無誤謬学習とは?
「無誤謬学習」(むごびゅうがくしゅう, errorless learning, 無誤学習とも)とは、2つの選択肢の中から1つの正解を選び出す際、誤りを通じて正解を導き出すのではなく、最初から自然に正解を選び出すようデザインされた学習法のこと。
例えば緑のパネルと黄色のパネルがあり、緑をつつくと餌が出るとします。あらかじめ緑パネルと餌の関係性をハトに学習させた上で目の前に2色のパネルを同時に提示すると、ハトはどういうわけか緑だけでなく黄色のパネルもつつこうとします。これが「誤謬(error)」です。 ではいきなり2つのパネルを並べて提示するのではなく、「見えないくらい薄い黄色→ちょっと見える黄色→だいぶ見える黄色→完全に見える黄色」という具合に、刺激強度を少しずつ上げながら提示したらどうなるでしょう?
ハトはもっぱらはっきり見える緑のパネルだけをつつき、ぼんやりとしか見えない黄色のパネルはほとんどつつかなくなります。興味深いのは、黄色パネルが緑と同じくらいはっきり見える状態になってもこの選好が維持される点です。言い換えると「間違えることなく正解だけを選び続けることができるようになった(=無誤謬学習が成立した)」となります。
ここまで聞くと何となく犬のしつけに応用できそうな気がしますが、具体的にどのような可能性があるのでしょうか?
例えば緑のパネルと黄色のパネルがあり、緑をつつくと餌が出るとします。あらかじめ緑パネルと餌の関係性をハトに学習させた上で目の前に2色のパネルを同時に提示すると、ハトはどういうわけか緑だけでなく黄色のパネルもつつこうとします。これが「誤謬(error)」です。 ではいきなり2つのパネルを並べて提示するのではなく、「見えないくらい薄い黄色→ちょっと見える黄色→だいぶ見える黄色→完全に見える黄色」という具合に、刺激強度を少しずつ上げながら提示したらどうなるでしょう?
ハトはもっぱらはっきり見える緑のパネルだけをつつき、ぼんやりとしか見えない黄色のパネルはほとんどつつかなくなります。興味深いのは、黄色パネルが緑と同じくらいはっきり見える状態になってもこの選好が維持される点です。言い換えると「間違えることなく正解だけを選び続けることができるようになった(=無誤謬学習が成立した)」となります。
ここまで聞くと何となく犬のしつけに応用できそうな気がしますが、具体的にどのような可能性があるのでしょうか?
犬における無誤謬学習
犬における無誤謬学習の可能性を検証したのはオーストラリア・アデレード大学のチーム。リクルートした犬たちをランダムで4頭ずつからなる2つのグループに分け、一方は青パネルを正解、もう一方は黄色パネルを正解と設定し、それぞれの正解パネルを鼻先でタッチすると餌が出てくるという関係性を学習させました。
実験方法
各グループをさらに2頭ずつに分け、一方は無学習(=介入しない)、もう一方は無誤謬学習セッションを挟み、最終的には全頭に弁別テストを受けてもらいました。
- 無誤謬学習先述したハトの実験と同様、正解パネルの横に様々な濃度の不正解パネルを提示する。具体的には明度20%(5回提示)→ 明度40%(5回提示)→明度60%(5回提示)→明度80%(5回提示)。
- 弁別テスト明度が等しい正解パネルと不正解パネルを同時に提示し、犬が自発的にどちらを選ぶかをカウントする。また同時に、テスト中における犬のストレス度を事前にリスト化したストレス行動(クンクン鳴き・口なめなど合計9項目)から客観化する。
実験結果
「10回中8回以上正解 × 3連続」をマスター基準とした場合、無介入グループの合格率が25%(1/4頭)だったのに対し、無誤謬学習グループのそれは75%(3/4頭)でした。
テストを同一回数行った際の平均正解数と不正解数を比較したところ、無誤謬学習グループの方が統計的に有意なレベルで正解数が多いと判断されました(※不正解数に統計差なし)。
またテスト中のストレス反応を平均化したところ、無介入グループの方が統計的に有意なレベルで多いと判断されました。さらにどちらのパネルも選ばない「無反応」に関しても「無誤謬学習<無介入」という統計差が確認されました。 Comparing trial and error to errorless learning in domestic dogs
テストを同一回数行った際の平均正解数と不正解数を比較したところ、無誤謬学習グループの方が統計的に有意なレベルで正解数が多いと判断されました(※不正解数に統計差なし)。
またテスト中のストレス反応を平均化したところ、無介入グループの方が統計的に有意なレベルで多いと判断されました。さらにどちらのパネルも選ばない「無反応」に関しても「無誤謬学習<無介入」という統計差が確認されました。 Comparing trial and error to errorless learning in domestic dogs
犬における無誤謬学習の実用性
無誤謬学習は1950年代、アメリカの心理学者Charles Fersterによって発案された概念ですが、現在人を対象とした応用はパーキンソン患者や記憶障害を抱えた人のリハビリなどに限定されています。
犬のしつけに応用できる?
