犬や猫の飼育と高齢者の健康
調査を行ったのは東京都健康長寿医療センターを中心としたチーム。東京都の大田区が2016年に開始した「大田区元気シニア・プロジェクト」のデータを元に、犬や猫の飼育が高齢者の健康状態にどのような影響を及ぼしているのかを統計的に検証しました。
調査対象となったのは大田区人口のおよそ10%を占める65~84歳の高齢者15,500人。女性51.5%+男性48.5%で平均年齢は74.2歳という内訳です。動物の飼育歴を調べた結果、現在犬や猫を飼っている人の割合が13.8%(1,545人)、かつて犬や猫を飼っていた人の割合が29.5%(3,311人)、一度も飼ったことがない人の割合が56.8%(6,377人)であることが判明したといいます。
犬の飼育歴(11,233人)
- 現在飼育:8.6%(963人)
- かつて飼育:22.6%(2,540人)
- 飼育歴なし:68.8%(7,730人)
猫の飼育歴(11,233人)
- 現在飼育:6.3%(706人)
- かつて飼育:11.1%(1,242人)
- 飼育歴なし:82.7%(9,285人)
ペットがいる高齢者の特徴
- 女性が多い
- 若い
- 既婚(パートナーあり)が多い
- 教育レベルが高い
- 収入が高い
- 飲酒率・喫煙率が高い
- フレイル率が低い
- 運動量が多い
- 外出回数が多い
- 近隣住人と親しい
要介護・要支援状態
2016年6月~2020年1月の追跡期間中、介護保険制度が定義する「要介護・要支援状態」の認定を新たに受けた高齢者の割合は17.1%(1,882/11,015)でした。
ペットの飼育と上記数値の関係性を調べたところ「現在犬を飼育(13.1%)<かつて犬を飼育(16.8%)<犬の飼育歴なし(17.7%)」という勾配が認められ、最初の1項目と後の2項目との間に統計的な有意差(p<0.01)が確認されました。また犬の飼育歴がない人を基準とした場合、現在犬を飼っている人における認定リスクはオッズ比(OR)で0.54(=46%低い)になることも併せて確認され、この結果は社会人口学的な変数や健康状態を考慮に入れて計算し直しても変わりませんでした。
さらに運動習慣の有無を変数として取り入れ、犬の飼育歴も運動習慣もない人たちを基準にした場合、「現在犬を飼育+運動習慣あり」の人たちにおける認定リスクがオッズ比(OR)で0.44(=56%低い)になることが判明しました。この結果は社会経済的変数と健康状態を考慮に入れても変わらなかったとのこと。
一方、猫の飼育歴に関しては現在飼育していようとかつて飼育していようと、飼育歴がない人との間に顕著な差異は認められなかったそうです。
ペットの飼育と上記数値の関係性を調べたところ「現在犬を飼育(13.1%)<かつて犬を飼育(16.8%)<犬の飼育歴なし(17.7%)」という勾配が認められ、最初の1項目と後の2項目との間に統計的な有意差(p<0.01)が確認されました。また犬の飼育歴がない人を基準とした場合、現在犬を飼っている人における認定リスクはオッズ比(OR)で0.54(=46%低い)になることも併せて確認され、この結果は社会人口学的な変数や健康状態を考慮に入れて計算し直しても変わりませんでした。
さらに運動習慣の有無を変数として取り入れ、犬の飼育歴も運動習慣もない人たちを基準にした場合、「現在犬を飼育+運動習慣あり」の人たちにおける認定リスクがオッズ比(OR)で0.44(=56%低い)になることが判明しました。この結果は社会経済的変数と健康状態を考慮に入れても変わらなかったとのこと。
一方、猫の飼育歴に関しては現在飼育していようとかつて飼育していようと、飼育歴がない人との間に顕著な差異は認められなかったそうです。
死亡率
2016年6月~2020年1月の追跡期間中、死亡した高齢者の割合は5.2%(589/11,228)でした。
現在犬を飼育している人(4.0%)と全体平均(5.2%)との間で格差が見られましたが、統計的には非有意差と判断されました。唯一、「かつて犬を飼育+男性」という組み合わせの場合に限り死亡率のORが0.65になりましたが、統計的なアノマリー(異質分子)ではないかと推測されています。
全死因死亡率に関しては、犬だろうと猫だろうと動物の飼育は数値の変動に関係していないことが明らかになりました。 Evidence that dog ownership protects against the onset of disability in an older community-dwelling Japanese population.
