トップ2022年・犬ニュース一覧7月の犬ニュース7月17日

極度の怖がり犬でもしつけ直しで譲渡可能犬に変身できる

 保護犬の収容施設において「譲渡不可」と判断され、殺処分(安楽死)の対象となりやすい極度の怖がり犬。時間と労力をかけて治療に取り組めば、高い確率で克服できることが明らかになりました。

恐怖症治療プログラムと犬の譲渡率

 2013年から2020年までの期間、ASPCA付属の問題行動リハビリセンター(BRC)において極度の恐怖症に対する行動治療プログラムを受けた400頭超の犬を元データとし、治療効果に影響を及ぼす因子が分析されました。治療が行われた場所は2013~2016年の期間はニュージャージーにある施設(収容数30頭)、2018年からはノースカロライナの施設(収容数65頭)です。
 分析対象となったのはASPCAもしくは協力関係にある官民の保護施設において虐待やネグレクトが認められた犬441頭。オス188頭+メス253頭、5~11ヶ月齢が12%(52頭)、1~7歳が83%(368頭)、7歳超が5%(21頭)という内訳です。また犬たちの来歴は以下。
恐怖症を示す犬の来歴
  • ホーダー:36%(159頭)
  • 野良:17%(76頭)
  • パピーミル:15%(66頭)
  • 虐待やネグレクト:12%(53頭)
  • 飼育放棄:6%(28頭)
  • 闘犬:5%(21頭)
  • その他:9%(38頭)
極度の恐怖症
当調査においては以下の条件を満たすときに「極度の恐怖症」と判断され、治療プログラムに組み入れられました。
✓虐待やネグレクトを受けたか受けた可能性が高い
✓身体的には健康
✓不妊手術済み
✓寄生虫予防とワクチンを受けている
✓家庭犬として譲渡することができないほど重症
✓恐怖に関連したボディランゲージを実際に示している
✓恐怖症以外の問題行動(リソースガード・他の犬への攻撃・分離不安など)が認められない
✓攻撃的にならない
 データを解析した結果、両施設における最終的なプログラム修了率は86%(380/441頭)、治療に要した平均日数は96日、治療に要した平均セッション数は78回と算定されました。また修了犬全体の譲渡率は99%で、追跡調査可能だった里親137人における満足度(とても満足+おおむね満足)は96%に達しました。
 こうした結果から調査チームは、時間と労力はかかるものの、これまで治療不可として安楽死に直行していた犬たちにも、家庭犬として第2の犬生を送るチャンスが十分にあるとしています。
Behavioral rehabilitation of extremely fearful dogs: Report on the efficacy of a treatment protocol
Applied Animal Behaviour Science 254 (2022) 105689, Kristen Collins, Katherine Miller, et al., DOI:10.1016/j.applanim.2022.105689

恐怖症治療の効果と実用性

 「他の問題行動を抱えてない」という条件付きではあるものの、犬の恐怖症に特化した治療プログラムにはある程度の効果が見込めるようです。

恐怖症治療の効果

 統計的に調べたところ、犬たちの年齢、性別、犬種、来歴は治療成果(改善の度合い・修了率・譲渡率)の予見因子にはなっておらず、治療プログラムを受けた犬では行動指標において有意な改善(GradeD→B/Grade1→3)が見られました。具体的には、修了犬に限定した場合が1.24ポイント(初回評価平均1.64→最終評価平均2.88)、修了には至らなかった犬の場合が0.71ポイント(1.27→1.98)というものです。
 また収容から治療開始までのタイムラグは最終的な修了率に無関係でしたが、収容後すぐに治療を開始したグループ(収容5日目)では2回目の行動評価時(収容25±3日目)における成績が治療を保留したグループより有意に高いことが明らかになりました。
 こうしたデータから、収容後すぐに治療プログラムを開始すれば、最終的な修了率を損なうことなく恐怖症の犬たちを譲渡にまで導ける可能性が示されました。

恐怖症治療の実用性

 中等度~極度の恐怖症を示す割合は、保護施設に収容された犬の6~15%とされています。こうした犬たちは症状の重さから生活の質が低下したり身体的健康が悪化するだけでなく、里親が見つからず安楽死という転帰をとることが少なくありません。
 今回の調査により3ヶ月という長丁場の介入が必要になるものの、恐怖症を示す犬であっても十分に家庭犬として譲渡できる可能性が示されました。施設における収容数が減り、スタッフが1頭の犬に投資できるリソースが増えれば、日本においても実現可能でしょう。
 今調査において具体的に採用されたのは、系統的脱感作と拮抗条件付けを主軸とした治療プログラムです。具体的には里親宅における日常生活を想定し、以下のような項目が含まれます。
行動治療プログラム
  • 頻度1回のセッションは15分/週に5回
  • 内容見知らぬ人との挨拶と交流、人とのふれあいと親交(接近・ほめる・なでる・触る・遊ぶ・拘束)、クレートや車内への閉じ込め、リード装着と散歩、ハンドリング。新しいものへの馴化では「禅の時間」が設けられました。これはスタッフが昼休憩に入ったタイミングで犬舎内に一般家庭でよく聞かれる日常音を小さく流すというものです。その後、ガジガジ噛むことができるおもちゃが与えられ、スタッフたちの立ち入りは一切禁止されました。
  • 社会的促進セッションには必ず恐怖症を抱えていないヘルパードッグが付き添いました。
  • 薬理学的補助治療効果を高めるため選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)であるフルオキセチン(2mg/kg・経口・毎日)および抗てんかん・抗不安薬であるガバペンチン(2×15mg/kg・経口・毎日)が処方されました。
怖がり犬を対象とした過去の調査でも、社会的(生き物に対する)恐怖症は人との交流、非社会的(生き物以外に対する)恐怖症は脱感作によって改善すると報告されています。 生き物以外に対する犬の怖がりは改善できる 怖がり犬の譲渡率を高めるコツは動物保護施設における人との交流