犬を対象として無誤謬学習の効果を検証した調査はほとんどなく、人間の場合と同様応用できる状況はかなり限定的です。例えば今調査では無誤謬学習が学習速度の向上とフラストレーションの防止に寄与している可能性が示されましたので、「嗅覚で特定の匂いを弁別する捜査犬」などの訓練には応用できるかもしれません。
実際、新型コロナウイルスに感染した患者から採取した尿と唾液を練習サンプルとし、9頭の犬を対象として無誤謬学習を行ったところ、高い精度で嗅ぎ分けることができるようになったとの報告があります(:J.L. Essler, 2021)。ちなみにこの報告内における不正解刺激(非感染者の尿臭)は、容器の穴の数を少しずつ増やすという形で正解刺激(感染者の尿臭)と同等の刺激強度に調整されました。
実際、新型コロナウイルスに感染した患者から採取した尿と唾液を練習サンプルとし、9頭の犬を対象として無誤謬学習を行ったところ、高い精度で嗅ぎ分けることができるようになったとの報告があります(:J.L. Essler, 2021)。ちなみにこの報告内における不正解刺激(非感染者の尿臭)は、容器の穴の数を少しずつ増やすという形で正解刺激(感染者の尿臭)と同等の刺激強度に調整されました。
無誤謬学習のメリット
いくつかの反証はあるものの、無誤謬学習には長期的な弁別能力の獲得に寄与することのほか、選んではいけない方の中立刺激に対してネガティブな感情を抱かずに済むことがメリットと考えられています。
今調査を例に取ると、青パネルにタッチするとご褒美をもらえる犬が、黄パネルに対して負の感情を抱かずに学習できるということです。「ごほうびをもらえない」という予測が犬のフラストレーションにつながるのであれば、「黄パネルを選んだけれどもごほうびをもらえなかった…」というがっかり体験は繰り返さない方が良いかもしれません。ただし人間で言う「ヌルゲー」のように、余りにも簡単すぎてつまらないと感じる犬がいるのだとすると、逆に試行錯誤型学習の方がよいということになります。ここには犬の個性が関わってきますので、どちらがベターかを断言するのは難しいでしょう。
今調査を例に取ると、青パネルにタッチするとご褒美をもらえる犬が、黄パネルに対して負の感情を抱かずに学習できるということです。「ごほうびをもらえない」という予測が犬のフラストレーションにつながるのであれば、「黄パネルを選んだけれどもごほうびをもらえなかった…」というがっかり体験は繰り返さない方が良いかもしれません。ただし人間で言う「ヌルゲー」のように、余りにも簡単すぎてつまらないと感じる犬がいるのだとすると、逆に試行錯誤型学習の方がよいということになります。ここには犬の個性が関わってきますので、どちらがベターかを断言するのは難しいでしょう。
無誤謬学習は「ある特定の刺激を紛らわしい刺激から確実に区別してほしい」という状況で応用できます。紛らわしい方の刺激強度(視覚的・嗅覚的・聴覚的)を段階的に高めることで正解の方だけに反応しやすくなります。