する
- 理学運動療法主として自重を利用した歩行訓練を行い神経と筋肉の発達を促す
- 受動運動人間が患犬の四肢を手で動かし、関節を柔らかくして可動域を確保すると同時に血流を促してあげる
- 体重管理体重が筋力を上回らないよう適正体重を維持する
- バンデージ/サポーター肩関節や股関節が自重に屈して外開きにならないよう関節を固定する
明確な原因が見当たらず、新生子の症状がスイミングパピー症候群に酷似している場合、安易に安楽死を行わずリハビリを優先してください。早ければ6週齢、遅くとも12週齢までには症状が寛解~治癒してくれる可能性が十分にあります。