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ステイホームで犬の分離不安は悪化するのか?

 新型コロナウイルスの蔓延によりステイホームがすっかり定着しました。犬を飼っている場合は一緒に過ごす時間が増えますが、飼い主の存在が目の前から消えることによって生じる分離不安症が悪化する危険性が指摘されています。

ロックダウンと犬の分離不安

 犬の分離不安症(separation anxiety)とは飼い主と離れ離れになったことで激しく動揺し、病的なほど探し回る状態のこと。 分離不安症の犬で見られる典型的な破壊行動  新型コロナウイルスの蔓延によりロックダウン政策がとられたイギリス国内では、家庭内で飼い主と犬が過ごす時間が大幅に増えた後に、政策が緩和されて留守番の回数や時間が増えると、新たに分離不安症が起こったり既にあった分離不安症が悪化するのではないかという懸念がささやかれています。実際のところどうなのでしょうか。

調査方法

 今回の調査を行ったのはチャリティ団体Dogs Trustに属するCanine Behaviour and Researchのチーム。イギリス国内に暮らす犬の飼い主を対象としたオンライン調査を行い、ロックダウンの前後において犬たちの行動にどのような変化があったかを「分離不安症」に主眼を置いて解析しました。
 最終的に残ったのは1807頭分のデータで、分離不安の代表的な兆候と犬たちの基本属性は以下です。平均年齢は5~6月のロックダウン時におけるものであり、暇つぶしのために衝動買されたいわゆる「ロックダウン・パピー」たちは除外されています。
犬たちの基本属性
  • メス=52.5%
  • 不妊手術率=86.1%
  • 純血種=56.0%
  • 2種混血=27.4%
  • 犬種不明=16.6%
  • 単頭飼い=71.9%
  • 平均年齢=4.25歳
分離不安の症状
  • 破壊行動
  • 室内の散らかし
  • 不適切な排尿
  • 不適切な排便
  • 流涎(よだれ)過多
  • 過剰な鳴き声・ギャン鳴き
  • 自傷

調査結果

 調査の結果、分離不安の兆候を少なくとも1つ示していた犬の割合に関し、ロックダウン前の2020年2月が22.1%(400/1807)、ロックダウン中の同年5~6月が20.2%(184/912)、ロックダウン緩和後の同年10月が17.2%(260/1510)と、当初の予想とは違う漸減変動を見せたといいます。 新型コロナに伴うロックダウン前後における犬の分離不安症の割合変動グラフ  10月時点における分離不安の予見因子を統計的に多変量解析したところ、ロックダウン中に分離不安の徴候が見られた場合、10月に分離不安が見られるリスクがオッズ比(OR)で4.97に増え(=4.97倍増)、逆に2月とロックダウン中の留守番回数格差が小さい場合、リスクがOR0.80(=20%減少)に減るという関係性が確認されました。
Impact of Changes in Time Left Alone on Separation-Related Behaviour in UK Pet Dogs
Harvey, N.D.; Christley, R.M.; Giragosian, K.; Mead, R.; Murray, J.K.; Samet, L.; Upjohn, M.M.; Casey, R.A.. Animals 2022, 12, 482. https://doi.org/10.3390/ani12040482

新型コロナ時代の犬との接し方

 調査チームの当初の仮説は「飼い主と過ごす時間が増えた後で急に元の生活に戻ると分離不安のリスクが高まるはずだ」というものでした。しかし下記した数字を見る限り、ロックダウンと分離不安の関係はそれほどクリアとは言えません。

因果関係とは言い切れない

 留守番によって症状が悪化する犬がいる一方、逆に改善する犬もそこそこいるようです。以下は2月と10月で犬の行動が変わったと回答した128人の内訳です。
LD前後の犬の行動変化
  • 留守番直前の悪化=42%(54/128)
  • 留守番直前の改善=31%(40/128)
  • 留守番中の悪化=40%(47/117)
  • 留守番中の改善=37%(43/128)
 先述したとおり、統計的な計算ではロックダウン中に分離不安の徴候が見られた場合、10月に分離不安が見られるリスクが4.97倍に増え、2月とロックダウン中の留守番回数格差が小さい場合、リスクが20%減るという結果になりました。その一方、擬R2統計量(独立変数が従属変数のどれくらいを説明できるかを表す値)では4.23%と低値だったため予見因子としては弱く、データには反映されていない他の因子が発症に関わっている可能性も指摘されています。
 ちなみに過去に行われた調査では高齢がリスクとされており、当調査でも新たに分離不安ありとされた犬の年齢中央値が4.9歳、なしとされた犬のそれが3.9歳という格差が見られましたが、多変量解析では非有意と判断されました。同様に不妊手術やオスが分離不安の悪化要因という過去の報告も当調査では追認されませんでした。

留守番回数の急な変化に注意

 ロックダウンの前後で分離不安を示す犬の割合は全体的に見ると漸減していますが、2月の時点で分離不安の兆候がなかった犬の9.9%が、10月時点で新たに兆候を示したといいます。
 分離不安の根底にあるのは悲観的な認知バイアスであり、人間で言う「暗い気分」や「嫌な予感」に近いネガティブな感情を味わっている可能性が高いため、飼い主がしっかりと予防策を講じて犬の精神衛生を守ってあげることが重要だと調査チームは指摘しています。
 データではロックダウンの前→中→後で留守番の回数が多い→少ない→再び多いと乱高下した場合、分離不安のリスクが高まる危険性が示されました。また統計的にはぎりぎり有意とまでは行かなかったものの(p=0.051)、留守番時間の格差が小さいほど10月時点のSRBリスクが小さいという傾向も確認されました。こうした知見が対策を練る際のヒントになるでしょう。 犬の留守番のしつけ・完全ガイド