Taniguchi Y, Seino S, Headey B, Hata T, Ikeuchi T, Abe T, et al. (2022) , PLoS ONE 17(2): e0263791, DOI:10.1371/journal.pone.0263791
現在犬を飼育している人(4.0%)と全体平均(5.2%)との間で格差が見られましたが、統計的には非有意差と判断されました。唯一、「かつて犬を飼育+男性」という組み合わせの場合に限り死亡率のORが0.65になりましたが、統計的なアノマリー(異質分子)ではないかと推測されています。
全死因死亡率に関しては、犬だろうと猫だろうと動物の飼育は数値の変動に関係していないことが明らかになりました。 Evidence that dog ownership protects against the onset of disability in an older community-dwelling Japanese population.
Taniguchi Y, Seino S, Headey B, Hata T, Ikeuchi T, Abe T, et al. (2022) , PLoS ONE 17(2): e0263791, DOI:10.1371/journal.pone.0263791
犬を飼うと寿命が伸びる?
犬や猫の飼育が高齢者の健康状態に及ぼす影響を調べた結果、現在犬を飼育している場合、要介護認定率が低くなるという関係性が認められました。
犬の飼育とフレイル予防
上記した関係性を原因と結果からなる「因果関係」と想定すると、犬の飼育→散歩(運動)時間の増加→フレイル予防→認定率低下といったメカニズムが考えられます。ここで言う「フレイル」(frailty)とは健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことです。
過去に行われた調査でも「犬の飼い主が年齢ごとに推奨されている運動量を満たしている割合は非飼育者の4倍」とか、「中等度の運動である犬の散歩はフレイルに対する予防的な効果ある」といった報告があります。また当調査内でも「現在犬を飼育+運動習慣あり」の層で認定リスクの低下が認められましたので、因果関係として直感的に理解しやすい部類に入るでしょう。
過去に行われた調査でも「犬の飼い主が年齢ごとに推奨されている運動量を満たしている割合は非飼育者の4倍」とか、「中等度の運動である犬の散歩はフレイルに対する予防的な効果ある」といった報告があります。また当調査内でも「現在犬を飼育+運動習慣あり」の層で認定リスクの低下が認められましたので、因果関係として直感的に理解しやすい部類に入るでしょう。
犬と高齢者の社会的孤立
少し意外な発見としては「近隣住人との関係性によって要介護認定リスクのORは変わらない」というものが挙げられます。過去に行われた調査では「文化活動やコミュニティグループへの参加といった社会的な活動が障害リスクを下げる」と報告されていますので、近所付き合いが薄い社会的に孤立した高齢者では認定リスクが上がりそうなものです。
調査チームは、他者との関わり合いに何の効果もないと解釈するより、犬の飼育が孤独のもたらすネガティブな影響を相殺し、リスクの軽減につながっているのではないかと推測しています。
調査チームは、他者との関わり合いに何の効果もないと解釈するより、犬の飼育が孤独のもたらすネガティブな影響を相殺し、リスクの軽減につながっているのではないかと推測しています。
犬の飼育と健康寿命
もう1つ意外だったのは「犬の飼育も猫の飼育も全死因死亡率とは無関係」という事実です。過去の調査では「犬の飼育が心血管系疾患や全死因死亡率を下げる」とか「社会的に孤立した高齢者の心理的な幸福感とフレイルの開始が反比例する」いう報告があり、犬を飼うと何となく長生きできそうな印象を受けます。
その一方、当調査と同じように「犬の飼育と死亡率とは無関係」という結論に至った調査報告もありますので、「犬を飼うと寿命が伸びる」のではなく「犬を飼うと健康寿命が延びる」と表現した方が真実に近いのかもしれません。
その一方、当調査と同じように「犬の飼育と死亡率とは無関係」という結論に至った調査報告もありますので、「犬を飼うと寿命が伸びる」のではなく「犬を飼うと健康寿命が延びる」と表現した方が真実に近いのかもしれません。